第3話 父親と息子


「どうやって恩返しをすればいいか悩んでいる時にあなたにお会い出来てよかった」


コンビニの事務所の一室でこのコンビニのオーナ-の男は、机を挟んで目の前に座っている二人のスーツを着た男に頭を下げる。


「こちらこそあなたにお会い出来てよかった。あなたが教えてくれた情報で真実にたどり着けるのだから」


大柄のスーツを着た男は、オーナーに軽く会釈をした。


その大柄のスーツを着た男の付き添いで隣に座っている猫背の薄ら笑いをしているように見える顔をしている男も無言でオーナーに会釈をした。


話し合いが終わり、コンビニを後にした大柄のスーツの男と猫背の薄ら笑いを浮かべたように見える顔の男。


「いやー、真田会長。無事にたどり着けて良かったですね」


薄ら笑いを浮かべた男は、大柄スーツの真田という男に、言った。

それに対して、真田は無表情で返す。


「本当の勝負はこれからだよ。金田くん。テンダー会プロジェクト情報流出事件の真犯人は分かった。だが」


「上妻の交流関係ですよね」


「そうだ。今夜、勝負を仕掛ける予定だが、この結果次第では、今後、私達はしばらくご隠居生活しなければならない。上妻の仲間の報復から身を守る為に」


「ははは。覚悟してますよ。私は大丈夫ですけど、真田会長は大丈夫なんですか?今日、息子さんのお誕生日でしょ」


覚悟しているという発言とは裏腹に、冷や汗をかいて不敵な笑みを浮かべている金田。

その本音を見抜いてか、真田は薄ら笑いを浮かべて金田に言う。


「君とは、長年の付き合いだから分かるよ金田くん。本当は、行きたくないだろ。付き合わせて悪かったな。」


「いやいや。見抜かれてるとは。でも、私も長年の付き合いなんで分かりますよ。そんなこと言いつつ同行させられるんでしょ」


「ははは。見抜かれ返しされちゃったな。その通りだ。家族を守る為に、私たちの今後の行動は二人だけの秘密だからな」


「わかってますよ。もし、この騒動が落ち着いて、テンダー会本部に戻れたら、私の役職を名誉教授にしてもらうぐらいの約束をしてもらわないと」


「大丈夫だ。約束する。お互いに生きてたらな。頼みがあるんだが、最後かもしれないから、一瞬だけ家族に会わせてくれ」


「冗談か本気か分からないんだから..」


金田の顔は冷や汗でびしょぬれになっていた。



真田は、自分の家の前に着いた。

金田は、その近くで背筋を伸ばして待とうとしていたがどうしても猫背の癖が抜けないのか背を丸めてしまっていた。


家の扉を開けた瞬間、真田の子供の小学生ぐらいの男の子が玄関に走ってきて笑顔で父親を出迎えた。


「ぱぱー!おかえりー!ねえ、ぱぱ!僕、今日、小学校で、90点取ったんだよ!」


純粋無垢に笑顔で出迎える息子に対して、父親の真田は、真顔で怒鳴りつけた。


「おい!博隆!90点!?ふざけんな!そんなんで、自慢しようとするな!勉強しろ!勉強して100点取れ!勉強して勉強して東大に入れ!それが出来るまで俺に自慢しようとするな!」


父親は息子を怒鳴り付けた後、家の扉を強く閉めて家から立ち去った。


ドアが閉まる直前にかすかに見えた誕生日に怒鳴り付けられて、泣きじゃくっていた息子の姿が父親の脳内に強く残っていた。


外で待っていた金田は、真田に問いかける。


「怒鳴り声、聞こえましたよ会長。息子さん誕生日なのにあんな感じでいいんですか?」


「ああ。これで息子と会えるのも最後かもしれないしな。変に優しくしても、俺にとっても息子にとっても会えなくなった時の精神的辛さが大きくなる」


「なるほどです会長。まあ。こんな顔ぐしゃぐしゃにして泣いている会長の姿を見るのも最後かもしれないですしね」


金田は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしている真田の顔を見て、薄ら笑いを浮かべながら言った。


真田は、ハンカチで涙を拭きとり、気を引き締めて、歩き出す。


「さあ。行こうか。一世一代の最後の勝負へ・・・」


つづく

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