第41話
砂ぼこりの中から現れた少女は、私の事を指差しながら言った。
「見つけた。
み、蜜泥棒?いったいどういうことだ?そんなことをした覚えはないぞ!?身に覚えの無い言い掛かりに混乱していると、私はあることを思い出した。
……いや、待てよ?蜜……っていったら多分あれの事だよな。ライネル商会で買ったあの
「……まさか、君はジュエルビーの女王……なのか?」
私は確信を得るために、こちらを指差している少女に問いかける。すると……。
「ん、その通り。私があの子達の女王。盗まれた蜜取り返しに来た。」
やはり私の予想通りだった。さて……どう弁解したものか。取りあえず正直に事情を説明してみるか。
「待ってくれ。一つ誤解を解きたい。私は蜜を買っただけで、君達の巣から盗んだのはまた別な奴だ。」
「……それ、ホント?嘘だったら……
少女は上空で待機している蜂に、何かの合図を出した。すると、一匹の大きな蜂が私の目の前に飛んでくる。そしてじっ……と瞳の奥を覗き込んできた。
……最近何かと目の奥を覗かれることが多い気がするな。おおかたこの蜂は、さっきの言葉が嘘かどうか見極める事ができるのだろう。
そんなことを思っていると、私の目の前にいた蜂が少女の下に戻る。戻ってきた蜂の頭に手を置いて、瞳を閉じた少女は一つ大きく頷くと私の方に向き直った。
「嘘……じゃない。それじゃあ……蜜返してくれたら帰る。」
「す、すまない、実は今日蜂蜜を全部使いきってしまったんだ。」
「う、嘘……。ま、間に合わなかった。」
さっきまで無表情だった少女は、まるでこの世の終わりのような絶望の表情を浮かべ落ち込んだ。
「な、何に使った?くだらないことに使ってたら殺しゅっ!!」
涙目になりながら少女は問いかけてくる。蜂蜜を全部使われていたことが余程ショックだったらしい。
「あ、お菓子に使ったんだ。」
「……!!お菓子?」
お菓子という言葉にピクンと少女は反応する。
「あぁ、これを作ったんだ。」
私はインベントリを開き、後で一人で食べようと思って残しておいたプリンを取り出し、少女に見せた。
すると少女は私の手からプリンを奪い取り、目を輝かせながら問いかけてきた。
「……食べてもいい?」
「構わない。これを使うといい。」
「ありがと。」
私からスプーンを受けとると、少女はそれでプリンを掬い取り口へと運んだ。
「…………!!」
すると少女は一度驚きからか、大きく目を見開いたあとうつ向いた。その体は小さくぷるぷると震えている。
お、美味しくなかったか?
不安になっていると、少女はボソリと口ずさむ。
「おい……しい。」
そう口ずさむと、少女はペロリとプリンを食べ終えてしまう。まさにあっという間だった。
そしてプリンを食べ終えると、じっ……と私の事を見つめながら問いかけてくる。
「もう……無い?」
「悪いがそれで最後だ。」
「蜜あれば作れる?」
「あ、あぁ……作れるぞ?」
「ここで待ってて……逃げちゃダメ。」
ここで待て……と私に言った少女は、軽く地面を蹴ると大量の蜂が待機している空へと飛び上がっていった。そして大量の蜂を連れて何処かへと行ってしまう。
「ふぅ……ようやく一息つけそうだな。ピッピ、もう大丈夫だぞ?」
先ほどからずっと私の体に密着して震えていたピッピの頭を撫でてあげると、少し落ち着いたようで体の震えが止まった。
しかし、先ほどから私の向いている方とは反対の方向……つまり私の後ろを睨み付けている。
その視線を追うように後ろを振り返ると、そこには……。
「……監視役を残していったか。」
無音で羽を羽ばたかせる特大サイズの蜂がこちらをじっと見つめていた。
「にしてもデカいな。こんなのが地球にいたら大変だ。」
だいたい1m位の大きさだろうか?こんなサイズの蜂なんて初めて見た。
B級映画でもこんなサイズのは見たことがないな。てかまず、蜂を題材にしたものがそんなに多くないからかもしれないが……。
「カミル達が戻ってくるのが先か、それともあの少女が戻ってくるのが先か……。いずれにせよ面倒事は避けられそうにないな。」
だが、ある意味これはチャンスなのかもしれない。あの少女と上手く交渉すれば、定期的に美味しい蜂蜜を手に入れられる。幸い私の作ったプリンはお気に召したようだし……な。
「にしてもあんな幼そうな少女がこの蜂達の女王とはな……。」
いや、外見で判断するのはダメだな。カミルだって変身した姿はまるで人間の少女のようだし……あの少女ももしかするとカミルと同じく長い年月を生きているのかもしれない。
幼い見た目だからといって油断はしないでおこう。足元を掬われては困るからな。
一人警戒心を高めていると、突然背中をちょんちょんとつつかれた。
「ん?」
後ろを振り返るとそこには、先ほど飛び立っていった少女がいた。その手には大きな巣房のようなものを抱えている。
「はい、これ。」
「これは?」
「あの子達が集めた蜜。これがあればさっきのお菓子……いっぱい作れる?」
少女の問いかけに私は大きく頷いた。
「そ、それじゃあ早く……早く作って?」
「あぁ、任せてくれ。」
私は少女に急かされながら厨房へと向かう。そして受け取った蜂蜜を使って大量にプリンを作り始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます