第10話 幕間 3

「それで、オリヴァー殿。診断の結果はどのような?」

「ふむ。そうですなあ……。体には特にといった異常は見受けられませんでしたな。

 若干衰弱しているのは、上手いこと栄養が取れていなかった所為でしょうから暫く安静にして、栄養がある物を食べれば直ぐに元に戻るでしょうな」


 異常がなかったと聞いて、ホッとする。


「そうすると、特に原因もなく倒れたと?」

「いや、うーむ……。原因はあると思われるのじゃが……」


 思案するかのようなオリヴァー殿の様子に、まさか良くない事なのかと心配になる。


「あ、いや、悪い事ではありませぬ、が……。あー……。

 ユールリウス様の魔力の泉に王家の特徴が。それと、魔力の泉に何者かが接触した可能性があります。

 感じからしておそらく、上位精霊……」

「オリヴァー様。その件はお兄様には報告をしないようにお願い致します」


 王家と聞いて、すかさずシャルから口止めの懇願が。


「私からもお願い致します」


 俺も同じように、黙っていて頂けるように懇願をする。

 王女であったシャルの息子であるユーリに、王家の特徴があるのは別に不思議ではないし、特に問題がある事ではない。


──普通ならば。


 ユーリはシャルに顔立ちがよく似ており、瞳の色も同じ紫系で色合いとしてはヴァイオレットモルガナイトに近い。

髪の色は俺のお祖父様と同じ銀色だが、それが殊更顔によく似合っていてとても可愛い。


──とんでもなく可愛いのだ。


 そんな可愛いユーリに王家の特徴があると知れれば、シャルの兄上なら囲い込んで離さないだろう。

 今でさえ、隙を見せるとすぐに王宮に連れて行こうとしているのだから、正当な理由が出来れば、喜び勇んで連れ去って行くのは目に見える。

 シャルもそれを分かっているから、オリヴァー殿に口止めを懇願しているのだ。


「あー……。そうなってしまいますかな、やはり」


 オリヴァー殿も直ぐに思い至ったのか、苦笑いを浮かべている。


「ええ、間違いなく」

「そうですなあ。このように愛らしい幼児を、親元から離すのは儂の本意ではありませぬ。

 なので、この件は儂の心の中に留めておくとしましょう。但し問題は……」

「そちらも問題ありません。精霊が何か悪さをするのなら、私が対処致しますわ」


 言質を取ったとばかりに畳み掛けるシャルの物言いに、オリヴァー殿は目を丸くする。


「ほっほっほ。さすがは可憐にして苛烈で熾烈と称されたシャルディアス殿下ですなあ」

「お褒め頂き恐縮ですわ」


 二コリと笑顔を浮かべているのに、迫力を感じるのは気のせいではないだろう。

それに多分、褒め言葉ではないと思うぞ……。

勿論、そんな事は言わないがな。


「シャル。オリヴァー殿は敵ではないよ」

「あらすみません。少し力んでしまいましたわ」

「オリヴァー殿。申し訳ない」

「なに、構いませぬよ。

 それでは儂はそろそろお暇させて頂くとしましょうかな。

 陛下には、異常は見つからなかったと申しておきましょう」

「よろしくお願い致します」


 部屋を出て行くオリヴァー殿に、俺達は感謝の意を込めて揃って頭を下げて見送った。


「体に異常がなくて、本当に良かったですわ」


 心底ホッとしたと言うシャルに、俺も同意する。


「そうだな。あとの問題は精霊と陛下か……」

「お兄様には私が対処致しますわ。そうですわね、暫くは体調不良との事で王宮からの誘いは全て断りますわね」

「そうしてもらえると助かる。俺が断ってもなかなか納得いただけないからな」

「もういい加減、妹離れをして頂きたいものですわ」


 シャルは困ったものだと溜息を吐くが、陛下のシスコンは筋金入りだから治る事はないだろう。

そしてその範囲が、ユーリにまで延びるのを阻止しなければならない。


「精霊の件は都度対処するしかないな。ユーリに接触した理由は不明、属性も不明となれば事前対処は無理だ」

「そうですわね……。一体どこの精霊がユーリに接触したのか、まともに痕跡が残っていない以上、分かりませんものね……」


 新たな問題に頭を痛めそうになるが、今は素直にユーリの快復を喜ぶ事にしよう。

また、あの輝く笑顔が見れるようになったのだから。

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