第121話


「見よミノルッ!!このドデカい魚を!!」


 カミルに着いて行った先には、大きなまな板のような物が置いてありその中央には鋭く大きな角を持った、カジキのような魚がまるで貢ぎ物のように置いてある。


「ずいぶん大きい魚だな。」


 近づいてみるとその大きさが良くわかる。私の身長は180㎝近いのだが……この魚はその倍以上、4m近くある。よく見てみると、ちゃんと血抜きもされていて、下処理がしっかりとしてある。文句のつけようがないくらい完璧に……。


「ふむ……血抜きも完璧。文句のつけようがないな。」


 まじまじと観察していると、後から来たヴェルがそれを見て口を開く。


「これはあれなんじゃないの?ウルにこの街の人たちが貢ぐために獲った魚なんじゃないの?」


「ということはじゃ!!ウルがいなくなった今この魚は妾達の物同然っ遠慮なくもらって帰るのじゃ~!!」


 ルンルン気分でその大きな魚を持ち帰ろうとするカミルだが、そこに私が口を挟む。


「さすがにこれをただでもらって帰るのは……これを獲った漁師さんに悪いだろ。」


「む~、じゃがしかしこれをとった漁師なぞわからんぞ?」


「だから心ばかりに、こう白金貨を一枚置いておけば……。」


 私はその魚が置いてあるまな板の横に白金貨を一枚置いた。この魚の相場はわからないが……ただで貰って帰るよりかは遥かにマシだろう。


「ミノルは義理堅いのぉ~。」


「さすがに頑張って獲ったのをただで貰って帰るわけにはいかないだろ。」


 それに漁師さんだって生活が懸かってるだろうしな。ちゃんとお金を置いた後に私はその大きな魚をインベントリへとしまう。


「さて、今日はこの魚さえあればご飯は事足りそうだな。」


 問題はこいつをどうやって捌くかってことだが……。出刃包丁でもやれないことはないが、少し手間がかかりそうだな。こんな魚を捌くことになるんだったらマグロ包丁を一本買っておくべきだった。とまぁ今更後悔しても遅いんだけどな。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。


「あとはノノの三枚下ろしの練習用の魚を買って……今日の買い物はお終いでいいかな。」


 本日の買い物の終わりが見えてきたところで、ふと思い出したようにカミルが口を開いた。


「そういえばこの街は酒も有名なんじゃぞ?」


「酒?」


「うむ。美味い葡萄酒が有名なのじゃ。」


 酒か……そういえばしばらく酒は飲んでなかった気がする。と言っても飲む機会がなかったからなんだが……。久しぶりに嗜んでみるのもいいか。


「そういえば二人は酒は飲めるのか?」


「妾は飲めるぞ?むしろ好物じゃ。」


「私も飲めるわよ~。あんまり強いのは無理だけどね。」


 そうか、なら買って帰るのも悪くないな。そう思っていた時だった、こそこそとヴェルの目を盗みカミルが私の方に近寄って来たかと思うと耳元で囁き始めた。


「ヴェルのやつは酒癖が悪いから気を付けるのじゃぞ?」


「……それマジか。酔っぱらって城を壊したりしないだろうな?」


「さすがにそれはないと思うのじゃが、念のため気を付けておくにこしたことはないぞ?」


「あぁ、わかった。頭に入れておくよ。」


 あっちにいたとき、まだ下働きしかできなかった頃に散々酒癖の悪い上司に絡まれてたからな。そういう酒癖の悪い人の扱いには慣れてるつもりだ。……だが、果たして酒癖が悪い龍相手に対処できるだろうか。


 一抹の不安が頭をよぎるが、有名と言われるその葡萄酒は飲んでみたい。今後の料理に取り入れられるかもしれないしな。


「ちなみになんだが、この国って何歳から飲酒は解禁されるんだ?」


「酒か?酒に制限なんて無いぞ?」


「あ~……そういう……ね。わかった。」


 ひとまずノノはまだ駄目だな。マームは……大丈夫か?外見がマジで子供だから飲ませていいのかわからん。ちょっと舐めさせてみて反応を見てみるか?

 そう私が頭を悩ませている傍らで……。


「うふふっ、お酒楽しみね~。久しぶりだわ~。」


「皮肉にも先代魔王様がウルとボルトを加えた時の宴以来じゃな。あのときも確かこの街で作られた葡萄酒じゃったの。」


「あら、そうだったかしら?私あのときの記憶が曖昧なのよね~。」


「思い出さん方が身のためじゃ。アスラと妾がどれだけ大変だったことか……。」


 その当時のことを思い出して首をかしげるヴェルと、対照的に頭を抱えるカミル。余程その時のヴェルがやばかったらしいな。


「ふぅ……さて、それじゃあここであと少し魚を買ったら、その葡萄酒を買いに行こう。カミル、売ってる場所はわかるか?」


「わからん!!」


 腕を組み、えっへんと威張りながら「わからん!!」と堂々とカミルは言った。


 ……堂々とするところが違うんだけどな。


「じゃが、わからんのなら聞けば良い。……ちょうどそこに隠れておる奴がおるからの。あやつから聞いてみるのじゃ。」


「じゃあ、その間にちょっとした魚を買ってくるよ。」


 カミルが葡萄酒を売っている場所を問い詰めている間に、私はノノが三枚下ろしの練習に使えるような魚を何匹か買い漁るのだった。

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