第四節10項「撤退夜戦 III」

 火焔の森、熱風が吹き荒れる中の乱戦。


 ロロ・アロロ”変異種エリーテ”が火球を放つ度に、部隊を取り囲む火の手は激しさを増していく。既に何本かの樹木は焼け落ち、折り重なるように倒れて、火の海と呼ぶに相応しい光景を作り出していた。


 渦巻く豪炎と灼熱、濃煙に紛れて、未だ襲来するロロ・アロロの群れが、分断された人間達を牙と爪の餌食にしようと飛び回っている。


 "変異種"が首に術式光を閃かせ、幾度目かの火球を放った。

 その攻撃には見境がなかった。パシズは火傷を負った地上警備隊員ベースガードを避難させようと、退路を塞ぐロロ・アロロを相手取っていたが、”変異種”の火球の一つがパシズを掠め、そのロロ・アロロに直撃する。

 

 翼の薄い膜が一瞬で燃え尽き、地面に落ちてもがき苦しむロロ・アロロにパシズは対龍槍を構えるも、その術符霊基は既に尽きてしまっていた。だが、止めを刺すまでもなく、ロロ・アロロはすぐに息絶えて身体が崩れ去っていく。


「パシズ、今なら離脱できます!」


 パシズと共に戦っていた地上警備隊員ベースガードが、火炎の先に退路を見い出した。


「……行くしかない!負傷した者を中心に円陣を組め!ロロ・アロロへの警戒を緩めるな、まだまだ来るぞ!兎に角、本陣まで退しりぞくのだ!」

「あれはアロロ・エリーテだ。今の我々の装備で仕留めきれん!」

 

 対龍槍の力は尽き、術矢も残り僅か。

 周囲に雪の様に火の粉が舞い降り始めていた。アロロ・エリーテが炎術を放てば放つ程、延焼した森を抜けるのは難しくなっていくだろう。


 そうして、パシズ達は『闇の中』に切り開かれた道へと進んでいった。

 

 ――――――――――――――――


 まるで炎で作られた舞台の上で荒れ狂う様相の変異上位種『アロロ・エリーテ』からなんとか逃れようと、数名の地上警備隊員ベースガードが抵抗を続けていたが、術弩も効かないアロロ・エリーテに対して打てる手は無く、執拗に繰り返される攻撃を凌ぐだけで精一杯だった。


 疲弊し、追い詰められた隊員達の目に、アロロ・エリーテが頭を揺らしながら空を見上げ、首回りに炎術式が展開させる姿が入る。


 刹那、その背後の炎壁の中から飛び出してきたミリィが迷いなくアロロ・エリーテの首筋目掛け、幻剣を閃かせる。展開されつつあった炎術の術式が相殺され、弾けて消える。衝撃によろめいたアロロ・エリーテがぎろりと着地したミリィを睨んで一唸りし、怒りに任せて突撃しようと身を屈めたが、


「させるかッ!」


 続けざま飛び込んできた、ティムズとアルハがアロロ・エリーテの両脚を狙ってスライディングしながら幻剣を振り抜き、別々の地点に跳び避けて幻剣を構え直した。態勢を崩したアロロ・エリーテは二人をその濁った白眼で交互に見て、怒気を全開にした咆哮を轟かせる。


 咆哮が空気を震わせ、衝撃波の様に周囲を包む炎を揺らす。

 しかしそれでもティムズは怯む事なく構え直し、眼前のアロロ・エリーテに真っ向から眼を合わせ、気迫の表情を向けた。


 この龍を倒せるという根拠は一つもない。

 だが、自分達の勝利、への確信は揺ぎ無かった。

 ティムズ達にとっての勝利とは、アダーカの砲撃が開始されるまでこいつをこの場に留めておく事、ただそれだけだ。

 

 ミリィが背後の地上警備隊ベースガードたちを振り返り、有無を言わさない口調で叫ぶ。

「貴方達は残ってる人たちを連れて行って!私達が時間を稼ぐ!」

「……判った!任せる!」


 即断した地上警備隊ベースガードの男が応じるが、ミリィは既に身を翻し、既にアロロ・エリーテと闘い始めていたティムズとアルハの元へ跳ね飛んでおり、その背姿を一瞥した男は、手傷を負った隊員と共にその場を離れた。こと高位の龍との交戦に関しては龍礁監視員レンジャーの方が場数を踏んでいる。この場はもう彼等に託す他無かった。



 ――――――――――――――――――――

 


 パシズとの『戦闘調練』で培った三人の連携が、アロロ・エリーテを翻弄する。

 声を掛け合う事もなくお互いの隙を補い、攻撃の契機を作り合う。


 焦れたアロロ・エリーテが飛翔の構えを取れば翼と脚を。

 炎術を吐こうと術式を展開すればその術式を『潰す』。


 三人の闘いは思惑通り、アロロ・エリーテをこの場に釘付けにしていた。

 もし、この龍が本陣に到達すれば、防衛線が総崩れになるのは明らかだ。

 そうすればロロ・アロロの群れは防衛線を突破し、戦いは龍礁本部を巻き込んだものとなるだろう。そして、この”変異種”を逃す訳にもいかなかった。


 逃げ延びれば更に多くのロロ・アロロ、そして他の龍までも喰らい、更に強大に変貌する可能性がある。故に何としてもこの場で決着を付けなければならない。



 アロロ・エリーテが口を大きく開き、歪んだ口元の奥に並ぶ牙を剥きながらティムズとミリィ目掛けて突進し、二人は左右に跳んで躱す。


 勢い余って燃え盛る樹々の間に飛び込んだアロロ・エリーテに、焼けて脆くなった樹々が覆いかぶさるように倒れるが、それを軽々と跳ね除けて、炎をものともせずに立ち上がると、また三人にゆっくりと近づいて来た。



「そのまま聞いてくれ、ぼくに考えがある!」


 アロロ・エリーテの次の挙動を警戒するティムズとミリィの背後で叫ぶアルハ。


「もう一度炎術式を展開させるんだ!一時的に体表の結界が弱まる筈!そこに至近距離から、幻剣と同時に残りの術矢を全弾叩き込む!!」



 ―――――――――――――――――



「……失策じゃった。まさかここまでの数が潜んでおったとは……更にアロロ・エリーテまでもが……!」


 防衛線に沿って立ち並んだ信号術の光の壁の直下、次々と撤退してきていた部隊が集結し、追ってきたロロ・アロロを迎え撃つ光景を前に、指揮を取るバリナスは慚愧の念を漏らさずには居られなかった。齢を重ねた顔のしわの数を増やし、悔やむ老隊長の傍らに立つ褐色の亜人の男が慰する。ゼェフは本陣までアダーランスを送り届けた後、バリナスの指揮を補佐していた。


「貴方のせいではない。遅かれ早かれ奴等ロロ・アロロは現れていた。むしろ会敵したのが今夜で良かったとも言える。この戦力が無ければここまで戦えなかったでしょう」


 ゼェフは上空を旋回中の楊空艇アダーカを見上げた。最終局面は近い。あとは砲撃のタイミングをこちらで指示するだけだが、その機はまだだ。続々と生存者が『線』に辿り着いているものの、全てではない。アロロ・エリーテが現れた場には数名の仲間が残っているはずで、その中にはアルハ達も含まれている。


 そんな仲間への思索を、バリナスの静かな呟きが断ち切った。


「……ゼェフ。砲撃の合図を出すのじゃ。事は一刻を争う」

「……なんですって!?」

「ここにアロロ・エリーテが現れれば全てが終わる。砲撃を行うなら、彼奴きゃつめの所在が明白な、今しかない」

「承諾しかねます!あの場にアロロ・エリーテが残っているのは確かでしょうが、それは仲間達がそうしているからだ!」

「それも何時までもつか。お主の心情も判るが、龍礁本部を守る為には致し方あるまい」

「……っ!」


 驚いたゼェフはまるでバリナスが怒声を放ったか様に、身と表情を強張らせる。

 前方を見据えたままのバリナスの横顔は冷静そのものだったが、その言葉には冷たい怒りが滲んでいた。


「信号術もそろそろ効果が切れる。アダーカが地上の目標を見失えば全てが無意味となる……。やるのじゃ。皆が命を賭しているからこそ!」

「まだ時間はあります!せめて5分…いえ三分!猶予をください」


 深く呼吸をし、目を瞑ったバリナスが小さく、しかし力強く頷いた。


「……判った。三分じゃぞ」


 打倒するべき敵と、救うべき仲間をかけた天秤は危うく傾ぐ。


 ―――――――――――――


 アルハは上空の楊空艇アダーカの機関音が変化したのを耳で捉え、低空に降下して空爆の待機段階に入った事を悟るも、その目はアロロ・エリーテの一挙手一投足に向けられていた。



 ティムズとミリィがアロロ・エリーテの炎術を誘おうと距離を取りつつ、じりじりと退がる。だがアロロ・エリーテは身を躍らせ、ティムズの方に真っすぐ突っ込んで行った。


 ティムズは躱す。ミリィは割り込んで援護しようとするのをぐっと堪えた。

 二撃、三撃。大きく後ろに跳び跳ねながら距離を取ろうとするティムズに追い縋り、アロロ・エリーテの牙、翼、尾が次々と繰り出される。


(どうしたっ……!使えよ、使って来い!)


 致命的な状況であるに関わらず、ティムズは無意識に笑みを浮かべていた。

 高揚と嘲りが入り交じった不敵な笑み。パシズに対して行ったような挑発。


 そんなティムズの様子を知ってか知らずか、猛るアロロ・エリーテが巨体を投げ出す様に突進し、それを大きく横跳びで躱したティムズが地面を転がるも、すぐに体勢を立て直す。振り返ったアロロ・エリーテが地に膝をついたティムズへ、火弾を浴びせようと炎術式を開いた。


(今っ!)

 

 ミリィとアルハが同時に動く。

 急所…出来れば頭部、に術矢を撃ち込めれば、仕留める事は叶わずとも身動きを取れなくする事は可能かもしれない。自分の幻剣の一撃も加われば更に可能性は高まる。


 幾度もアロロ・エリーテの炎術の展開を阻止していたミリィは、それまでと同じ様に展開した術式を狙いを定めて、後ろ首に幻剣を振り下ろすが、その眼の前で、突然、ふと、展開中の術式が閉じられた。


(……フェイク!!?)


 アロロ・エリーテの白濁した眼は接近したミリィとアルハの方へ向けられていた。

 三人の連携を短時間で学習したアロロ・エリーテは、それを逆手に取ってきたのだ。

 そして、在り得ない事だが、アロロ・エリーテは……笑った。

 目を細め、頬の筋肉が吊り上がり、大きく息を吐く音を喉から漏らす様は、そうとしか思えないものだった。

 

 アロロ・エリーテが身を捩り、大きく尾を振る。

 ミリィは瞬間、怖気に動揺したものの、咄嗟に宙を蹴り、それを躱す。

 翔躍しょうやくの紫の術光が散った。


「なッ……!?」

 アルハも直前で急制動を掛けるが、薙ぎ払われた尾撃が術弩に当たり、粉々に破壊されて破片が飛び散る。


「やられた……ッ!」


 失敗した。着地したミリィは歯を食いしばり、幻剣術符をぎゅっと握る。

 今取れる、最も可能性の高い手段を失ってしまった。残された手は……

 高速で巡る思索が一つの答えを導き出す。それは。


「ミリィ!


 ティムズが唐突に叫ぶ。

「っ!!」


 ティムズも全く同時に同じ答えに辿り着いていた。

 言葉の意味を悟ったミリィが動きを止め、振り返ったアルハは困惑する。


「……!?一体何の話を……っ!」


「幻剣を最大出力。言語補助、静止展開!」

 前を向いたままのミリィが簡潔に言い切り、目的を理解したアルハも前方に視線を投げる。ティムズは既にアロロ・エリーテに向けて跳び出し、身を晒して肉薄していた。


「……だけど、一人で持ち堪えられるのか!?」


「……大丈夫」

「今度は……きっと……!」


 確信、期待、信頼、希望。

 全てを内包した言葉と表情で決然と立つミリィの姿にアルハも決意と覚悟を固める。


「判った。基幹ルートコードを指定してくれ。ぼくの方で合わせる」

「お願い。アルン系統から始める」


 二人は立ち並び、目を閉じて深呼吸をした。

 以前にミリィがF/II科莫多龍に対して試みた幻剣術の出力増加。

 あの時はしくじったし、あの龍より強力なアロロ・エリーテに対しては、決定打には成り得ないかもしれない。しかしそれでも、二人同時なら。


 ミリィの紡ぐ霊葉に乗せ、アルハも追随してコードを重ねていく。

 交じり合あう音と術式が一つの響き、光となり二人の周囲の地面から光の粒子が踊り始め、現出する力が風の波紋となり、周囲の炎を揺らめいた。


 力の波動を察知したアロロ・エリーテが顔を上げ、ミリィとアルハの周囲に展開した術式を眼に捉えて、そちらに気を取られる。



「余所見してんじゃねえ!」

 ティムズが殆ど罵声に近い大声を上げ、下からアロロ・エリーテの下顎へ幻剣を振り上げる。基本の型も何もあったものではない。仰け反る様に体勢を崩しかけるが、気合と根性と呼ぶしかないものがティムズの身体を支えていた。

 頭部に衝撃が走りよろめいたアロロ・エリーテの眼がティムズを睨み、その身体に喰らい付こうと首を伸ばす。


 本来なら後方に跳び、避けるべきところを、ティムズは一歩も下がらずに幻剣で受け流した。幻剣の淡い青光の刀身がアロロ・エリーテの体表に迸る術式と干渉し、火花の如く弾け、ティムズの手がぢりぢりと焼ける。


 アロロ・エリーテが自分を無視して、幻剣の効果を高めているミリィとアルハに向かっていく事だけは絶対に阻止しようと、ティムズも不退転の覚悟を決めていた。

 歯を剥き出しにして戦うティムズの形相は、ともすれば対峙するアロロ・エリーテと全く同じ表情をしていると言えるのかも知れない。



 ―――――――――――――――――――――


 防衛線を守護する者達の耳に何度目かの、そしてこれまでで最も大量のロロ・アロロの『共鳴』が聴こえ、程なく襲来したロロ・アロロとの攻防が始まる。


 漆黒の津波の様に押し寄せるロロ・アロロの群れは確実に防衛線を侵食していた。

 アロロ・エリーテの存在の有無を抜きにしても、この物量を退け続けるのはとうに限界を超えている。突破されるのは時間の問題だった。



 バリナスとゼェフが居る本陣にもロロ・アロロが姿を現し、一人の男が飛翔するロロ・アロロが空を切る衝撃に倒れ、そこに複数のロロ・アロロが猛禽の如く群がり降りて来る。


 周囲から光矢が雨の様に飛び、撃ち取られたロロ・アロロがばたばたと落ちる。

 バリナスとゼェフも術弩を構えて共に撃っていた。


「ゼェフ!最早ここまでじゃ!このままでは全員が死ぬぞ!」

「まだです!!まだもう少し引き付けなければ半分も斃せない!」



 ―――――――――――――――――――



 ……二十三秒。


 ミリィとアルハが目を見開いた。

 二人の周囲に展開していた術式が収束し、手元の術符から伸びる幻剣の淡い光が濃く、力強い光を放ち、幻剣の高位化を終えた。


「……行くわよ、アルハ!」

「ああ…!」


 ミリィとアルハは同時に前方へ真っ直ぐ跳ぶ。

 アロロ・エリーテは二人が携える高位化された幻剣の驚異を敏感に感じ取り、その場から飛翔して逃れようと身を沈め、翼を広げる。


「逃がすかぁッ!!」


 ティムズが怒号と共に思わずアロロ・エリーテの翼端よくたんに左腕を伸ばして掴むと、全体重を乗せて飛翔を引き止めた。意表を突かれたアロロ・エリーテはがくりと体勢を崩し、上体を大きく捩ってティムズを振り切ろうとする。翼の先端も表皮と同じく、硬質のやすりの様で、ティムズの掌を切り裂き、食い込み、溢れ出した血が袖を染め、地面にぼたぼたと滴り落ちたが、それでもティムズは決して手を離そうとはしなかった。


 

 アロロ・エリーテの白濁した眼が、迫る高位幻剣の蒼い光を反射する。


 ミリィとアルハの一撃が、アロロ・エリーテの首に同時に振り抜かれた。



 その一撃は結界を砕き、硝子が何枚も同時に割れたかの様な衝撃音が響く。

 首、とりわけ脊髄に強力なダメージを受けたアロロ・エリーテの身体がぐらりと揺れ、巨体が地に伏した。


 高速で跳び抜けたミリィとアルハが滑りながら着地し振り返り、アロロ・エリーテの転倒に巻き込まれかけて慌てて別方向に倒れ込んでいたティムズも身を起こす。

 残心を向ける三人の前で、アロロ・エリーテは頭を上げようと弱々しく呻き声を上げたが、それ以上はもう動けない様だった。


「……やった…!」


 行動不能にした事を確認した三人が顔を見合わせる。

 だが、喜びの感情が湧く間もなく、同時に上空の楊空艇アダーカの機関音が地上に近づき始めた事に気付き、振り返る。


「……アダーカが砲撃機動に入った。間もなく始まる!」

「急ごう!」


 三人は即座に反応し、その場を離れようと跳躍の構えを取るが、ミリィは力なく倒れて呻くアロロ・エリーテを横目で振り返り、一時じっと見つめていたが、やがて目を逸らして小さく呟いた。


「……さようなら。ごめんね。……私達はこうやって生きて行くしかないの」

「……」

「……行こう」


 三人はアロロ・エリーテの最期の姿を一瞥すると、進路を塞ぐ炎の切れ間から退路を見つけ出し、跳び込んでいった。



 ―――――――――――――――


「術矢がもう無い!」

「北側に回り込んでるぞ!」

「南が突破されかけている、弓兵の援護を!」


 楊空艇アダーカの砲撃を間近にして、最期の一瞬まで守備隊は防衛線を死守せんとする。一網打尽にする為には、この場に一匹でも多くのロロ・アロロを引き付けておく必要があった。既に半数近くが何らかの負傷を受けた状態で、アダーカの砲撃に全ての勝機を賭ける。


 混戦を突破し、負傷した兵達と共に防衛線に辿り着いたパシズはティムズ達の不在を知ると、アロロ・エリーテとの会敵地点へと戻ろうとしたが、押し寄せるロロ・アロロの大群に阻まれていた。ティムズ達があの場を脱した事を信ずる他ない。


 パシズは幻剣での応戦を諦め、地上警備隊ベースガードと同じ青鉄製の剣を振るっている。等級の低い幻剣術では物理的に肉体を損傷至らしめる事は難しい。


 防衛線直下の本陣にも既にロロ・アロロの群れが飛来し、あちらこちらで迎かえ撃つ隊員の姿があった。術弩ではなく木製の弓矢を番えた兵も居るが、ロロ・アロロは通常の矢はものともせず、10本、20本と身体に矢が刺さってようやく一匹が落ちる、と言った程度。


 龍礁本部からの増援には数名の法術士もおり、主に空中のロロ・アロロに対して高位の雷術、光術を放っていた。


 あらゆる者が、あらゆる物を使い、ロロ・アロロを赤壁の向こう、確殺領域キルゾーンに押し込んでいく。


 そして遂に守備隊はロロ・アロロの波を光壁のあちら側へと押し返した。

 本陣でこの機を伺っていたゼェフが砲撃の合図の為の信号術符を握りしめ、展開させようと術式を走らせる。




「ゼェフさん!!」


 ゼェフが握った手を開き、掌の上で術符が式を展開し始めた時。


「……きっと間に合うと信じていたよ」


 ミリィを先頭に、ロロ・アロロの真っただ中を全速力で突破してきた三人が。


「ぼくたちが最後です!!」

 

 信号術を今まさに展開しようとしていたゼェフの姿を見つけ、口々に声を上げ。


「変異種は遭遇地点に足止めしてやりましたよ!!」


 先にも後にも微塵もぶれていない、完璧なタイミングでゼェフの横に滑り込み。



「良くやった……!」


 笑みを浮かべたゼェフは優雅に舞う様に腕を一振りし、信号術符を放り投げ。


「さあ、出番だぞ、アダーカ!!」


 信号術符が開き、砲撃開始を示す、青い光柱が夜空を貫いた。

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