第113話
「さて、それじゃあ早速食べさせてもらおうかな。」
アルマスは先ず、胡麻豆腐から食べ始めた。
「おぉ、これは不思議な食感だ。もっちりとしていて胡麻の香りと味がより一層際立って感じる。」
感想を述べながら、胡麻豆腐を食べ進め器から胡麻豆腐がなくなると、彼は次の料理に目をつけた。
「次はこの天ぷら?だったかな、これは塩をつけて食べれば良いんだよね?」
彼は私にそう確認してきた。私は彼のその言葉にコクリと一つ頷く。
私が頷いたのを見て彼は、フォークで天ぷらを刺して軽く塩をつけてから口へとそれを運んだ。噛んだ瞬間にサクサクと小気味の良い音が響く。
「ん!!これはまたサクサクとした食感が楽しいね。それに野菜の甘味がすごい際立って感じる。」
幾つか、野菜の天ぷらを食した後……彼は口直しにけんちん汁を飲むようだ。器に口をつけ、ゆっくりとすまし汁を口に含む。そしてごく……と飲み込むとほぅ……と彼は一つ大きく息を吐いた。
「すごく安心する味だ……。確か醤油という調味料を使ってるんだったね?聞いたことがない調味料だけど……本当にこの国の物なのかい?」
「聞いたことがないのも無理はないな。初めて来たときにエノールの店を紹介してくれただろ?彼が秘密裏に開発してる調味料なんだ。この前完成したし……近々大々的に売り出すんじゃないか?」
「そうだったのか……。」
納得したように彼が頷くと、もう一口けんちん汁を飲んでから器を置いた。そしていよいよ、豆腐ハンバーグに手をつけるようだ。
「……念のため聞いておくけど、これ本当に肉じゃないんだよね?」
「あぁ、間違いない。食感とかは肉に近いと思うけどな。なんならそこのミルって妖精に聞いてみるといい。私はあのキッチンで一切肉を使ってないからな。」
アルマスの屋敷に仕えている妖精のミルは私とノノが料理を作っている一部始終を全て見届けていた。彼女に聞けば私が本当に肉を使っていないことがわかるはずだ。
「いや、聞いた僕が野暮だった。それじゃあ……いただくよ。」
そしてアルマスは豆腐ハンバーグにあんかけにたっぷりつけて口へと運んだ。
「噛んだ瞬間に汁が溢れてくるこの感じ……本当に肉に似せているんだね。よもや本当に野菜だけでこんなものまで作り上げてしまうとは……アベル、彼は本当にすごいね。」
「ふっふ~ん、でしょ~?」
何気ない会話だが、私はアルマスの言葉にある違和感を感じた。
「肉を食べたことがあるのか?」
さっきのアルマスの口振りは一度肉を食したことがあるような感じだったのだ。
「ん?あぁ、あるよ。子供の頃にね、これは禁忌の味だって、一度だけ食べさせられるんだ。今思えば……あれは本当に禁忌の味だったよ。」
彼の口振りからしてさぞ美味しかったんだろうな。
「っと、さて次は……この霊樹茸が入った米を食べようかな。」
出汁の味と、霊樹茸の香りをふんだんに吸い込んだご飯を彼は口に頬張った。すると、目を大きく見開く。
「これは……凄い香りだ。こんなに香り高い霊樹茸は初めて食べたよ。余程大きな物を採らせてもらったんだね?」
「この子がいたく気に入られたらしくてな。」
私はとなりに立つノノの頭を撫でる。
「なるほどね。あの精霊達は子供が大好きだから……ねっ?アベル?」
クスリと笑いながらアルマスはアベルの方を向いた。
「っ!!だからその話はしちゃダメだって!!」
「ごめんごめん、ついつい幼い頃の君と重なっちゃってね。……そういえば、秘薬はその子に食べさせたんだろ?喋れるようになったかい?」
「あぁ、お陰さまでな。」
「それは良かった。」
ノノににっこりと笑いかけたアルマスは、焼き霊樹果を残してそれ以外を全て食べてしまう。
「さて、残るはこの霊樹果を焼いた甘味だね。」
フォークでそれを切り分け、そのうちのひと切れを彼は口に運ぶ。そして味わうように何度か咀嚼して飲み込むと、彼はふっと笑った。
「ふっ……こんな食べ方があったなんてね、もっと早く気付くべきだった。」
焼き霊樹果もあっという間に完食したアルマスは、ふぅ……と一つ満足そうに息を吐き出して、私の方を向いた。
「美味しかったよ。本当に……本当にね。」
そう総評を述べたアルマスは、アベルの方を向いた。
「アベル、君は彼の可能性を信じてるんだね?」
「もちろん、アルマスも食べてわかったでしょ?」
「あぁ、十分にわかったよ。……ミル、あれを持ってきてくれるかい?」
「かしこまりましたです!!」
アルマスがミルに何かを持ってきてくれ……と頼むと、ミルは一枚の紙を持って戻ってきた。アルマスはその紙にサラサラと何かを記すと、こほん……と一度咳払いしてからそれを読み上げた。
「こほん……エルフ国は魔族国の指針である全種族間平和に賛同する。及び
そして、読み上げ終わるとアルマスはアベルにスッと手を差し伸べた。
「よろしく頼むよアベル。」
「あはっ!!その答え以外期待してなかったよアルマス。」
アベルとアルマスは固く握手を交わす。そしてそれが同時に両国間の強い同盟の始まりを示していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます