第44話 ピラミッド

  朝食ブッフェを堪能した後、私達はホテルを出てピラミッドへ向かった。チケット売り場でピラミッドエリアの入場券とクフ王のピラミッドの入場券を手に入れ、観光バスの間をすり抜けてピラミッドに近づいた。ホテルから見るピラミッドも迫力があったが、真横で見ると、更に凄い。もちろん、初めて見た時の感動とは異なるが、何度来ても、その巨大さには圧倒され、感動するのだ。


  クフ王のピラミッドに入るのに、ピラミッドの壁を少し登った。ほんの数段でもかなりの高さで、何度登っても驚かされる。中に入り、細い通路の階段を進み、階段を登っているのか降りているのかも解らないような、錯覚を覚えた頃、石棺のある『王の間』に到着した。特に何かが石棺の中にあるわけではない。ただ、大きな空洞がピラミッドの中にあることを味わうだけだ。それでも、あの巨大な石を積み上げて作った中に、大きな空洞を作れた古代人の英知を思うと、空恐ろしいとすら感じてしまう。王の間の中心に立ち上を見上げると、押しつぶされそうな重力すら感じる気がした。

  楓も何かしらを感じていたのか、ピラミッドの中では殆ど喋らなかった。ピラミッドの外へ出て初めて、

「久しぶりに入ったけど...やっぱり何かゾワゾワした。」

と、外の空気を吸い込みながら言った。クフ王のピラミッドを出て、私達はピラミッドの周りを歩いた。ラクダに乗った警備の警察官が通り過ぎた。ピラミッドの周りでは、お土産を売る子供達や、観光客をラクダに乗せて記念撮影をして稼ぐおじさんがウロウロしている。ラクダに乗るかと楓に聞いたが、前に来た時に乗ったし、臭くなるからいらない、と笑った。


  その足で『太陽の船』の博物館にも立ち寄った。分解された状態で石坑に封じられていたものがギザで発掘され、発掘、復原されて展示されているのだ。この太陽の船は色々な解釈があり、どれも確定では無いため、それを楓に説明するのは気がひけたので、博物館に掲示されついる内容だけを掻い摘んで説明するに留めた。

  私達は、3つのピラミッドと太陽の船の博物館を後にして、町の方へ歩き出した。人混みに近づくにつれ、自然と私は楓の手を取って繋いでいた。

  ピラミッドの片側は砂漠だが、もう片側の景色はギザの町だ。人が住む家、レストラン、ホテル、ファーストフード店、そして行き交う車やトラック。古代の遺跡が町に溶け込んでいること感じる風景だった。町に比較的近い場所にスフィンクスがあるのだ。

  体がライオンで頭部が人間の半身半獣という不思議な姿のスフィンクスは国によって違う意味を持っていた。『朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足となる生き物は何か』という謎を旅人に投げかけ、答えられなかった者を喰らうという有名な話があるが、それはギリシャの神話だ。ギリシャでスフィンクスは怪物であり、子供を拐う魔物と考えられていた。エジプトでのスフィンクスは、ファラオの守護神であり、権力の象徴だった。だから、神殿なと至るところにスフィンクスが置かれていたのだ。楓は、スフィンクスを可愛い、と言った。尻尾が可愛いのだと。学問を通さずに見る楓の感想はいつも、私にとって新鮮で貴重だった。

  スフィンクスを眺めていた時、突然肩を叩かれて振り向いた。同じ考古学部の仲間がいて驚いた。彼女は楓を見て軽く挨拶をすると、私に

「まさか、彼女がいるとは思わなかった!」

と耳打ちをしてきた。私はそこで初めて、楓と手を繋いだままだと気づいた。

「彼女、誕生日なの。...皆には秘密ね?」

と言うと、彼女はウインクをして、楓に誕生日おめでとう、と声をかけ、記念写真を撮ってあげると楓のカメラで私達の写真を撮ると、嵐のように去っていった。その後ろ姿を見送りながら、楓が言った。

「大学の人?」

「うん。考古学部のね。」

「バレちゃった、よね?」

「うん。」

「良かったの?その...女同士なのに。」

「別に...構わない。」

「...なんか嬉しい。」

「何が?」

「否定しなかったから!」

「...そりゃ、私は自分からは言わないけど、彼女かって聞かれたら否定はしないよ。」

そう言うと、楓は嬉しそうだった。時計を見ると12時を少し過ぎていた。

「ホテルに戻って、ランチしようよ。」

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