第2話 大陸の悪魔

慎之介の一向が我那覇に行くことにしたため、皇朔耶が同行を頼み出た。

危険を承知で行くという。

高千穂の問題で、自分も出来る限りのことはしたいという。

その責任感と勇気に感じないような慎之介ではない。

高千穂神社の境内に、木の枝で円形を書いて、他の者には、入らないこと皇朔耶が帰るまでは消さないことを申しつけて。

皇にも円形に入るように指示した。

皇朔耶を加えた5人の日本忍者は、円形の周りに巻き起こった竜巻に天空まで運ばれた。

その間、高千穂忍者には5人の姿は見えていない。

見たこともない術に、忍術ではなく魔法だの妖術だのと騒いでいる。

一方の天空にいる5人は、猛スピードで移動している。

沖縄・我那覇の上空で移動を止めて降下していく。

なんのかんのと言っても、忍術修行を積んだ5人、地面に叩きつけられることはない。

民衆を集め、我那覇忍者服の数人が怒鳴っていた。

片言ではあるが、かろうじて日本語である。

『皇殿・・・

 百聞は一見にしかず。

 高千穂一族を攻撃しておっ

 たのは、我那覇ではない。

 貴様ら、ウィルヘルムの手

 下か。』

慎之介に言い当てられて、頭領のような者が、激昂した。

『お前達、何者だ・・・

 皆の者、こやつらを斬れ。』

一瞬で、戦闘になったが、30人ほどのウィルヘルム族は、ほどなく全滅した。

その段階になり、ようやく日本忍者でもトップクラスが助っ人に来たことを悟った頭領が逃げようとした。

『ウィルヘルムに言っておけ。

 日本忍者には、手出し無用。

 この霧隠慎之介ある限り、

 手出しは許さん。』

我那覇一族は、沸き返った。

日本忍軍最強の一団が助けに来てくれたのである。

伊賀の霧隠慎之介です。

慎之介の妻で、甲賀の望月雅です。

出羽の月山宗幸です。

甲州の風磨小太郎と申す。

高千穂の皇朔耶です。

5人の自己紹介に、白髪の老人が進み出て。

『我那覇の与那嶺玄洋斎と申

 します。

 皇様には、ご迷惑をおかけ

 しました。』

と詫びたので、皇朔耶は、責めなかった。

『慎之介様。

 あの者共はいったい。』

皇朔耶には、今一歩わかっていないようだ。

田舎ゆえに、情報が遅い。

『ゴビ族でござる。』

 昔から、シルクロードに巣食い、ゴビ砂漠からモンゴル辺りを根城に暴れる者共というレッテルだが。

時に、世界征服を目論む馬鹿者が出る

ウィルヘルム3世は、驚き怒り、恐怖していた。

霧隠慎之介の使った技が忍術などという人間技ではないことくらいはわかる。

実際、慎之介が使った技は、強力なサイコキネシスである。

日本語では、念動力と呼ばれる。

もちろん、魔法でも妖術でもない。

超能力と呼ばれるものの一種である。

しかも、慎之介のそれは、人間のレベルをはるかに超えている。

したがって、ウィルヘルム3世は、恐怖した。

『恐るべし、霧隠慎之介という意識がシルクロード族に植え付けられてしまった。』

ゴビ族と呼ばれてはいるが、中国の自治区に過ぎない。

ウィルヘルム3世と名乗ってはいるが、たかだか一族の族長でしかない。

慎之介は、すでに日本忍軍30万人の頂点に立っている。

高千穂神社の境内では、慎之介が残した円形の周りを取り囲んで、高千穂忍者達がざわついていた。

『大将達は、どこ行った。』

そんな中、天空から虹が下りて来て、みるみる大きな橋になり、きらびやかなゴンドラが円形に到着。

ゴンドラから、皇朔耶が下りたから大変な騒ぎになった。

『大将・・・

 どちらに行かれてたの

 です。』

口々に訊いてくる。

『沖縄だよ。

 我那覇の与那嶺玄洋斎殿と

 も会ってきた。

 我らを攻めていたのは、我

 那覇ではなかった。

 ウィルヘルム3世のシルク

 ロード族であった。

 慎之介様達が、退治して下

 さった。

 とんでもない強さであっ

 たぞ。

 皆にも見せてやりたいくら

 いじゃ。』

そこまで聞いていた子供が3人飛び出した。

『先生。

 俺達、試験に受かって来年

 から龍門館に入ります。

 一度、龍門館を見せて下

 さい。』

子供達の家族が9名。

『いくらなんでも、そんな人

 数で。』

皆、一様に思った時、慎之介がサンスクリット語で真勤を唱えはじめて神社の池にガマ介を放り込んだ。

刹那に、池から巨大な道路が天空に立ち上った。

その横で、子供達の親からじゃがいもを借りた慎之介が雅に手渡した。

雅は、じゃがいもを3個並べて置くと着ている羽衣をフワリと振った。

じゃがいもが、豪華な客車に変わったところで、宗幸と小太郎が連結した。

『さぁ、乗って。』

宗幸と小太郎に促されて子供達が3家族別れて乗車。

先頭に慎之介と雅に皇朔耶。

2両目に月山宗幸。

3両目に風磨小太郎が乗り込んだ。

すぐに動き出したのだが、慎之介が馬やロバを用意した形跡はなかった。

見ると、2人の筋骨隆々とした男が憤怒の形相で引っ張っている。

『慎之介様・・・

 あのお2人は・・・。』

皇朔耶には、新たな疑問になった。

『あはは・・・

 右が海神ポセイドンです。

 左は、毘沙門天ですよ。』

皇朔耶以下、高千穂の面々は、ひっくり返るほどに驚いた。

当然であろう。

海神ポセイドンも毘沙門天も人々が崇め奉る神仏である。

その神仏をまるで執事のように使っている。

『慎之介様・・・

 あなた様は、いったい。

 それに、この道路は龍門館

 に続いているのですか。』

皇朔耶は、すでに慎之介の家臣になろうと決めている。

『皇殿・・・

 ガードレールの形。

 妙だと思われませんか。』

慎之介は、話しを振った。

高千穂の皆で考えたが、わからない。

『なんだかトカゲとか恐竜のような。』

当たらずとも遠からず。

『惜しい。

 北の守り神。

 青龍ですよ。

 青龍の背中をポセイドンと

 毘沙門天に引っ張られて走

 っているのです。』

なんという途方もない話しの中に入ったのか。皇朔耶も高千穂一族の誰にもわからない。

ただ、慎之介がそれ以上の神通力を持っているということだけである。

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