第56話

 そしてピッピに引きずられ何とかモーモーがいる場所までやってきた私は、彼女から新鮮な牛乳を搾らせてもらった。

 いつもいろいろなものに使わせてもらっているからな。モーモーには感謝しないといけないな。感謝の意を込め、私がモーモーの頭をいつもよりも多めに撫でていると……。


「ピィ~~~……。」


 嫉妬心を抱いたのか、自分も撫でろと言わんばかりにピッピが私に頭をぐりぐりと押し付けてくる。私は苦笑いを浮かべながら、空いていた方の手でピッピの頭を撫でてあげるとピッピは満足そうに甘えてきた。


「っと、さてそろそろ戻ってこいつを冷やしておかないとな。」


 今回はキンキンに冷えた冷た~い牛乳をお風呂上りに彼女たちに飲んでもらおうと思う。マームからもらった蜂蜜もあるし、せっかくだから蜂蜜牛乳にしようかな。そうと決まれば早いところ作って冷やしておこう。


「それじゃ、モーモー、ピッピのことは頼んだぞ?ピッピも、いくら魔眼が使えるようになっても危ないことはしないこと……わかったな?」


「ンモッ!」


「ピィッ!!」


 モーモーにピッピのことをお願いして私は城の中へと戻り、厨房へと向かった。そして早速搾りたての新鮮な牛乳を温め蜂蜜を溶かしいれる。あとはこいつを冷やすだけだな。

 

「さてさて、カミルたちは今頃どんな反応をしてるかな?」


 カミルたちが湯船から上がってくるまでの間、私は一人厨房で蜂蜜牛乳を作って待つのだった。











 一方その頃カミルたちは……。


「確かミノルはこの姿で裸になって入れと言っておったな。」


「そうね、だからこうすればいいのよね。」


 パチンとヴェルが指を鳴らすと、さっきまで自分の体を包んでいた服が体に吸い込まれるように消えていき綺麗な白い肌が露わになった。もともとは、今カミルたちが身にまとっているように見える服のようなものは彼女たちの鱗なのだ。だから収納も変形も自由自在……というわけだ。


「お主は本当に何の躊躇いもないのぉ~……。」


「別にオスに見られてるわけじゃないんだからねぇ?恥ずかしがる必要なんてないじゃない?それにそんなに初心うぶって歳でもないでしょ?」


「まぁそれはそうじゃが……。お主は少しは恥じらいというものを知るべきじゃぞヴェルや。」


 恥ずかしがる様子すら見せずに素肌をあらわにするヴェルに大きくため息を吐きながらも、カミルもパチンと指を鳴らし白く艶のある素肌をさらけ出す。そして二人に続いてマームも着ていた衣服を脱ぎ裸になった。


「さて、ではさっそく水浴びをさせてもらうとしようかのぉ~。」


「温かいお湯で水浴びなんて初めてだから楽しみね~。」


「裸寒い……早く入る。」


 そして三人はつま先からゆっくりと湯船に体を沈めていき、肩まで浸かるとみんな同時に気持ちよさそうに大きく息を吐いた。


「「「はぁ~~~~……。」」」


「これはなかなか……うむ、普通の水浴びには戻れなくなるのぉ~。」


「水が温かくなるだけでこんなに違うのね~。」


「ぽかぽか……気持ちいい。」


 暖かい湯に浸かり、ほっこりとした気分になっている三人だったが……そんな時ふとカミルの頭をミノルの言葉がよぎった。


「そういえばミノルがいくら心地が良くても長居はするな……と言っておったな。」


「こんなに気持ちいい~のにねぇ~。ちょっとぐらいなら大丈夫なんじゃない?」


 ちょっぴり……と指で表現しながらにこやかに悪魔の囁きをするヴェルにカミルはブンブンと首を横に振った。


「いや、ダメじゃ。」


「え~?なんでよ~。」


「この誘惑に身を任せ、ミノルが言っておった通りになっては困るからのぉ~。」


「う……た、確かに。」


 ヴェルはこの湯に浸かる前にミノルが言っていた事を思い出す。そしてカミルと同様に首を横に振った。


「一時の心地よさとミノルの料理……どっちを取るかって言われたら、ミノルの料理一択よね。」


「私はミノルの料理もお菓子も食べたい。だからミノルの言うこと聞く。」


「うむ、それが懸命な判断というものじゃろう。さ、そうと決まればさっさと体を洗って上がるのじゃ~。」

 

 三人は一時の心地よさをしっかりと味わい、尚且つミノルの言いつけを守り逆上のぼせることなく湯船から上がったのだった。


 そしてミノルの言いつけを守り湯船から上がった三人を待ち構えていたのは、キンキンに冷やされた冷たく甘~いミノル特製の蜂蜜牛乳だった。


「はい、皆。湯上がりのお供にこれを飲んでみてくれ。」


「冷たっ……これはモーモーの乳か?」


「そっ、モーモーの搾りたての牛乳にマームの蜂蜜を混ぜた蜂蜜牛乳だ。湯上がりで体が火照ってる今の内にグイッと飲んでくれ。」


「蜂蜜……牛乳!」


「ちょうど喉が渇いてたのよ~いただきま~す!!」


 ミノルからキンキンに冷やされた蜂蜜牛乳を受け取った三人は、それを火照って水分を欲している体に流し込む。すると、何かに取りつかれたように彼女達は一心不乱にゴクゴク……とそれを一気に飲み干した。


「「「ぷはっ!!」」」


 火照った体に冷たく、甘く染み渡るそれは彼女達を一瞬で虜にしてしまう。


「ミノル!!妾はおかわりを所望する!!」


「私も欲し~い!!」


「もっと……もっと飲みたい!!」


「はいはいっと、そう言うと思って準備しておいたよ。」


 ミノルは予め用意しておいた冷たく冷やした蜂蜜牛乳を彼女達に振る舞う。


 彼の一日はまだ始まったばかりだ。

 

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