第14話

 僕がとう様の硬いお胸に抱かれていると、突然可愛い叫び声が聞こえてきたから、もしかしてこのお声はねえ様かなって思ったらやっぱりねえ様でした。

 かあ様と同じ金色の髪で瞳の色はとう様と同じ碧色、ちょっとつり目で勝気……とう様譲りの凛々しいお顔の僕のねえ様です。


「あー! 父様ずるいですわっ!」


 ねえ様は僕がとう様に抱っこされてるのが不満らしい。

 ねえ様もとう様に好き好きしたいんだよね。

ねえ様も僕と同じでとう様の事大好きだもんね。

 だから僕はねえ様にとう様抱っこを譲る事にしたんだ。

それにどっちかって言うと、かあ様抱っこの方が僕好きだもん。

カタカタよりふわふわの方が、ほわわんっ!てなるもんね。


「かあしゃまっ!」


 僕はかあ様へと両手を広げて抱っこのポーズをする。

そんな僕をとう様は安定のしょぼーん顔で見てる。

大丈夫!ちゃんととう様のメンタルフォローはするよ。


「とうしゃまはねーしゃま抱っこちてあげて。かわりばんこでしゅ」

「……っ! やはりユーリは天使っ!」


 なんかとう様が呟いてたけど、しょぼーん顔からキラキラ顔に変わったから問題ないのです。


「嫌よ! ユーリは私が抱っこするの! 父様と母様ばかり抱っこしてずるいわ!」


 ほわわっ!


 まさかのねえ様からの拒否に、僕はびっくりしちゃった。

 てっきりねえ様はとう様に抱っこして欲しかったのかと思ってたから。

でもそうなると………。

チラッととう様を見るとぜつぼーってお顔をしてた。

ねえ様に断られた事が、しかも嫌って言われた事がショックだったみたい。

 僕、とう様の気持ち分かるよ。好きな人から嫌って言われたら悲しくなって、お胸イタイイタイになっちゃうよね。

だって、かあ様に抱っこを嫌がられたら、僕もぜつぼーを感じるのは間違いないもん。

 だから僕、とう様の変わりにメッ!てする事にしたんだ。

きっととう様はしょぼーんってなったまま、何も言わないで我慢するのを僕知っているから。


「ねーしゃま、メッ!よ。

 とうしゃまに嫌って言っちゃらとうしゃま、悲ちい悲ちいよ。

 ねーしゃまも、僕に嫌って言われちゃら悲ちい悲ちいでしょ?

 とうしゃまにごめんちゃして!」

「ユーリッ!!」


 おうふっ!?


 かあ様に抱っこされる前に、またとう様に力一杯抱きしめられてしまいました。

僕、ぎゅーぎゅーされて、体中イタイイタイです。

 かあ様のぎゅうぎゅうはくるしいくるしいだけど、とう様のぎゅーぎゅーは痛いのです……。


「ううっ。 どうして私がユーリに怒られるの!?

 父様の抱っこがずるいって、言っただけですのに……」

「そうね、シアの言い方が少し駄目だったからじゃないかしら。

 シアだって好きな人に嫌って言われたら悲しいでしょ?

 ユーリは父様が悲しい気持ちになったのを、本当は優しいシアに気付いて欲しくて言ったのよ」

「そう、ですわね……。私が……、私の言い方が間違っていました。すみません、父様。

 父様の事は嫌いじゃないです。す、好きです。でも、ユーリを独り占めしていいわけではありませんわよ!」


 ねえ様のお顔が真っ赤になってるけど、ちゃんとごめんなさい出来たのです。

ごめんなさい出来る子は良い子なのです!

だから、ねえ様も良い子なのです!

 そして僕の体もイタイイタイが限界なのです!

とう様は早く僕を解放するべきなのです!


「シア……。私の天使……っ!父様も勿論シアの事を愛しているよ!

 シャルッ! 私達の子供が天使すぎて……!」


 とう様が何か言ってるけど、僕はもう我慢ができません!


「とうしゃまっ! イタイイタイよ! 僕もう嫌でしゅっ! ぷんぷんでしゅよ!」

「え、えっ!? ユーリ!?」

「あらあら。どうやらあなたの抱きしめる力が強すぎて、ユーリが怒っちゃいましたわ」


 かあ様がクスッて笑ってるけど、笑い事じゃないです。


「ユーリ! 姉様が優しく抱っこしてあげるわ! 父様! ユーリが痛がってるから早く離してあげて!」

「……ああ」


 またとう様がしょぼーんってなったけど、僕は知りません。

だって僕、怒ってるんだからね!

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