第141話

 しばらくアベルとノアの二人が話を交わしていると、人見知りのノアもだんだんと慣れてきたようで、最初より饒舌になってきていた。

 その頃合いを見計らって、私は部屋を後にした……というのも私の前では話せないこともいろいろとあるだろうと思ったのだ。


そしてこっそりと部屋を後にすると、部屋の前でノノが私のことを待ち構えていた。


「あ!!お師様!!」


「ノノか、どうかしたか?」


「あの、またお菓子の試作を作ったので……お師様にも食べてみてほしいんですっ!!」


「そういうことか、カミル達にはもう食べさせたか?」


「はいっ!!でも、カミル様たちは美味しいってしか言ってくれないので……。」


 まぁ確かに、そうかもしれないな。でも今のカミルたちの美味しいっていう言葉は結構信頼に値する言葉だと思う。

 なにせ……かなり舌が肥えちゃってるからな。美味しくないものは美味しくないとハッキリ感じるはずだし、逆に美味しいものはより美味しく感じるようになっているはずだ。

 だからカミル達に認められたのであれば、本来それはもう合格点なのだ。


 まぁ可愛い弟子のお願いだから無下にすることはないが……。


「わかった。それで?今日は何を作ったんだ?」


「えと、しゅーくりーむ?を作りました!!」


「おぉシュークリームか…………って作り方教えたっけ?」


 食べさせた記憶はあるが、作り方をノノに教えた記憶は無い。まさか見よう見まねで作ったってのか?


「いえ……でも見てましたから!!」


「見てましたから……ってマジでか。」


 まさか本当に見よう見まねで作ったなんて……。でもまぁ現物を見てみないことには作れてるかどうかは……。


 そして実際に見に行っていたところ、カミル達が美味しそうにシュークリームを頬張っていた。


「んぉ?ミノルではないか、もう勇者の看病は終わったのかの?」


「あぁ、今目を覚まして……アベルと話してるよ。」


「あら、意外と早いお目覚めだったわね。」


「だから体力が回復すれば……明日には一緒に食卓を囲めると思うぞ。」


 ただ、人見知りの彼女には……大人数のこの食卓はなかなかキツイかもしれないが。まぁ、でもその辺はアベルがなんとかしてくれるだろう。


「お師様どうぞ!!」


「ん、もらうよ。」


 ノノからシュークリームを受け取り口に運ぶ。サクサクとした噛み心地の良いシュー生地に、中の濃厚なカスタードクリームとふわふわのホイップクリームがよく合う。


 前に私が作ったシュークリームを完璧に再現している。


「うん、シュー生地の焼き加減もバッチリ……カスタードクリームも粉っぽくないし問題なし。完璧だな。」


「ありがとうございますっ!!」

 

「よかったね……ノノ?」


「うん!!」


 ノノとマームは二人で喜びを分かち合っている。日頃からノノはマームに頻繁に試作品を食べてもらってたからな。その分喜びも大きいのだろうな。


「そういえば……獣人の女王との食事会はいつ開くのかの?」


「二日後か三日後ってとこかな。」


 今ジュンコはどうしてるだろうか?ちゃんと計画通りにプリンを食べていれば……まだ残っているはずだが。


 まぁ、まず十中八九もう無いだろうな。正直彼女は我慢がきく方ではない。下手したら一日のうちに無くなってるかもしれない。


「さぞかし待ち遠しいじゃろうな。妾も今から楽しみじゃ~。もう何を作るのか決まっておるのかの?」


「ん~、まぁぼちぼち……だな。」


 アルマス向けのメニューを作ったりしないといけないから、少しメニューは複雑になる。まぁ、第一に大人数の食事会だから複雑になるのは仕方ないんだけどな。

 あっちと違って、こっちには出来合いの食品とかはないから。全て一から自分で作らないといけない。


 大変になると言っても……今回は優秀なアシスタントがいるからそこまで負担は無いな。


「っと、そうだノノ。」


「はいお師様!!」


「食事会の時のお菓子……何品か任せてもいいか?」


「良いんですか?」


「あぁ、私も幾つか作る予定だが……多分他の料理の方で忙しくなりそうだからな。少し任せたい。」


「頑張ります!!」


 張り切ってるな。普通なら何かを任せられるってのは、緊張するものだが……ノノはそれだけ実力と自信がある。この分なら問題なさそうだな。


「ノノ、また試作いっぱい作る?」


「うん!!」


「じゃあまた私がいっぱい食べないと……だね?」


「えへへ……お願いね!!」


「むっ!!マームばかりズルいのじゃ、妾も食べるのじゃ~。」


「私も私も~っ。」


 大人気だな。これだけ美味しいものを作れるなら当然か。


 カミル達に囲まれるノノの姿を見て、思わず笑みがこぼれてしまうミノルだった。

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