第140話
「そういえば……ミノルさんは、ここで雇われてると言ってましたけど……その、魔王……さんにですか?」
ふとさっき言ったことが気になったのか、ノアが私に問いかけてきた。
「あ~……その辺は少し複雑なんだが、一応私を雇っているのはこの城の主のカミルって龍だ。」
一応名目上は魔王の専属料理人でもあるんだけどな。
「えっ、じゃあここって……魔王城じゃないんですね。私てっきり魔王城かと思ってました。」
間違うのも無理はないかもな。私はここが魔族の国である……とだけしか言ってなかったから。
「あの……魔王さんにもお礼を言いたいんですけど……。」
「あと少ししたら帰ってくると思うぞ?今エルフの国に行ってるからな。」
ついさっき、アベルはアルマスの事を送りに行ったから……寄り道さえしなければすぐに帰ってくるはずだ。
「っと、噂をすればなんとやら……。」
「ふえ?」
そんな話をしていたら、私の後ろの何もない空間に亀裂が入りそこからひょっこりとアベルが姿を現した。
「たっだいま~……ってあれ?勇者起きてるじゃん。」
ご機嫌で帰ってきたアベルは、目を開けている勇者の姿を見てきょとんとしながら言った。
「み、ミノルさん?もしかして……この人が?」
「あぁ、現魔王のアベルだ。」
ノアにアベルが魔王であることを明かすと、彼女はアベルの姿を見てポツリとこぼした。
「い、意外と
「なんか言った??」
危うく禁句を口からこぼしかけたノアの事をじと~っとした目で見るアベル。
ノア……それは思っても言っちゃいけないことだぞ。多分アベル自身気にしてるかもしれないんだからな。
「あ、いえ!!そ、その……さっきミノルさんから話を聞きました。私を助けてくださったんですよね?あ、ありがとうございました。」
じと目で見られて、何かを察したのかノアは急いで話を変え、アベルに助けてくれたお礼を言った。
「お礼を言われるんだったらお世辞を言ってくれた方が嬉しいんだけどな~?」
さっきの勇者の言動を根に持っているのか、アベルはお礼に対して意地悪な返答を返した。
「あ……そ、その……ご、ごめんなさい。」
あわあわとしながらノアは必死にアベルに謝る。
「アベル、弄るのはその辺にな?」
「わかってる、わかってる。ちょっとした冗談だよ~……半分はね。」
半分は本気ってことか。覚えておこう。
「にしても……君、ホントに勇者?ずいぶん気弱に見えるんだけど……。」
「うぅ、す、すみません……私ちょっと人見知りが激しくて……。」
「ふぅん……まぁいいや。さっきミノルに紹介してもらったけど、改めて……ボクはアベル。今代の魔王だよ。」
「あ、私はノアです……一応勇者でした。」
ここでも過去形……か。余程今の自分に自信がないらしい。
まぁ、自分の力の大半をあの人工勇者ってやつに持っていかれたんだから無理もないが……。
「勇者でした~って、本物は君なんでしょ?」
「そうですけど……私の力はほとんどあの子達に奪われてしまいましたから、今の私は……。」
「ただの人間だ……って言いたいの?」
「……っ。」
ノアの言いたいことを先読みしてアベルは問いかける。何も言い返せないところを見るに図星のようだ。
「……まぁ実際そうなんだけどね。自分でわかってるなら良いや。今の自分がどんな存在か、わかってないなら危ないな~って思ったけど大丈夫そう。」
「え…………。」
「アベル、まさか確認のためにあんな意地の悪い質問をしてたのか?」
「え?ダメだった?」
「いや。」
どうやら、あの質問の本質はアベルなりにノアの事を心配していたようだ。
生憎私は、それに関しては何も言えないからな。同じ事を私もノアにしたし……。
「うぅ、二人とも意地悪です……。」
「え?二人とも……って、まさかボクがいない間にミノルも意地悪してたの?ダメだよミノル、女の子はいじめちゃ~。」
にやにやと笑いながらアベルはこちらに視線を向けてくる。
「人聞きが悪いことを言うんじゃないぞ……まったく。」
ちなみに私はちゃんと謝ったからな!!
そんなやり取りをしていると、ノアが私達を見てポツリと呟いた。
「二人は仲が良いんですね……。お互いに身分がすごい違うのに。」
「え?ノアも友達の一人や二人位いたでしょ?」
きょとんとしながらアベルはノアに問いかける。
「い、いえ……私はこういう性格に、勇者って役職が災いして、そんなに親しい仲の……それこそ友達というのは一人もいませんでした。」
おずおずとしながらノアは答えた。そんな彼女にアベルが言った。
「ふえ~……そうだったんだ。ん~じゃあボクがノアの友達になってあげるよ~。」
「えぇっ!?」
「イヤ?」
「いっ……いえいえ!!そ、そんな……わ、私なんかでよかったら是非……。」
「あはは!!そんなにガチガチに緊張しなくてもいいのに~。まぁこれからよろしくね~ノア~?」
「よ、よろしくお願いします……あ、アベルさん?」
「友達なんだから、アベルで良いよ~。……ってかアベルって呼ぶの!!わかった?……あ、返事は、はい。……じゃなくて、うん。ね?」
「はっ……あ、あっ……う、うん。」
歴史に残るかもしれない、勇者と魔王の二人の友達の始まりはなんともぎこちのないものだった。
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