亜節虚項「第四高校テイマー部テイル」

 ここはアラウスベリア県の某所。

 

 市民の生活圏の安全確保、絶滅が危惧される龍種の保護、商業的利用を前提とした繁殖、育成。捕獲。様々な目的を一元的に解決するためにアラウスベリアに点在するあらゆる組織、株式会社、教育委員会などなどが共同で参画、出資し――


 とある高校の部活に丸投げしたのだ!!


 それがアラウスベリア第四高校ドラゴン部なのである!

 (通称:アラ四ドラ部)



「まずい転校初日から遅刻だっ!」

「ティムズ、朝食を……」

「あああごめんばあちゃん、ほらトースト!卵焼き!ウィンナー!行ってきます!!」


 だだだだ。

 自宅を飛び出し通学路を全力疾走するティムズ。走るのは苦手なのに。


 だだだだ。どどどど。

 自分の足音に混じり、何やら不吉な轟きが追いかけてきていた。

「えええ!?」

『がおー!』

「ぎゃああ!」

 なんか後ろから超でっけえドラゴンが追いかけて来てんですけど!


 巨大なトカゲっぽいドラゴンはヨダレだらだら、電柱や駐禁の車を薙ぎ倒し、圧し潰しつつ、間違いなくティムズを標的にしている様子。

「すいませんどいてどいて!危ない!」

「わー!」「きゃー!」

「キャイーン!」

 驚いた近所の住人と犬に叫びながら、ティムズは何度か曲がり角を曲がる。

 でもやっぱりドラゴンは追いかけてきた。ドリフトしながら。


 たたたたっ。

 何時の間にか、軽やかな足音が近付いて来る。影が並走している。

「何してんの、その手に持ってるのを離してっ。早く!」

「へ?」


 なるほど、ティムズは朝食で用意したウィンナーを片手に持ちっぱなしだったのだ。慌てて放り投げると、F/ II:多獏科龍はそのままの勢いでウィンナーに喰いつき、美味しそうにぺろりと平らげて、どっか行った。


「ふう……危ないところだった。あなたどうかしてるの?龍の好物をこれ見よがしに持ち歩くなんて」

「つ、ついうっかり……というか転校してきたばかりで」

「うっかりって……気を付けてよ。あんたみたいなバカが居るから私たちが忙しくなっちゃうんだから」


 彼女の背後には身長2mほどの漆黒の龍が音もなく浮かび、付き従っている。

「ねー?ノシュテール」

 黒龍はうんうんと頷いた。

 彼女の心にちっちゃな頃から寄り添ってきたスタンドみてーな龍である。

 

 ティムズは自分を救ってくれた金髪ポニーテールの美少女……ミリィに一目惚れしてしまった。なんとティムズの転校先、第四高校のドラゴン部に所属する二年生らしい。制服というか、ミニスカで全力疾走するので程よくパンチラを供給してくれる。

 

「ドラゴン部……あまりに過酷な部活なので入部した者はほぼ半年以内に辞めていくという……」ごくり。

「でもミリィが居るし!入るっきゃない!」


 ということでティムズは入部を即決。


 第四高校の内外には様々な龍が生息している。これをとっ捕まえたり追い払ったり、周辺の住民に危害が及ばないようになんとかするのもドラゴン部の部活にんむである。


「さっきから空にふよふよ浮いてるの白い紐みたいなのは?」

「うん、エヴィタ=ステッチ。でもあれ着ぐるみなの。中に人っぽい龍が入ってる。でもたまに降りてきて大暴れするくらいだから気にしないで」


 こんな感じで色々と教えてもらったり、案内してもらったりした。

 

「それも大変なんだけどさあ、デト高のやつらが事ある毎にこの辺の龍を捕まえに来るんだよね。そっちの方が面倒っていうか……」ミリィは心底嫌そうに語る。

「ねえタファール?あんたも良い加減スパイやめなよ。まだ続いてんの?デト高の彼女と」


「とは言え離反したらヤキを入れられるからさあ……判ってくれよ大変なんだよ俺も」

 三年生の先輩タファールは、実はデトラニア共学校から第四高校に堂々と送り込まれた密偵なのだ。職員室に忍び込んでテストの答案を改竄するなどの悪事に手を染めているが、全部バレてることをよくイジられてる。

 因みにデト校はちょくちょく五台の黒いトラックで第四高校にカチ込みをかけてくるらしい。まあミリィの背後龍であるノシュテールが毎回撃退してるので大丈夫ではる。



「あ、レッタ。紹介するね。彼はティムズ。ファスリア高校からの転校生。今日から入部してくれるって……」

「んあ?大丈夫なの?ソイツ。見たところ何の特徴もないテンプレ主人公って感じだけど」


 ぐうの音も出ないティムズを凝視する三年生のレッタが、分厚い丸眼鏡をくいっとずらす。数々の非人道的実験を繰り返し科学部をクビになったのち、ドラ部に入ったという赤茶髪ぼさぼさの技術オタク――


 ―—ウィーン、ガチャコン。


 の隣に立つ、青色の甲冑を纏う人形が動き出した。

「この子はマリヴレーダ。あたしが作ったロボ」

 ―—ウィィーンウィー。ガチャガチャ。ピカピカ!


 マリヴレーダはティムズの前まで寄ってくると、その発光部から色とりどりの光を放ち、まともに照らされたティムズと隣のミリィは眩しさに顔を背けた。


「大丈夫みたいね。じゃあ宜しくティムズくん」

 なんらかの検査が行われたようだ。合格らしい。



「私が部長のパシズだ。入部したからには徹底的に鍛えてやるので覚悟するように」

 部室ではムキムキの男が仁王立ちで、入部したティムズを待ち構えていた。

 常にタンクトップなのは何故だろうか。あと高校生は無理があるよねあんた。

「なお顧問のピアスンは極度のヨット好きなので、旅に出ている」


 その他にも次々と登場人物が現れる。


・エフェルト

 不良。ダブりの先輩。


・アルハ

 弓道部のエース。三角関係のよ・か・ん。


・ラテルホーン

 近所の変態。


・ロロ・アロロ

 野良龍。その辺の生ごみとか漁ってる。


・りゃすな

 隣町のスケバン。


・ランス・リオ・フェルヤ

 龍だけど喋れるので生徒会長。

 第四高校の規律を守るべく自慢の薙刀を振るう武将系女子。


 などなど。

 龍だけではなく御近所さんも大概ヤバめ。

 第四高校は今日も大騒ぎだ!

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