第2章

第114話

 アベルとアルマスの同盟の会談が成功に終わり、数日経ったある日のこと……。いつも通り、アベルはご飯をたかりにやって来た。


「いや~、相変わらずミノルの料理は美味しいね~。」


 口いっぱいに作った料理を詰め込みながら、アベルはそう言った。


「……ちなみにその料理はノノが作ったやつだぞ?」


「え!?これノノちゃんが作ったの!?」


 自分が今食べた料理とノノを交互にアベルは視線を向ける。そんな彼女にノノは少し恥ずかしがりながらコクリと頷いた。


「凄いじゃん、もうこんなに美味しいのが作れるようになるなんて……。」


「えへへ、お師様にちゃんと味見してもらいましたから。」


 ノノの飲み込みはとても早く、あっさりと切りものをマスターしたかと思うと、今は私に近い味付けまで再現できるようになっていた。まぁ、飲み込みが早いのはノノの努力の賜物なんだろうがな。

 同盟の会談を終えた後、本格的に料理について教え始めると夜な夜な一人ベッドを抜け出して厨房でコッソリ野菜の剥き方とかを練習したりしてたからな。そういう陰の努力が今のノノの成長に繋がっていると言っても過言ではない。


「良かったじゃないかノノ?アベルにもちゃんと美味しいと言ってもらえたな。」


「お師様が最後に手直ししてくれたおかげですっ!」


「そんなことはない。手直しと言っても、私は最後にただ少しだけ塩を足しただけだ。」


 多分塩を足さなくてもアベルには美味しいと言ってもらえていた位、味のベースは良かった。だからこんなに謙遜することはないんだけどな。

 謙遜するノノの頭を撫でていると、自慢気にカミルが口を開く。


「むっふっふ、妾のもとに最高の料理人がまた一人増えてしまったの~。」


「良く言うわよ、最初ノノを迎えるの渋ってたくせに……。あ、私はもちろん賛成してたわよ?」


 自慢気に言ったカミルに、呆れ笑いを浮かべながらヴェルが言う。


 そういえばあのときは、私がノノを買おうと提案しようとした瞬間にダメだって言ってた気がするな。あのときから比べれば……ノノに対するカミルのたいどは著しく変わったな。


「む!?そ、そんなことあったかの~?妾は覚えとらんのじゃ~……ノノ、妾におかわりを頼むぞ。」


「はいですっ!!」


 わざとらしくしらばっくれながら、カミルはノノに料理のおかわりを貰っている。


「ノノ、今日のお菓子なに?また試作……作った?」


 カミルにおかわりを持って戻ってきたノノにマームが問いかけた。


「今日のお菓子はマームちゃんの蜂蜜で作ったプリンですっ。」


「ふふ、プリン……楽しみ。」


 思えばマームが最初に食べて虜になったのもプリンだな。あの時は本当にどうなることかと思ったぞ。いきなり蜂蜜泥棒とか言われてめちゃくちゃ焦ったのを今でも覚えてる。


 ……にしても、最初に比べたら随分ここも賑やかになったな。始めは私とカミルしかいなかったのに、最初にヴェルが加わって……次にマームが加わって……そしてノノと魔王であるアベルまでもが食卓に加わってしまった。

 最初ここに来たときはこんな風に賑やかになるなんて思いもしなかったのにな。


 そんなことを思いながら私は、アベルの前の席に腰かけた。そして食後のデザートのプリンを味わっている彼女に話しかける。


「それで?次はどうするんだ?」


「あむっ……ん~、次?」


「あぁ、この後どういう風に動くのか知っておきたくてな。」


「そうだね~、なんとかミノルのお陰でアルマスとは同盟を取りつけたから~……次に手を組みたいのはやっぱり獣人族かな~。」


 エルフとの同盟を成功に導いた報酬として、私はアベルに何でも聞く権利を手に入れた。

 その権利を使って真っ先に聞いたのは「なぜ私をこの世界に呼んだのか。」その答えは今のアベルの思想を実現させるためだった。予想はしていたが、どうやらアベルは本当に私の力を使って思想を実現させようとしているらしい。

 まぁ、平和になるのはこちらとしても良いことだから手を貸すことにしたんだが……。


「獣人族……か。ノノの生まれた国だな。」


「うん、でもね~……アルマスの時みたいに上手くはいかないかも。獣人族は人間と魔族、両方とそれなりに深い関係を築いてるから……なかなかね。」


「ほぉ?それはまた……厄介そうだな。」


 アルマスの時は、どうやら裏でエルフと人間との間でいざこざがあったらしく、敵対関係になってしまっていたらしいからな。だからこんなに簡単に同盟を結ぶことができたらしい。


 だが、アベルの話では獣人族は人間とそれなりに良い関係を築いているとか……。なんでも奴隷とか、傭兵として自分の国の獣人を売っているらしい。だからたまに攻めてくる人間の軍の中に獣人の傭兵が混ざっていることがあるのだとか。


「落としどころがない訳じゃないんだけど~……下手したら獣人族が人間側についちゃうかもしれないんだよね。」


 頭を悩ませながら、アベルはプリンをパクつく。


「それだけは避けないといけないな。そうなってしまうとアベルの計画が全部水の泡になるだろ?」


「うん、だから今頑張って方法を模索中なんだよ。」


 アベルの描いている計画は、至極単純なもので人間の勇者を会談の場に引きずり出すためにエルフと獣人、そして魔族の3国から人間に圧力をかけるというものだ。

 圧力をかけると言っても、こちらには強い繋がりがある……と示すだけで兵力による制圧や牽制はしないらしい。


 この計画が上手くいけば全種族間での平和条約を結ぶ大きな足掛かりになることは言葉にするまでもない。あくまでも上手くいけば……の話だが。


「ま、こっちで何か良い方法が見つかったらその都度教えるから。それまでは各自待機ってことで。」


「わかった。」


 必要ないと思うが……後で私の方でも獣人族のことについて少し調べてみて、方法を模索してみるか。確か彼らについて記した本は書庫にあったはずだ。

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