第4話 残酷な現実と未来


 誕生日ってなんだろう。


同じ学校のクラスの他の子は、家族からお誕生日をお祝いされて、誕生日プレゼント貰って喜んでいたのに。


僕にはそんな思い出がない。


僕の誕生日だから、お仕事?で忙しくていつも家にいないお父さんが久しぶりに帰ってくるらしいと、母親から聞いていたから。


いつも勉強しろとか、東大?に入れって言ってくるお父さんに褒めて貰いたくて、勉強頑張ってテストで頑張って、100点は取れなかったけど、90点は取れたよ。


褒めて貰えるのを期待して、お父さんが帰って来て、それを伝えたら怒られちゃった。

そして、お父さんはまた、すぐにどこかに行っちゃった。


なんで、他の子みたいに褒めてくれないんだろう。


なんで、他の子みたいにお誕生日お祝いしてくれないんだろう。


玄関で泣き叫ぶ僕を見て、お母さんは優しく僕を後ろから抱きしめた。


お母さんの温もりが暖かった。


僕は、更に泣いた。


お母さんも泣いていた。


2人で泣いていた。


次の日の朝、キッチンで朝ごはんを作っていたお母さんの寂しそうな背中を見た。

お母さんは、まな板の上の長ネギを包丁で切りながら、背中を見ていた僕に背を向けたまま話始めた。


「博隆。お父さんから連絡があってね。また、しばらく帰って来れないみたい」


それを聞いて僕は静かにうなづいた。

お母さんは、話を続ける。


「後ね。お父さんの方から、苗字を私の昔の苗字に変えてくれってさ。博隆。あなたは、少ししたら、真田博隆から八木博隆になるの。もし、学校とかでからかわれたらごめんね…」


お母さんの言ってる意味が、小学生の僕にはよく分からなかった。ただ、泣きそうな声で、震えながらお母さんが言ってるという事は分かった。


だから、僕は、お母さんを慰めようという気持ちが強くなって力強くお母さんに言った。


「大丈夫だよ!お母さん!お父さんいつも、僕に勉強しろとか、東大に入れとか言ってたから、僕が勉強うーんと頑張って東大に入れば、お父さん戻って来てくれるよ!」


その僕の言葉を聞いたお母さんは、長ネギを切る包丁の手を止め、泣き出してしまった。


「ありがとう…博隆」


崩れ落ちて泣き出してるお母さんの背中を、今度は僕がそっと抱きしめた。


その日から、僕は、東大に入ってお父さんが家に帰って来てくれるように、機械みたいに勉強を頑張った。



だけど、この世の中は残酷で、僕が次に父親と再会する事になるのは、これから20年後の変わり果てた父親との再会となる事をその時の僕は知るよしもなかった。


つづく


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Sell Hope〜希望を捨てた少年〜 山羊 @yamahituzi

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