第55話 音

隣の部屋から毎夜、毎夜、のこぎりをひくような、奇怪な音が聞こえる。


深夜なので響くのか、ゆっくりと、ぎぃー、ぎぃーという音がしてくる。


最初は椅子にでもすわっているのかと思った。


しかし単調で、一定の間隔で鳴るので、そういうものではないようだ。


それが気になって、夜眠れなくなった。


何をしているのか? 紙コップの底を開けて、それを壁につけて、


耳を当てて、じっくりと聞いてみる。


「ふ~、ふ~……」と、苦し気な呼吸音がする。


あぁ、筋トレをしているのか……。そのときに床が鳴るのだろう。


これで安心してよく眠れそうだ。


そして翌日、ぐっすり眠っていたら、ふと人の気配がして目を覚ました。


隣人が立っていた。私を見下ろしていた。壁に穴が開いていた。


「人のこと、盗み聞きしやがって!」


紙コップでバレた。音を出した方ではなく、聞いていた私の方が悪いようだ。


彼の手には、のこぎりが握られていた……。

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