記憶ソウシツ

ヘイ

記憶ソウシツ

 目が覚めた。

 目の前には一枚の紙がある。記憶は曖昧で、自分が何者なのかすらも分からない。

 一枚の紙を手に取った。

「Aの液体をスポイトで吸い上げ、Cの液体に入れる。その後、Dの液体にCの液体にできた球体を移し替える……」

 紙の置いてある机の奥には謎の液体で満たされた複数の器があった。

 化学実験のように行動を指示される。

 辺りを見回すが、扉もなく出来ることなど、これ以外には何もないのだろう。

 再度、紙を見る。

 実験の手順の様なモノが書かれた紙を私は右手で握っている。

 ビーカーにはCと文字が書かれたテープが貼られている。

 スポイトはAと書かれた試験管の中に入っている。そのAにも液体が入っている。

「これをCに……」

 スポイトで吸ったそれを適当にCの液体に入れた。本来であれば適量の指定がありそうなモノだが、それは全く書かれていなかった。

 スポイトからAの液体がポタリと落ちるとCの液体の中に球体ができた。大きさはそれほどでもないが、目視できるほどの大きさである。

 それを机の上に置かれていたピンセットで掴み、Dと書かれたフラスコの中に入れた。

 ブクブクと泡を出し、それは大きくなっていった。直径四センチ程の大きさになり、肥大化は止まる。

 時折、それは生きているようにトクン、トクンと動く。

 そして、再び紙を見る。

「最後にBの液体を全て入れる……」

 私はその指示に従ってBと書かれた試験管の液体を球体の入ったフラスコに全て入れた。

 パキン。

 ひび割れる様な音が小さく響いた。

 どうしたのだろうと私はフラスコの中身を見ようとするが、部屋を照らしていた電灯が全て消え、部屋は暗闇になってしまう。

 その瞬間に私は口の中に何かが入ってくるのを感じて吐き出そうとするが間に合わない。それはするすると私の脳を犯していき、そこで意識が途絶えた。

 

 

 目が覚めた。

 辺りは扉のない部屋だった。自分の名前すらも分からない。ただ、机の上には謎の液体に満たされた化学器具が複数個。その前には一枚の紙が置かれている。

 私はその紙を手に取った。

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