序説2項『1202年度年次報告書』

     アラウスベリア大陸における龍族の生息実態と

     その減少による現代法術文明への影響について



     ・ファスリア法皇庁、魔導資源管理局


 法術を基盤とした我々の文明において、一般に龍と呼ばれるものたちの重要さは語るべくもないだろう。そして、人類が文明を獲得し、発展、拡大させていく中で彼らとの争いは避けられないものだった。


 それは純粋な生存競争から始まり、やがて我々の法術理論体系が確立していく中で、彼等の肉体が恰好の素材であると気付いた後は、一方的な虐殺と呼べるものになっていった。


 龍族は太古から現代に至るまで、信仰の対象であり続けている。

 しかし、それは裏を返せば畏怖の対象でもあるということだ。


 龍を狩るという行為は多くの場合、英雄視されるのが世の常だ。いずれの神話や伝説、御伽噺の中で、龍を斃す勇者の英雄譚は普遍的に楽しまれてきた。


 だが、それは大々的に龍族素材を獲得するための方便、時の権力者たちの教唆の結果でもある。


 その意識は未だに拭えないまま、このまま龍族の数が減少し、根絶、絶滅してしまった場合、我々の法術文明に打撃を与えるであろうことに疑いの余地はない。



 事態を避ける為、各国は協力し『龍礁』を造り上げた。漁礁のように、都市や森、海、山などを霊術的、理術的にあらゆる措置を施し、整備し、龍族が充分に生息できるだけの環境を用意したのである。


 第四龍礁は、大陸全土に整備された中でも最大規模の龍礁だ。


 この地は、約三百年ほど前、火山噴火を始めとする大災害により人々が去った都市国家ボルペーの廃墟を中心にした広大な地に手を加え、龍族の生息活動を可能とし、数十、或いは数百とも言われる多彩な龍種が独自の生態系を作り上げている。


 ボルペーは大陸東部にかつて存在した都市国家であり、九三〇年に発生した大規模な火山災害により国民のほぼ全てが死亡、及び行方不明になった末、都市は放棄された。

 現在では火山活動も安定し、逆に火山地帯がゆえに、龍礁に必要とされる条件を多く満たしているという事が調査により判明している。


 その後ファスリア皇国、デトラニア共和国、リドリア章典国、ロバニオール侯国などのもとで条約が結ばれ――


――――――――――――――――――


 ※第四龍礁の設立に関し、ファスリア法皇庁魔導資源管理部、通称『魔資管』によりまとめられ、法皇庁上層部へ提出された、皇立アカデミー教導による一二〇二年次報告書の一部。

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