第57話

 カミル達が湯から上がって休憩している間、私も少しゆったりと過ごしていると……。


「ミノルは水浴びに行かんのか?」


「ん?あぁ、私は一日の終わりに風呂に入ることにしてるんだ。」


今すぐに入りたいという気持ちもないわけでもないが、今ここはぐっと我慢して今日の最後まで取っておくことにしよう。


「む、そうか……であれば今日も今日とて買い物に行くのじゃ!!」


「今日は何を食べようかしらねぇ~。昨日は魚だったし~一昨日はお肉だったし~。」


「私はおいしかったらなんでも……いい。それよりもお菓子が楽しみ。」


 マームはにっこりと笑いながらこちらに視線を向けてくる。その視線から「約束を忘れていないだろうな?」という強い意思が伝わってくる。もちろんマームとの約束は忘れていない。浴槽を作ってくれたマームの頑張りに酬いる形で今日のお菓子タイムに少しサービスさせてもらう。……のだが、カミルとヴェルに内緒でマームにだけサービスするというのは間違いなく二人の反感を買う。さて、どうしたものかな。


 いかに二人にばれないようにマームにサービスするかが今回の肝になってくる。昨日は全員分作ろうと思っていたが……それだとやはり今回の功労者であるマームが納得がいかないだろう。作るとしたら外見は同じでも、中身が違うお菓子か。


「そうなると今日のお菓子はあれしかないな。」


 頭の中で私はある程度何を作るのか構想を練る。そして私が頭の中で構想を練り固めている間、カミルたちは今日何が食べたいのかを話し合っていた。


「やはり昨日は魚じゃったから今日は肉ではないか?たっぷりと肉汁滴る肉が喰いたいのじゃ~。」


「それ私も思ったのよね~。お肉食べた~い。」


 二人は肉汁滴る肉を想像して口元から今にもよだれが垂れてきそうになっている。一方のマームはもう今日のお菓子タイムのことしか頭にないようだ。

 ほわわ~んと想像で頭をいっぱいにしているカミルたちに私は問いかける。


「食べたいものは決まったか?」


「うむ!!妾は肉が喰いたいのじゃ!!」


「私もお肉が食べた~い。」


「肉……か。肉と偏に言ってもいろんなのがあるぞ?牛肉に豚肉、鶏肉に獣肉……ちなみにこの前ヴェルが食べたハンバーグは牛肉と豚肉を混ぜた肉で作ったやつだぞ?」


 何の肉が食べたいのか詳細を問いかけると二人は再び頭を悩ませる。肉の種類によっても作る料理や調理法は変わってくるからな。


「む~……どうしようかのぉ~。」


「何の肉か~ってとこまでは決めてなかったわね。」


 二人は私の言葉に頭を悩ませる。このままだと、ちょっと思い付かなさそうだな。


「ま、ここで無理して悩むよりも実際に行ってみてから食べたいと思った肉を買えばいいと思うぞ?」


「ではそうするのじゃ!!」


「じゃあ後はどの街に行くか~ってとこだけね。どこがいいかしら?」


「まぁ、そんなに深く考える必要はないと思う。なんならライネルのあの肉屋でもいいし……。」


 それにあの店なら何度か訪れているから、多少贔屓して良いものを出してくれるかもしれない。


「では今日はライネルに向かうかの。」


「あ、ライネルに行くんだったらまたあの商会に行ってもいいか?そろそろ小麦粉が底をつきそうでな。」


 お菓子を作る上で小麦粉は欠かせない物だ。あれが底をついてしまうと、皆にお菓子を提供できなくなってしまう。

 それに小麦粉だけじゃなく、塩とか諸々の調味料もだんだん底が見え始めている。ここらで一度買い足しておきたいのだ。


「もちろん良いぞ?ではそうと決まれば出発するのじゃ!!」


 カミルはグイッと私の手を取り、歩きだした。このまま私を中庭まで引きずり、そのまま抱えて飛び立つつもりだろう。私としてはカミルに運んでもらうことには、何も異論はないからこのまま身を任せて……。


「ちょっと待った!!」


「「!?」」


 突然私の空いている方の手をヴェルとマームが握ってきた。


「な、どうしたのじゃ?」


「カ~ミ~ル~あんたそのままミノルのこと運んでいくつもりでしょ?」


「抜け駆け……良くない。今日は私の番。」


「な、何を申しておるのじゃ!?お主らの肉体的疲労を妾が肩代わりしようと思ってじゃな……。」


 もっともらしい理由をカミルが述べるが、ヴェルとマームもなかなか退かない。


「肩代わりしなくていい……よ?私だってミノル位なら全然運べるもん。」


「私だって誰よりも速く空を飛べるし?一番適任なんじゃないかしら……ねぇ?」


 そしてギャーギャーと三人は、私のことを誰が運ぶか……で争い始めてしまう。どうしてこんなことになってしまっているのだろうか?

 三人の間に挟まれ腕を引っ張られながら、内心大きくため息を吐いていると遂に私に白羽の矢が立った。


「むぅっ……で、ではっみ、ミノルはどうなのじゃ!?」


「!?」


「ミノル!!お主は誰に運ばれたいのじゃ!?」


「もちろん私よねぇ~?」


「私……だよね?」


 じりじりと三人は、私に詰め寄ってくる。仮に誰か一人を答えてしまった先に待っているのは……非常に良くない結末だ。だとしたら私の答えは一つしかない。


「取りあえず私は安全に運んでくれれば誰だって構わないんだが……。」


「そんな曖昧な答えは求めておらんのじゃ~!!」


「そう言われてもだな……。」


 三人から逃げるように一人中庭へと先にたどり着くと、中庭の真ん中に黒い紳士服のようなものを身に纏った老人が立っていた。

 私の後に続きカミル達が中庭に出てくると、その老人はペコリとこちらにお辞儀をして言葉を話した。


「ご機嫌麗しゅうございますカミル様、ヴェル様。突然で恐縮なのですが……魔王様がお呼びです。そちらの従者の方も連れてくるように……とのことです。」

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