第33話 落とし物

小さな女の子が近づいてきた。


「これ、落とし物」


そういって差し出してくるのは、私のものではない財布。


相手は小さな女の子だ。


傷つけないよう、自分のものではないと伝えるべきか?


それとも、ここは一旦預かって、私の方で警察にとどけるか?


「お嬢ちゃん。ごめんなさい。それは私の財布じゃないの」


少女は不思議そうな顔をして、こちらを見ている。


納得できなかった? 私が言葉を継ごうとすると、少女から語りかけてきた。


「他人のものなんだから、貰っちゃえばいいのに」


少女はそういって、ニコッと微笑んだ。「損したね」


その財布をポケットにしまうと、少女は楽し気に走りだす。


私は追いかけて、その少女をなぐりつけて、財布を奪った。


「いたずらにつかうのではなく、そのまま懐にいれちゃえばよかったのに」


ニコッと笑って「損したわね」


少女は泣くこともなく、立ち上がりながら答えた。


「大丈夫。だってそれは、相手を悪の道に落とすための落とし物だから」

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