第9話 幕間 2
ユーリはまだ三歳の幼児だ。
大人と違って、体力も生命力もかなり弱く、限界なんか直ぐにきてしまうだろう。
あまりに長引くようなら、より万全に診てくれる所へと移動をさせないと命が危険に晒されてしまう。
しかし、移動はさせたくない。ずっとこの邸で、自分の元で療養させたい。
分かっている、それが自分の我儘だとは。
ユーリの為を思うならば、迅速に移動するべきなのだと……。
療養先はもう決まっていた。
そして何時行っても大丈夫な様に、既に準備も万全に整えられている。
先方からは、何時くるのか、迎えを出そうかという催促が段々と増えてきた。それはもう、しつこい程に。
快く受け入れてくれているのは充分に分かっているしありがたいが、出来ればそこには移動させたくない。
移動したが最後、この邸にはなかなか帰らせてくれないのは目に見えているからだ。
それどころか、素直に帰してくれる気があるのかすらも怪しいものだ。
──療養先の主人が殊の外、ユーリに執心しているからな。
自然と深い溜息が出る。
それさえなければ、俺の気持ちももう少し前向きになっていただろう。──多分。
ユーリの為にも一刻も早く移動させるべきだとは分かっている。こんな事で悩んでる時間が無駄であるとも。
そしてその思考が無限ループ状態になっている事も。
そうした己との葛藤が、シャルにも分かっているのだろう。
シャルは何も言わずに、ただ、ユーリに付き添ってくれているが、心労は幾許のものか。
気丈に振舞ってはいるが、やつれてきているのは目に見えて分かる程だ。
そして邸自体も、まるで灯りが消えたかの様に静まっている。他の子供達がいるにも関わらず、だ。
──ここまでだな。
どこかで諦めなければいけないのなら、きっと今なのだろう。
皆がどこかで無理をしている。今はまだいい。でもこれ以上は状況が改善するどころか、更に悪化の一途を辿る事は自明の理だ。
最後にもう一度ユーリの顔を見たら、先方に連絡をするか……。
そうして暗い面持ちのまま腰を上げようとした時だった。
慌ただしく叩かれるノック音と声。
普段はそんな不作法をする人間はこの公爵邸にはいないが、例外があった。
それは、先日ユーリが倒れた時の知らせだった。
今回も同じ状況だという事は、まさかっ!?
一気に血の気が引くのが分かる。
そんな、嘘だと言ってくれ!と、叫びそうになるのをグッと堪え表面上だけでも冷静に取り繕うと、報告を聞いた。
良かった、本当に良かった……。
ユーリが目覚めたと。
そして、意識がちゃんとあり、会話も問題なく出来ていると。
思わず漏れ出た安堵の息と共に、深く椅子に座り込む。
こうしてはいられない。
シャルに知らせを送ると共に先方には一刻も早く断りの連絡を、それと魔術医の手配も必要だな。
そうして来て頂いた魔術医がオリヴァー殿だったのは、間違いなく先方の関与があったからだろう。
まあそれはいい。
魔術医長のオリヴァー殿に見てもらう程、確かな事はないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます