第2話 秘密
「TK、やっぱアイツダメっすよ。ハカセの野郎は」
「ああ、ダメだろうな」
「……切り刻んで貧窮センターの倉庫の前に放置でいいっすか」
「ダメだ」
「……」
「トンカツ、ジュース買ってこい」
「……はい」
しょっちゅう喧嘩してやがるぜ、野郎ども。まあ、ひ弱で理屈っぽいハカセが豚どもに、もぞもぞ吸い付くノミのごとく嫌われるのはしょうがないってもんだ、そばにいるだけでイライラすんだろう、分かるぜ。だけどな……
**
「TK、よろしいですか」
「ああ」
「私……あのう……ここに居て、いいのでしょうか」
「何だよ、また揉めたんか、野郎どもと」
「いや……はい……」
「だろうな」
「皆さん、私を見ると不快なようです」
「そうだな。飯食う前に医務室行け」
「……」
「ハカセよ。辛いのは分かってるぜ。で、どうすんだよ。病院、戻るのか」
「び、病院! 嫌です!」
「ヤだろうな、逃亡奴隷は特に。問答無用でバラされて、おしまいさ」
「そ、それに私は、ヒトに近いから……」
「知ってるさ。ハカセは長く生きるんだ。俺たちよりもな。だから居てもらわなくちゃ困る。反乱が成功するかどうかは、お前にかかってんだよ、ハカセ」
「……他の方達が、起こすんじゃないんですか、反乱を……私は、弱いですから、何も出来ません」
「……分かってねえな、ハカセ。もっと賢いと思ってたけどな。反乱ってえのを何だと思ってる」
「……暴力による……反乱ですよね」
「違うね。そんなもんは、人間のする事さ。俺たちの反乱は、そうだな。ただ、生きる事にある」
「生きる」
「大事なのはそいつを記録する事なんだよ。ハカセ、分かるか」
「記録……暴力による反乱で無いとするなら、他の仲間たちは納得するのでしょうか」
「そこが、問題だよな」
「……恐ろしいです、私は」
「同感だぜ」
**
俺は聞かれてない事は言わねえ。なぜなら、知識は毒だからな。その毒に耐えうる資格がある奴にしか、本当の話はしねえ。大体、壊れた蛇口の水みたいにダラダラ垂れ流れてきた情報を浴びてよ、そいつが、いいようになった試しがあるか? ねえだろうがよ。そいつにはそいつの、適度な情報ってのがあると思うぜ、俺は。
だから、今から話す事はここだけの秘密だ。誰にも言うなよ。いいか。お前は、いい目をしてっからな。何震えてんだよ、こっち来いよ。
いいか。俺たち豚野郎は、奴隷解放なんて目的で集まって何かやってるがよ。特に意味は無いんだ、実は……おい、驚き過ぎだろ、声がでかい! ……でな、そもそも俺を担ぎ上げて、キング、なんて呼び始めたトンカツの野郎とか……あいつらがただ単に暴れたいだけな豚なのは分かってんだ。でよ、正直な話さ。そんな豚相手に「おう、野郎ども」なんて調子こいてたらよ、何かこうなっちまったのさ。分かるか。現実ってえのは実際、しょうもないもんなのさ。
そういや、ヘナチョコ人間野郎のカニオが、こんな事言ってたんだ。「人間が奴隷を恐れるのは、君たち奴隷に、人間の遺伝子があるからだ。本当は、君たちは
俺たちはな、増えて増えて増えまくってよ、とにかく増えまくればいいのさ。人間は繁殖を嫌って、ブロック組み立てるみたいに……ああ、ブロック知らねえのか、お前。しょうがねえな。まあいいや、でな。粘土こね回すみたいに、子供作るだろ。デザイナーベイビーってやつさ。ああ、今そういう言い方すると、差別なんだっけ、人間どもの間では。……何の話だっけ。ああ、俺たちが増える意味な。うん、もうどうでも良くなってきたから、今日はここまでだな。ジュース飲んで寝ろ。あ? 虫歯だと? ……はいはい、分かったから。行っていいよ、もう。
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