第85話
そして皆のおかわりに追われているうちに卓の上からきれいさっぱり料理が全て消えてしまった。その行く先はもちろん……皆の胃の中だ。
「むっはぁ~……ちと食べすぎてしまったのじゃ~。」
「ボクもちょっと食べすぎちゃった。あのコメ?だっけ?あれとお魚の相性が良すぎても~……ねっ?」
「あの組み合わせは反則……。私も、食べすぎた。」
「こういうときは、私まだ食べられるわよ?って言いたくなるけど……ホントちょっとキツいわ。冗談抜きでね。」
ふくれたお腹を優しく撫でるたり、卓に突っ伏したりしながら各々皆は言った。まぁ、あれだけおかわりをしていたらな……お腹いっぱいにもなるさ。
「ノノもお腹いっぱいか?」
「はいお師しゃま!!」
「そうか、なら良し。食べることも料理は勉強だからな?今食べた味を再現できるようになればノノも一人前だ。」
「はい!!」
元気に返事をするノノの頭を軽く撫で、私は席を立った。そして冷蔵庫へと向かい、あるものを取り出してきた。
「今日は皆お腹いっぱいそうだから……食後のデザートはこれにしたぞ。」
コトリ……と私はあるものが切り分けられてのせられた皿を皆の前に置いた。すると、カミルが真っ先にこれの正体に気が付いたようだ。
「お!?これはあれじゃろ?霊樹果とかいう果実じゃな?」
「その通り、エルフの国でも言ったけど……まずはこのまま食べてみたくてな。ちょうどみんなお腹いっぱいみたいだし。こってりしたものを作るよりもちょうどいいと思うんだ。」
今の皆の満腹状態を見た限り、変に凝ったお菓子は重たいだろう。ならさっぱりと食べられるものとかが一番だ。ちなみに日本料理には水菓子……と言って季節の果物を切り分けてそのままを味わってもらう食文化が存在する。今回皆にふるまったのも日本料理だし、食い合わせとしては悪くないだろう。
「まぁたまにはこういうのも悪くないかもしれんのぉ~。」
「それにミノル言ってた。一回このままで食べれば次にお菓子につなげられるって。」
エルフの国でのやり取りを思いだしたようにマームが言った。
「あぁ、一度食べれば……まぁだいたいどんなお菓子に使えるかは分かる。だから、一切れ……先に貰うぞ?」
さっきみたいに私が食べる前に全て食べられては意味がないからな。善は急げ、さぁいただこう。
早速私はリンゴのような霊樹果を一切れフォークで刺して口へと運んだ。
そして一度噛んでみると……シャク……シャクと小気味のいい音が聞こえ、じゅわ……と甘酸っぱい汁が口いっぱいに溢れだした。
「ん、美味しいな。爽やかな酸味と甘味……これでアップルパイとか作ったら美味しそうだな。」
霊樹果を味わいながら私はこれで何が作れるのか頭で考えていた。アップルパイにタルト……ケーキ。これを使ってジャムを作ってみるのも悪くないな。
そんなことを考えているうちに、私の目の前から一つ……また一つと切り分けた霊樹果が消えていった。
「ん~……これはこれでなかなか悪くないのじゃ。」
「さっぱりしてて美味しいわね~。」
シャクシャク……と小気味の良い音を響かせながら皆も霊樹果のさっぱりとした味に舌鼓を打っていた。
そんな最中……私はアベルにあることを問いかけてみることにした。
「なぁアベル……。」
「ん?なに~?」
「どうして私が人間だとわかったんだ?」
私の言葉にピタリ……とアベルは霊樹果をアベル手を止めた。
「…………そうボクに聞いてくるってことは、大方君がどういう経緯でここにいるかってことも知ってるんだね? 」
「あぁ、この魔法陣に見覚えがあるだろ?」
私はインベントリから、この城にある書庫で見つけた。手記に記されていた魔法陣が書いてあるページをアベルに見せた。
「あるよ。これは
「で?成功したのか?」
「……君も嫌みなことを言うよね~?わかってるくせに。そ、君が知っている通り、ボクはこれを使って異界からある人物を呼び出そうとした。……でも失敗した。ボクの前には誰も現れなかったよ。ただ……。」
アベルはカミルの方をチラリと見た。
「どうやらカミルのとこに現れてたみたいだね。」
「や、やはりではミノルが…………。」
「そっ、ボクが異界から呼び出した人間……で間違いないだろうね。この時期この国に人間なんて入ってこれるわけないし。あ~んっ!!」
アベルは手に取っていた霊樹果を口に含みながら言った。
「で?呼び出したってことは何か用事があって呼び出したんだろ?」
「ま、そういうこと~。ホントは魔族と人間との対立を終わらせてくれるような力を持ったのを召喚しようと思ってたんだけど……ミノルって正直ボクらから見たら弱々なんだよね~。」
そしてスッとアベルは席を立つと、私たちの周りをぐるぐると歩きながら話し始めた。
「強大な力を持っているわけでもない……じゃあ何を持ってボクの呼びかけに応じたの?って話なんだけど~。初めて君の料理を口にしたとき、ピンときたんだよ。」
私の隣で歩みを止め、アベルは私の顔を覗き込みながら言う。
「君の作るその未知の料理……。そしてお菓子。それが君の武器なんだ……ってね。」
そういうアベルの言動からだいたいのことを察し、私はアベルに問いかけた。
「まどろっこしい話はその辺にして……だ。つまり私に何をさせたいんだ?」
「なんだ~、そこまで読めたの?じゃあ話が早いや。……今から7日後……エルフの王アルマスに君の料理を振る舞ってやってくれないかな?」
「エルフの王に料理を?」
「うん!!まぁ詳しいことは後で話すけど……君の料理に魔族とエルフの同盟がかかってる。……これだけ言えばだいたいは分かるでしょ?」
魔族とエルフの同盟?たしかエルフや獣人は中立の立場にあるってカミルが言っていた気がするが……。何か同盟を結ぶに当たって利害が一致したのか?
……どうする?これは受けるべき依頼なのか?もしこれを断ったら?
そんな葛藤か頭のなかでぐるぐると駆け巡る。そんな時……カミルの不安そうな表情が目に入った。その瞬間、私の頭を駆け巡っていた迷い憂いは全て吹き飛び、一つの結論が残った。
「…………わかった。その依頼受けよう。」
「ホント!?」
「あぁ、ただし報酬に情報を貰うぞ。それでもいいなら受ける。」
「情報……ね?わかった。成功のあかつきにはボクが知りうる全ての情報を教えてあげるよ。」
「契約成立……だな。」
私はエルフの王アルマスに料理を作ることを決心したのだった。
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