第84話

 さて、それじゃあ先ずは煮付けから作っていこうか。


「早速、エルフの国で買ってきた調味料が役立つな。」


 私はインベントリの中から醤油と、もう一つ……あるものを取り出した。


「米があるから、もしかして……と思っていたがまさか本当に日本酒まで作られているとはな。」


 そう、エルードの問屋にて私は米を原料に使った酒……つまるところの日本酒を購入していた。エルフの国ではエルフ酒……と呼ばれているらしいが……。


「煮付けは先ず、酒と甘味で魚を煮る。そして魚に甘味が染み込んだら醤油を入れてコッテリと煮付ける。」


 鍋にカレイのような魚を並べ、そこに酒と砂糖の代わりの蜂蜜を入れる。味醂もあれば良かったんだが……流石にエルードの問屋にも味醂は置いていなかったから、今回は少し蜂蜜を多めに入れよう。


「後は一度沸くまでそっとしておこう。」


 その間にお吸い物……今回はアラ汁を仕込む。


「三枚に下ろして、残った骨の部分と……二つに割った頭で出汁を引こう。」


 よく血を洗ったアラを鍋に入れてヒタヒタになる位まで水を注ぎ、そこにたっぷりと酒を注ぐ。そしてこちらも一度沸いてくるまでは放置。


「よし、この二つは後は沸いてくるまで放置しておいて……そろそろ米の吸水が良い感じの頃だろう。」


 吸水を終えた米を土鍋に移しそこに水を注いで火にかける。


「最初は強火に近い中火で沸騰するまで待つ。」


 そして米を火にかけると、隣で沸かしていた煮付けとアラ汁の方がポコポコと沸騰し始め、灰汁が出てきていた。この二つは灰汁をしっかりと取って、醤油で味を決める。


「……これで良し。後は煮付けの方だけ火にかけてコッテリとさせれば良さそうだ。」


 アラ汁の方の火を止め、煮付けの方だけ少し火を落として煮詰めていると、土鍋のふたから蒸気が噴出し始めた。中が沸騰している証拠だ。


「後はこれで火を弱火に落として……10分。」


 そして10分弱火で熱した後、最後に一瞬だけ強火で熱し残っている水分を飛ばしたら……火を止めて更に10分蒸らす。


「これならちょうどよく煮付けがコッテリとしてくるぐらいと同じ時に炊き上がるな。」


 そして10分後……煮付けはコッテリとし、米はふっくらと炊き上がった。


「良し……バッチリだ。」


 カミルとヴェルは……ご飯は丼に盛った方がいいかな?多分めちゃくちゃ食べると思うんだが。……うん、丼に盛ろう。

 そして皆の分の料理を盛り付け、私は待っている皆の元へと向かった。


「お待たせ、できたぞ。」


「おぉ~!!待っておったのじゃ。どれ、今日は……ってなんじゃ?」


「凄い……これ生のお魚だよね?ねっ?生のお魚って食べれるの?」


「あぁ、食べられるぞ。今日はこいつをつけて食べてくれ。」


 私は小皿に醤油を注いで皆の前に差し出した。それを見てヴェルが何かに気が付いたようだ。


「あっ!!これってあれよね?エルフの国でミノルが作ったやつよね?」


「そうだ。今までの生の魚の刺し身とはまた一つ……次元が違うぐらい美味しくなると思うから、食べてみてくれ。」


「また一つ次元が違う……じゃと?それは楽しみじゃな。……で?この白い粒々はなんなのじゃ?」


 カミルは炊きたてのご飯を指差して私に問いかけてきた。


「それもエルフの国で買った米って食材だ。その魚の刺し身とか煮付けとかと一緒に食べてみてくれ。」


 そして皆に料理の食べ方等々を説明すると、私はノノの隣に腰かけた。


「む!?今日はミノルも食べるのかの?」


「あぁ、ちょっと食べたくなってな。お腹が減っている訳じゃないが……。」


「あら?いいじゃない?つまりこれって、ミノルが食べたくなるほど美味しいってことよね?」


「言い換えればそう言うことだな。」


「へぇ~それは楽しみかも!!ねぇ、早く食べよう?ボクそろそろ我慢できないや。」


「うむ、妾ももう我慢ならん。さっ、食べるのじゃ~!!」


 そしてカミル達は料理に手をつけ始めた。私も料理を食べようとした時、横に座るノノが未だ料理に手を伸ばさず……じっと眺めているのが気になった。


「ノノも食べて良いんだぞ?」


「あぅ……で、でもノノはお師しゃまより後に食べないと。」


「そんなこと気にしなくて良い。ノノはもう奴隷じゃなくて、私の弟子……だからな。さ、わかったらカミル達に食べ尽くされる前に食べよう。」


「わ、わかりました!!えと……い、いただきましゅ!!」


 そしてノノもカミル達に負けじと料理を食べ始めた。口いっぱいにご飯を頬張り食べているその姿はとても愛らしい。


「さて、私も食べようか……な。」


「ミノル!!この粒々おかわりじゃ!!」


「私もおかわり~!!大盛りでお願い。」


「ボクにも頂戴?カミル達と同じお皿でいいよ?」


「私も……おかわり。この白いやついっぱい。」


 私が食べようとした時にはすでにノノ以外の皆のご飯茶碗からご飯が消えていた。


「いや~、まさかこの白い粒々がこんなにも……この魚に合うとは思わなかったのじゃ。」


「ね~?ホント相性抜群!!手が止まんないのよ~。」


 どうやらカミル達の口にも米と醤油……そして魚の鉄板の組み合わせはバッチリ合ったらしい。


「今持ってくるよ。ちょっと待っててくれ。」


 カミル達のおかわりを持ってこようと席を立とうとした時、隣から視線を感じた私はノノの方を振り返ってみた。すると、そこには物欲しそうに空になったお茶碗を持ったノノがいた。


「あぅ…あ、あのお師しゃま。」


「おかわりだな?いいぞ、ほら……それ貸してくれ。」


「あっ……ありがとうございましゅ!!」


 ノノの食べっぷりもカミル達に負けていない。まぁ今回はノノがリクエストした魚料理ってこともあるんだろうがな。


 ま、私は後でゆっくり食べようか。……それまでに料理が残っていればいいんだが……。

 そんなことを思いながら私は皆のおかわりを盛ったりする役目に徹するのだった。

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