LOST
チョコチーノ
黒い染みを広げる
僕は迷路の中にいた。
人々の叡智が詰まった迷路の中にいた。
壁の一部を引き抜けば、巨大な世界が広っていく。
その世界は、僕を迷路から救ってくれるはずだと信じていた。
僕は魂を削っていた。
誰とも知れない馬の骨に、僕の全てをぶちまけた。
僕の理想や空想、虚構や現実、仮装や存在を黒い滴に託していた。
それを塗り広げていけば、きっと僕も誰かを救えるはずだと信じていた。
僕の声は、何も無い空間に吸い込まれて消えていった。
気づけば僕はまた迷路の中にいた。
そして僕はまたしても救いの手を掴んでいた。
他人の世界ばかり追いかけ、僕はひたすらに出口を目指していた。
僕の目の前に現れたのは、自分の後ろ姿だった。
自分は魂を奪いとる。
我が物顔で他人の言葉を犠牲にし、自分を作り上げていく。
周囲に同調したものばかりをぶちまけて、共感と理解を得ている。
反応が、声が、姿が、僕の背中を押し続けていた。
自分という闇に、僕は消えていく。
自分は迷路の外にいる。
なにも迷うことはない。なにも考えることはない。
ただ世界を貪り喰らうことだけ考えていればいいのだから。
綺麗なものだけを遺して、それをぶちまけるだけなのだから。
ふと体を見れば、たくさんの縫い目が自分を覆っている。
自分を構成しているのは、強固で安定した物ばかり。
綺麗な言葉。
綺麗な世界。
綺麗な英雄。
綺麗な悪役。
綺麗な物語。
綺麗な人間。
どれもこれもが、あらゆる眼を惹きつけている。
自分が求める物は僕の創る物を否定する。
陳腐な言葉。
醜悪な世界。
怠惰な勇者。
陰湿な悪役。
滑稽な物語。
最低な人間。
僕の作り出す世界は、全ての世界に殺される。
その刃が最後に向けられるのは僕だ。
自分はそれから僕を守り、そして殺した。
仮初めの世界で描く黒い染は極彩色に輝きだす。
ならば、それでいい。
それでいいのなら、僕なんて邪魔だろう。
皮を奪い、自分に縫い付け、堂々と歩けばいい。
綺麗な自分だけを魅せ続けるだけでいいのなら。
誰も汚い物は見たくない。
綺麗な物だけ見れればいい。
汚い物が自分たちに与えるのは不快感だけ。
そんなものは認めない。認められるわけがない。
自分が僕を赦すことなど絶対に有り得ない。
自分は迷路の外にいる。
迷路がちっぽけに見えるほど高い場所で、自分は嗤う。
有象無象の無意味な行為を、ただただ嗤っている。
いつしか僕は闇を抜け出した。
僕の目の前に現れたのは、自分の後ろ姿だった。
いまだに僕は、その背中を押せずにいる。
LOST チョコチーノ @choco238
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