第115話

 そして皆に料理を振る舞った後……私は一人カミルの城の中にある書庫へと足を運んでいた。というのも獣人族に関する書物を探すためだ。


「確か……この辺で見たんだよな。」


 ずらりと並ぶ本棚の中で以前目にしたと思った場所を探していると……。


「おっ、あったあった。これだ。」


 大きな本棚から一冊の本を抜き取って椅子に座ると、私はそれを開いた。


「あ~……なるほど?全部獣人族の言葉で書いてあるパターンか。」


 獣人族の言葉はまだ半分ぐらいしから理解してないんだよな……。最悪読むのに支障が出るなら、ノノっていう最強の助っ人がいるからな。あの子に頼むとしよう。


「先ずは歴史からだな。」


 パラパラと本をめくり、獣人族の歴史について読み始める。


 獣人族の歴史はとても興味深い内容で、どうやら人間と魔族が交わることで生まれた種族らしい。それから人間でもない、魔族でもない半端者として扱われていた彼らは自分達で国というものを立ち上げ、今の獣人族の国が産まれた。


「ふむ……元々はじゃあ獣人族は人間であり、魔族だったってことか。にしても、半端者として産まれてしまったが故にどちらの種族にも受け入れられなかったと……。」


 随分悲しい過去を背負っている種族だな。だが、人間と魔族とが交わったことで産まれたってことは……人間にも魔族にもお互いに愛が芽生えたことがあったんだよな。


「果たして……今のこの魔族と人間との間でそんな風に恋愛感情を抱いている人はいるのだろうか。」


 そんな人が多くなれば……魔族と人間との平和も実現しやすくなるんだろうが。多分、昔と違って今は魔族と人間が出会う機会が少ないから……無理かな。


 それほどまでに、今の人間と魔族との関係は悪い。


 儚い可能性に首を振り、私は本のページをパラパラと捲る。そんな時、あるページが目に留まった。


「……奴隷制度。」


 そう書かれていたページが私の目に留まる。そのページに目を通すと、そこには獣人族の奴隷制度について事細かに書かれていた。


 獣人族の奴隷には大きく分けて2つの種類がある。犯罪奴隷と普通の奴隷だ。犯罪奴隷はその名の通り、大きな犯罪を犯したものがなる奴隷のことで、戦争の時に盾がわりに使われるようなことが多いらしい。

 一方普通の奴隷は多大な借金を抱えてしまった者がなるらしい。なので一家まるごと奴隷に堕ちることもあれば、価値の高い子供だけが奴隷に堕ちることもあるらしい。


「……親が自分の代わりに子供を奴隷にすることもあるってことか。」


 だとしたら、奴隷に堕ちた子供は親をどう思う?私だったら……間違いなく生涯呪うだろうな。


 ……ノノはどうなのだろう。あの子もまた奴隷として売られてしまっていたが、一家まるごと奴隷になってしまったのか……それともノノだけが奴隷になってしまったのか。

 聞きたい気持ちは山々だが、それを聞くとノノのトラウマか何かを呼び起こしてしまわないかとても心配だ。だが、後でもし……獣人族の国に行くことになったら……深くは聞かないまでも、行きたいのか、行きたくないのかは聞かなければならないな。


 これからのことを思ってふぅ……と一つため息を吐いていると、書庫の扉が開き、なにやらお盆を持ったノノが現れた。そしておずおずとしながらこちらへと歩いてきて口を開く。


「あ、あの……お師様。」


「ん?どうかしたかノノ?」


「こ、これ試食してもらえませんか?」


 そう言って私に差し出してきたのは、真ん中にジャムが乗ったクッキーだった。


「お、もうクッキーの派生まで作れるようになったか。これは何のジャムを使ってる?」


「えと……赤い方はベリリの実で作ったジャムで、紫の方は葡萄をジャムにしました。」


「ほぅ、なるほどな。葡萄のジャムとはなかなか考えたじゃないか、色を見るに……これは皮ごと煮詰めたんだな?」


「はいです!!」


 なるほどな。どれ……じゃあせっかく作ってくれたから食べてみるとしようかな。


 私はジャムが乗ったクッキーを一枚一枚食べてみることにした。


「うんうん、焼き加減もバッチリ……でもちょっとバターが多いかな。ジャムの味はこのぐらいで問題ない。次作るときはほんの少しバターを減らしてみるといいぞ?」


「ありがとうございました!!」


「残りはカミル達に振る舞ってあげるといい。喜んで食べてくれるさ。」


「はいです!!」


 そして私に味見をしてもらったノノは、少し喜びながら書庫を出ていった。それから少しすると遠くの方でカミル達の声が聞こえ始めた。どうやらノノが作ったクッキーを食べ始めたようだな。

 

「にしても、飲み込みが早いな。この前ただのバタークッキーを教えたと思ったらもう次のステップに進んでる。」


 子供であんなに料理できる子もなかなかいないだろう。てか、下手したらそこらのぽっと出の専門学校卒業の奴等よりもいい線いってる。


 それもノノが熱心に取り組んでいる結果……なんだろうな。


「いずれは私を超える料理人に……なってほしいものだな。」


 青は藍より出でて藍より青し……ノノの素質に私の知識と技術が加わればきっと、私を超えてくれるはずだ。

 ……と言ってもまだまだ私も負ける気はないがな。これでもまだまだ現役だし。


 己を越えてほしいという願望と、負けたくないという気持ちとがせめぎあい、複雑な気持ちになるのだった。

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