第13話 耳たぶ

  こんなキッチンのど真ん中で、なんで怒られることになったんだろう。ポケットに入れていたプレゼントの箱がなんとなく重く感じた。いや、それよりも。つまり、そもそも、片思いじゃなくなっていたのに、何故あんなに悩んで苦しんでいたんだろう。馬鹿なのか、私は?

  一方で、結果オーライだと思った。楓が私のことを好きだってわかったのだから。ただ、どうしても確認しておきたかったことがあった。きっとそれは、私が抱えてきたトラウマのせいだ。

「後悔しない?不毛だとか思わない?周りが

 知れば、仲良くしてた人達から軽蔑される

 かもしれない。白い目で見られて、嫌がら

 せを受けるかもしれない。それでも?」

「不毛だなんて思わないし、周りから何言わ

 れたって、そんなの気にしない。そんなこ

 と心配してたの?」

「責任感じちゃうから。楓をこっちの世界に

 引き摺り込んだのは、私だから。」

「嫌なら最初から受け入れてないよ」

優しい目だった。私は嬉しくて、涙が出そうになった。それを察したのか、楓は私をキッチンから追い出した。

「さ!片付けしちゃうから、あっち行って

 て。」

「手伝うよ?」

「いいから。今横にいたら、照れちゃう

 し!」

「じゃあ...シャワー浴びてくる。」

私は自室に引き上げた。途端に、半端ない嬉しさが込み上げてきて、ニヤけるのが止まらなかった。

(落ちつけ、私。)

バスルームに入り、最初に冷たい水を頭から浴びた。冬場の冷水にも関わらず、不思議と冷たすぎるとは感じなかった。数十分の間、私はそのまま冷水を浴び続け、少しずつ落ち着いてくるのを自覚し、お湯に切り替えた。


  自室を出て、楓を探した。バルコニーにいることに気付き、プレゼントを手にバルコニーに出た。彼女もシャワーを浴びたのか、バスローブ姿で髪が濡れたままだった。

何も言わず、バルコニーに出る扉にもたれて、煙草に火をつけ、深く吸い込んだ。頭が冴える気がした。

「レイの煙草の匂い、嫌いじゃないな。」

振り向いて笑った楓に、プレゼントを差し出した。

「クリスマスプレゼント。楓に。」

「え...嬉しい。開けてもいい?」

頷くと、バルコニーのテーブルセットで開き始めた。

「綺麗...」

箱を開けた楓は、嬉しそうだった。ネックレスを手に取ると、自分に合わせて、どう?と私に聞いた。

「似合ってる。つけてあげようか?」

彼女の手からネックレスを受け取り、彼女の首元に付けた。そして、ピアスも。彼女の左耳に触れた時、彼女がビクッと震え、その反応に思わずクスリと笑ってしまった。

「耳弱いんだ?」

「...うるさい。」

「ほら、鏡、見てきたら?」

「うん。」

彼女は小走りで室内へ入っていった。煙草の火を消し、後を追うように室内へ入ると、彼女は自室の鏡の前に座り、身につけたアクセサリーを眺めていた。私は彼女の後ろに立ち、鏡の中の彼女を見ていた。クリスタルは勿論だったが、彼女の首筋にあるゴールドのチェーンが艶かしく、目を逸らすことができなかった。

「私、何も用意してない...ごめん、レイ。」

「ん?気にしない、気にしない!今からいた

 だくし。」

「本っ当にそういうこと、サラッと言うのズ

 ルイ!」

彼女は立ち上がり、部屋の電気を消すと私に抱きついた。

「そうやって、可愛くなったり、急に大人び

 たりする方がズルイけどなあ...。」

そう言って、私は彼女をベッドに押し倒した。月明かりだけになった室内で、彼女の肌にネックレスとピアスが絡み付いている蛇のように見えた。

「バスローブにアクセサリーだけって、唆る

 よね。」

「そういうの、本当に止めてよ...恥ずかしい

 から。」

「恥ずかしい方が燃えない?」

私は彼女の肩に手を滑らせ、バスローブを脱がせた。日焼けした小麦色とは違う、いつもは隠れている白い肌と胸の膨らみが露わになっていくのが、恐ろしいほどエロティックだった。彼女の耳からピアスを外しながら耳たぶを噛むと、彼女の口から甘い声が漏れた。

「やっぱり耳弱いんだ。」

身体に触れるだけでビクリと反応を見せる彼女を、私は堪らなく愛しいと思った。

「ねぇ、あの日からずっと期待してた?私が

 触れること。」

彼女は答えなかったが、代わりにキスで私の口を塞いだ。黙って、と言われている気がした。

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