第43話

 そして夜になり……私がベッドで横になっていると下から地響きのようなものが幾度か聞こえた。

 それによってうとうととしていた意識が覚め、目を開けてしまった。


「ん……また地震か?」


 日本にいたときは地震なんて日常茶飯事だったから、よほど大きいものでない限りそんなに驚きはしないが……。


「こうも連続で何度も揺れると少し不安になるな。」


 そう、先ほどから立て続けに何度も小さい揺れが続いているのだ。


「……何もないといいんだが。」


 幸い大きな地震が起きても、カミルの城は海から離れたところにあるし、崖とかが近くにあるわけでもない。自然災害のことは気にしなくて良さそうだ。


「寝不足になる前に寝ないと……。明日に響いたら困る。」


 無理矢理まぶたを閉じ、毛布を深くかぶって私は眠りについた。

 私が眠っている間も、ずっと小さな地震は続いたのだった。









 窓のカーテンの隙間から差し込んできた朝陽の眩しさで目を覚ました私は、ぐ~っと大きく背を伸ばした。


「ふあぁ~……いつもならあくびなんて出ないんだが、やっぱりちょっと寝不足気味か?」


 普段はしない大きなあくびを一つしたことで寝不足を疑ったが……倦怠感はない。これならいつも通りやれる。


 そして部屋の窓のカーテンを開けて外を眺めてみると、今日の天気も相変わらずの晴天のようだ。やはりスッキリと晴れた朝ってのは気分的に良いものだ。さ、今日も一日頑張るか。


 踵を返して部屋を出ようとした時……ふっと何かが窓を横切っていった気がした。


「ん?今……何か。」


 再び窓辺に立ち、外の景色を見てみるが……やはり何もいない。


「気のせいか。」


 寝ぼけてたんだろうと、たかをくくり苦笑いを浮かべたその時だった……。


「ッ!?」


 今度は私の目の前を見覚えのある黒と黄色の縞縞模様をした何かがすごいスピードで通りすぎていった。


「い、今のって……良く見えなかったけど、多分マームの蜂だよな?」


 な、何でこんなところにいるんだ?


 疑問になっていると、次々に黒と黄色の縞縞模様をした蜂が飛び立っていくのが見えた。


「……なんだろう。すごい嫌な予感がする。」


 次々と飛び立っていく蜂達を眺めていると、私の部屋の扉がコンコンと優しくノックされた。


「ミノル?入る……よ?」


 扉の向こうから聞こえてきたのはマームの声だった。昨日プリンをさんざん味わった後帰ったと思ったんだが……また朝早くに訪ねてきたようだ。

 そしてマームが部屋の扉を開けて、私の部屋の中へと入ってくる。


「おはようマーム。」


「ん、おはよう。」


「早速で悪いが……ちょっと聞きたいことがある。」


「何?」


「さっきからマームの蜂が飛び立っているような気がするんだが……。」


「うん、そうだよ?昨日の夜ここにしてきたから。」


 きょとんとした表情でマームは答える。


「お、お引っ越し?」


「うん。このお城の地下にお引っ越ししたの。」


 昨日の立て続けに起きていた、小さな地震はまさかそういうことだったのか!?


「な、何でまた引っ越しなんて……。」


「ミノルに毎日会いに来るのに、前の巣の場所遠かった。だからお引っ越ししたの。」


 う~ん。至極ごもっともな理由だ。人で例えるなら、職場が遠いからその近くのアパートを借りるようなものだろう。


「あ、これ今日の蜜。」


「あ、あぁ……ありがとう。」


 マームから今日の分……と大きな巣房を渡される。ずっしりと重いこの中にはたっぷり蜂蜜が詰まっているのだろう。

 私はひとまずそれをインベントリの中にしまった。そして一つ息を吐き出すと、マームに腕を掴まれる。


「ミノル、お菓子作る。今すぐっ!」


「ッな!?ちょ……頼むから引っ張らないでくれ!!」


 上機嫌なマームに私は手を引かれ、ずるずると引きずられる。試しに全力で抵抗してもまったく敵わない。

 どうやらこの世界では私はこんな少女にも力で敵わないらしい。


「む~?お主ら何処へ行くのじゃ?」


 ポッキリと心がへし折れそうになっている私の前にカミルが現れた。


「あ……カミル、今からミノルにお菓子作ってもらうのっ!」


「む、待つのじゃマーム。甘味は飯の後……と相場が決まっておる。」


「飯?……ご飯?ご飯ってお菓子じゃないの?」


「まったく違うぞ?飯は飯、甘味は甘味じゃ。美味しい飯の後に食べる甘味こそ至極の味なのじゃ!!」


「至極の……味っ!」


 カミルの言葉にマームは目を輝かせる。まぁ確かにカミルの言っていることは間違いじゃない。塩味を感じた後に食べる甘味というのはより一層際立つものだからな。


「じゃあ最初にご飯食べる。それもミノルが作る?」


「あぁ。」


「美味しい?」


「うむ!!美味しさは妾が保証するのじゃ!!」


 そんなやり取りをしていると、後ろから声がした。


「ふあぁ~~~……朝から元気ねぇ~。」


 後ろから来たのはヴェルだった。まだ寝足りないのか、大きなあくびをしている。


「おはようヴェル。」


「おはよ~……ふあぁ~……。」


 あくびが止まらないらしいヴェル。意外と朝が弱いのかもな。


「眠いなら寝ててもいいんだぞ?」


「ん~嫌よ~。だって今日も何処かに料理の材料買いにいくんでしょ?私も一緒に行きたいもん。」


「そうか……なら、まず寝癖を直してきた方がいいぞ?」


「うえっ!?そ、そんなに?」


 驚くヴェルに私を含めた三人は大きく頷く。すると、顔を真っ赤にしてカミルに借りている部屋へと戻っていった。


「ヴェルは朝が弱いんだな。」


「今まで引きこもっておったからじゃろう。……して今日は何を買いに行くのじゃ?」


「二日間肉が続いたからな。そろそろ海街で新鮮な魚を買いたいところだ。」


「おぉ!!良いのぉ~魚。では今日は海街へ出掛けるとしよう。」

 

「私も行くっ!」


 そしてヴェルが髪を整えて出てくるまでの間、魚の料理についての会話で盛り上がる三人だった。

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