第45話 香水瓶
ホテルに戻り、ホテルの中にあるレストランでランチを取ってから、また外に出た。ホテルを出る前に、フロントにミニヤで楓が受け取った香油店のショップカードを見せ、場所は把握していたから、迷うこともなく、店にたどり着いた。
店に入ると、ガラスのショーケースに薬品ボトルのような瓶が、ズラリと並んでいた。奥まった別部屋に、香水瓶等が並んでいるのが見えていた。
私達が入ってきたことに気づいた小太りのおじさんが出迎えてくれた。少しアラビア語訛りが強いが、英語はかなり話せるようで、ここの店主であるらしかった。ミニヤのお店から紹介されたと伝え、貰っていた名刺を見せると、大変喜んでくれた。ミニヤではどんな香油を買ったのかと聞かれて伝えると、頷き、ガラスケースから幾つかの瓶を取り出して私達の目の前に並べた。
「これが、君たちが買った物と同じだ。そして、これが、ブルーロータスの精油。こっちがムスクだ。この2つだけをブレンドするのも、君たちの好みに合うと思うよ。」
そう言って、目の前で少しだけ調合して見せてくれた。良い香りが漂った。
「ベルガモットある?足したらどうなるかな?」
「爽やかな方が好きか?」
そう言うとおじさんは新しいボトルを出して、調合してみてくれた。
「これ、素敵な香りじゃない?」
楓がそう言い、私は頷いて、
「じゃあ、この調合のを、1瓶お願いします。」
「80ミリだけど良いか?」
私は頷いた。
「香水瓶とガラスのディフューザーも見たいんですが。」
「隣の店で売ってるよ!店の中が繋がってるから、そこから行きなさい。ブレンドが終わったら持っていくよ。」
と、隣を指差し、向こうにいた男性に声をかけた。てっきり繋がっているから同じ店かと思ったら違う店だとは予想外だった。声をかけられた男性が、どうやら香水瓶の店の店主らしかった。
香油は私が買う、と楓が支払いを済ませ、私達は隣の店へ続くドアをくぐった。所狭しと並べられたガラスの香水瓶が、キラキラと輝いていて、綺麗だった。地元のガラス職人がバーナーを操って、1つ1つ丁寧に手作りをしたもので、作っている様子を写した写真が店内に飾られていた。小さい香水瓶だと高さは7、8センチで、大きなものだと30センチを超えていた。
一般的な香水瓶は小さめでシンプルだが、可愛らしさがあり、流石はエジプトの工芸品だと納得できた。このシンプルな香水瓶はお土産にも良いな、と思いながら楓を見ると、彼女は椰子の木を模した香水瓶に惹かれたらしく、それを手に取っていた。15センチほどの大きさで緑、赤、金の着彩を上手く合わせ、椰子の木だとひと目で判るデザインだった。
「あ、ラクダのも可愛いな...。」
少し小ぶりのラクダの形をした香水瓶で、ゴールドだけの着彩でシンプルに仕上げたデザインだった。
(両方買ってあげるのに...)
と思いながらも、右手にラクダ、左手に椰子の木を持って悩んでいる様子の楓が可愛くて暫く眺めていた。しかし、あまりに長い間迷っているので声をかけた。
「両方買うから、悩まなくていいよ?」
「え...でも。レイのも欲しいから、そしたら4つになっちゃう。」
「...お揃いで買うつもりだったの?」
「うん。」
楓の誕生日プレゼントだと言ったのに、私の分までそれに含めようとしていたとは、と笑ってしまった。
「いいんじゃない?4つでも。好きなの選んで?微妙にひとつひとつ違うから。」
暫く香水瓶と睨めっこをしていた楓が選んだ4つの香水瓶を店主に渡した。
私達はディフューザーの並びに移動した。アラビアンランプのようなデザインが多く、私はディズニーのアラジンを連想した。楓が振り返り、
「赤と紫、どっちが良いかな?」
と2つのディフューザーを私に見せた。
「どっちも綺麗だけど...赤かなぁ。」
楓はシンプルで丸みを帯びたデザインの赤いディフューザーを選び、店主に手渡した時、隣から香油店のおじさんが来て、アラビア語で香水店の店主に、ミニヤの工場からの紹介だから安くな、と声をかけた。私達がアラビア語がわからないと思ってるのかな、と思ったが、わざわざそれを判らないように伝えてくれている優しさが嬉しかった。値切り交渉を考えていたが、必要なさそうだったので、言われたままの額を支払った。ハンハリーリ等の市場で交渉して買うのと変わらないな、と正直驚いた。香油店のおじさんが、楓に香油を手渡し、また気に入ったら来てくれと言った。そして、香水瓶屋の店主から、丁寧に梱包された香水瓶とディフューザーを受け取ると、私達は店を出た。
店からホテルへの道を歩きながら、楓が言った。
「どこかに出かける度にお揃いのものが増えるって嬉しいね。」
私が頷くと、さらに彼女は続けた。
「誕生日とかのプレゼントを一緒に選ぶって、レイの誕生日の時も思ったけど、すごく良いよね。サプライズでも嬉しいけど、一緒に選んでる時間も楽しいから。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます