第42話
それから少し時は流れて……城の厨房にて。
「で……これはいったいどういうことなのじゃ?」
新たに作られたプリンを食べながら、カミルは今この状況について質問を投げ掛けてくる。カミルが疑問に思うのも当然で、私のとなりでは先ほど大量の蜂を率いていた少女が幸せそうにプリンを頬張っているのだ。
「まぁ、カミル達が水浴びに行ってる間にこんなことがあってだな……。」
私はカミルとヴェルの二人に、事の経緯を説明する。すると、カミルは大きなため息を吐きながら大きく頷いた。
「なるほどのぉ~状況は理解したのじゃ。つまり、こやつは一度は蜜を取り返しに来たが……ミノルが作った甘味の味を知って堕ちた。ということじゃな。」
「ジュエルビーの女王といえどもミノルの作る物には勝てなかったみたいね。」
納得……といった感じで二人は大きく頷く。そんなに納得できる理由だろうか……と疑問に思ったが。まぁ事実であるから仕方がない。
「んふふ……おいしい。おかわりっ!!」
「はいはいっと。」
「む、ミノル。妾もおかわりじゃ!!」
「私もお願いね~。」
少女のおかわりに続きカミルとヴェルもプリンのおかわりを要請してくる。
すると、少女は少しムッとした表情を浮かべ私に言った。
「む……なんでこの二人も食べてる?」
「ん~、何でって言われたらこっちのカミルって人が私の主人だから……かな?」
「そうじゃ!!妾がミノルの主人カミルじゃ!!わかったかジュエルビーの女王よ。」
勝ち誇ったようにカミルが少女のことを指差しながら言ってのけると、少女は少しうつむき考える素振りを見せた。そして何かを思い付いたようで目を輝かせながら、少女は私の手を取った。
「じゃあ私が主人になれば……このお菓子私だけのもの?」
「「「ん゛!?」」」
私を含めた三人は同じ事を思っただろう。
でなければこうまで同じリアクションをとれるわけがない。
「ま、待て!!待つのじゃ!!小娘、貴様妾からミノルを奪うつもりかの!?」
プリンを食べるのを途中で止め、焦ったようにカミルは少女に問いかける。
「………?悪い?」
「悪いに決まっておろう!!さっきも言った通りミノルは妾のものじゃ!!」
そして私をめぐって二人の間で口論が始まってしまった。間に挟まれている私としてはとても複雑な気持ちだ。あれか?三角関係に巻き込まれた女性というのはこういう気分なんだろうか?
二人の口論をため息を吐きながら眺めていると、横腹をヴェルにつつかれる。
「ミノル~……あれ止めなくて良いの?そろそろカミルもあの子も本気になっちゃうわよ?」
「本気……っていうと?」
「
にっこりと笑いながらヴェルは言う。完全に他人事でしかないようだ。
だが、実力行使は困る。怪我をされては困るし、ここの調理器具を破壊されたら料理ができなくなるからな。
「まぁ二人とも落ち着いてくれ。」
「落ち着いてられる状況ではないのじゃ!!ミノルは妾のものじゃということを……むぐっ!?」
私に声をかけられても一向に落ち着く様子がないカミルの口に、私はプリンをのせたスプーンを入れる。すると、途端におとなしくなった。
「さて、今度は私と話をしようか。まずはそっちの要求を聞かせてくれ。」
「あなたが欲しい。」
「それは私がお菓子を作れるから……だろう?」
そう問いかけると少女はコクリと頷いた。
「だが、困ったことに私はここじゃないとこういうお菓子は作れないんだ。それがどういう意味か分かるな?」
「ん……つまりあなたを手に入れるには、そこのカミルってやつを倒して、この場所ごと手にいれないといけない。」
「その通り。しかしその方法ではかなり危険だろ?君は女王……仮にもし君が負ければ巣はどうなる?」
「あぅ……それは危ない。」
よし、上手いこと話が進んだ。
「そこで提案だ。君が私に定期的に蜜を提供してくれるなら……私はそれに酬いる形でお菓子を作らせてもらおう。それでどうだ?」
「毎日蜜持ってきたら……毎日お菓子作ってくれる?」
「もちろん良いぞ?ただ、そのお菓子はこの二人も一緒に食べることになるが……その分満足できる量を作ると約束する。」
そう提案すると少女は私の手をぎゅっと握って答えた。
「それでいい。じゃあ明日も明後日も……蜜持ってくる。だからお菓子作って?」
「わかった。それじゃあよろしく頼む……えっと君の名前は?」
「マーム。」
「そうか……それじゃあよろしく頼むよマーム。私のことは気軽にミノル……と呼んでくれ。」
「ミノル……よろしく。」
よし、計画通りだ。私の負担が増えたのは致し方なしだが……これで定期的に良質な蜂蜜を手に入れられる。
この契約に満足していると、プリンを食べ終わったカミルがいよいよ口を開いた。
「な、ふ、二人で勝手に何を進めておるのじゃ!!」
「ん?不満だったか?カミルにとってもいい条件なんだが……。」
「妾にとっても良い条件じゃと?」
「あぁ、マームが蜂蜜を定期的に持ってきてくれるということは……常に蜂蜜を使った料理やお菓子が作れるようになるということだ。……つまり簡単に言うならば、毎日お菓子を作れるようになるということだな。」
そう説明し終えるとカミルは私の目の前から消え、いつの間にかマームと握手を交わしていた。
「妾はカミルじゃ、マームと言ったな?よろしく頼むのじゃジュエルビーの女王よ。」
「ん、カミル……よろしく。」
「私はヴェルよ。よろしくねマームちゃん?」
更にヴェルも混ざりみんなで自己紹介をしていた。何とか上手くまとまったことに安心感を覚えたが……それと同時に三人の口元からよだれが垂れそうになっているのを見て、これからより一層大変な生活になることを覚悟したのだった。
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