第116話

 そして次の日……私はノノと共にエルフの国へとやって来ていた。魔族とエルフとで同盟を結んでからは、エルフの国に自由に魔族が出入りできるようになったから、前と比べてちらほらと魔族の姿が見受けられる。

 今日この国に何をしに来たかというと、以前醤油を作ってくれたエノールと新たな商品開発の話し合いをしに来ていた。


「えっと……確かここだったよな。」


 以前よりもエルフの言葉を理解できるようになった私は、今回はちゃんとエノールの店の看板を見つけることができた。ドアを開けて中へと入ると、エルフの女性が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」


「あ、エノールにミノルが来たって伝えてもらえるか?」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」


 ペコリとこちらに一礼した彼女は踵を返して店の2階へと上がっていった。それから少しすると……バタバタという忙しない足音と共にエノールが私達のもとに走ってきた。


「ミノルさんようこそいらっしゃいました!」


 走ってきたエノールと私は挨拶代わりに握手を交わす。


「ささ、あちらの部屋でゆっくりと座ってお話ししましょう。」


 そして接客用のきらびやかな部屋に通されると、さっきの従業員らしい女性のエルフがお茶のようなものを運んできた。奇妙なことにそのお茶は緑色……つまり緑茶のようなものだった。


「そちらはこの国で採れた若葉で淹れたお茶なんですよ。」


「ほぉ……。」


 カップを手に取りそれを口に含んでみると……確かに緑茶のような味がした。……しかし、なんとも青臭い。まぁ、ライネル商会で出されたお茶よりかは遥かに美味しいがな。


 ノノも少し顔をしかめている。


「いかがですか?」


「率直な感想を述べると……味は良いが青臭いな。」


「あぁ……やっぱり、そうですよね。」


 率直な感想を述べるとエノールはガックリと肩を落とした。


「これはもしかしてまだ試作品か?」


「はい……。どうやっても青臭さが抜けなくて、困ってるんです。」


「それで、私に助言が欲しかったって訳か。」


「恥ずかしがりながら……。」


 なるほど、合点がいった。


「つまり、これが新たな商品……ってやつなんだな?」


「そういうことなんです。」


 今回はこのお茶をどう良くするか……を考えないといけないってことか。まぁ、幸いおおかたこれの作り方は察しがつくから……何をどうしないといけないっていうのはわかる。


「これ、茶葉を蒸したのを搾ったお茶なんじゃないか?」


「えっ!?なんでわかるんです?」


「この青臭さは葉っぱを搾ったときに出る青臭さだ。それに、茶葉なんて生のまま搾るんじゃ、ほとんどエキスなんてとれない。」


 第一に、茶葉を蒸すのは緑茶を作るときの製法の一つだ。その蒸した茶葉をほぐして乾燥させれば緑茶のもとになる茶葉ができあがる。だから、私が助言するならば……。


「茶葉を蒸した後、それをほぐして糸状にして一度乾燥させるといい。」


「乾燥させるんですか?でもそれだと葉の液がとれなくなるんじゃないですか?」


「搾るっていう概念は要らないんだ。乾燥した茶葉にお湯を加えてあげれば青臭さがないお茶ができるはずだ。」


「なるほど……。」


 私の言葉をエノールは紙に書き留める。


「今度は今教わったやり方でまたやってみます。」


「あぁ、そうするといい。……そういえば醤油の売れ行きはどうだ?もう売り出し始めたんだろ?」


「それはもう、お陰さまで大好評ですよ!!売り切れが続出して供給より需要の方が高まっちゃってる状態です。あ、でもちゃんとミノルさん達の分は確保してありますから、安心してください。」


「ふ、そうか。売れ行きが好調なようで何よりだ。」


 どうやら醤油はかなり売れ行きが好評らしい。それにしても需要が供給を上回るとは……とてつもない売れ行きだな。それこそ、生物不使用であれだけのうま味を含んだ調味料だからな。この国で需要が爆発するのも頷けるか。


「今後は魔族の国に輸出するとかは考えてないのか?」


「あ、それについても考えてます。今なんとか量産体制を整えてるところなので……後一年後位にはそちらの国でも出回ると思いますよ?」


「一年後……か。案外すぐかもな。……っとそろそろ本題に入るか、実は今日はな新しい商品の提案をしに来たんだ。」


「新しい商品ですか!?」


 かなり食いぎみにエノールは聞き返してきた。


「新しい商品と言ってもまぁ醤油と原料は同じなんだが……。」


「と言いますと大豆……ですか?」


「あぁ、その通りだ。ただ、少し作り方が難しいが……。」


 私はあるものの作り方をエノールに詳しく話した。そしてそれを作るために必要なというものの存在も事細かに……。


 そして全ての説明を聞いたエノールはメモを書き記しながら、考える素振りを見せ、パタンとメモ帳を閉じると私の方を見つめてきた。


「わかりました……やってみましょう。これは醤油を作り上げた私共にしか出来ない商品のようですからね。」


「期待してる。」


 すっかり商人の顔になったエノールと再びガッチリと握手を交わしたのだった。

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