第34話 落とし物2

小さな女の子が近づいてきた。


「これ、落とし物」


そういって差し出してくるのは、私のものではない財布。


相手は小さな女の子だ。


傷つけないよう、自分のものではないと伝えるべきか?


それとも、ここは一旦預かって、私の方で警察にとどけるか?


「それは私のものじゃないけど、私が預かって警察にとどけるよ」


少女の目が、急に胡散臭いものを見るそれに変わった。


「そういって、自分の懐に入れるつもりじゃないでしょうね?」


口調も大人びたそれに変わった。


「そ、そんなことしないよ。私が信じられない?」


「誰も信じちゃいけないって。お母さんが」


「そう……。じゃあ、お母さんに渡してね」


「お母さんは死んじゃったの」


忘れたい記憶を思い出させて、悪い気がしたけれど、


次の言葉はそれを覆して、私を驚かせるものだった。


「これは、お母さんが暴漢に襲われて、命がけで守ったお財布。


たかがお財布なのに……。だから、命を落とす物、落とし物なのよ」

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