3.即席アイドル(?)の仕上げ

 この曲に合う照明は?

 音響機器は大丈夫?

 音源はどこに有るだろう?

 背景のカラーリングも変えられるところは変えておこう。


 8割くらい片付いた所で、ステージで練習する残雪一家の様子を身に戻る。

 ステージへの階段を登る途中、皆の声が耳に入ってきた。


「っと、振り付けはこんな感じだ。どうだ、できそうか?」

「コレ...難しいわね...結構ダイナミックな動きが多いし」

「思ったより細けぇ動きが多いのう...こりゃあ大ごとじゃ」

「踊りはできたけど、テンポが先走っちゃうなぁ...」

「中々苦戦か...まあ仕方ねェな」

「皆さん筋はかなり良いんですけどね...いかんせん時間が」

「これはジャイアントに相談だな」


 やっぱり苦戦か...まあ未経験者がいきなりは難しいよねー。

 最後の階段を踏み、5人の姿が目に入る。


「大体下準備はできたかな。さて、練習の方はどうだいみんな!」

「ああ、丁度良かった。ジャイアント、やはり少し...厳しい」

「まぁまぁ気を落とさないでよ残雪、素人だった探検隊も仕上げた私がいるんだ。とりあえず見せてよ」


 とりあえず今のところの練習の成果を見てみる。

 残雪とユーラはこのままステージに出せるレベルだった。

 アイレス、マヘリ、ATGの3人はまだまだ練習不足でギクシャクしてるけど、未経験なことを考えると上達速度は十分早かった。どこかのパートだけに絞って練習すれば、きっと人前に出せるレベルになる。

 それにやはり動きの力強さと息の一致度は抜群だ。見ていて気持ちがいい。


「うーん、確かに3人はまだ動きが身についてないね」

「じゃろうなぁ...戦いならこがんに苦戦せんで良えんじゃが...」

「でも初心者としてはかなりの完成度だよー! 戦ってるだけ有って息ピッタリだし、動きのキレは相当だよねー! ポテンシャル枠でスカウトしたいくらいだよ」

「そう? やっぱりアタイは天才のようね!」

「ありがとう。でも、明日ってなるとやっぱり厳しいなぁ」

「じゃあ最後のサビだけ皆で踊って、それまでは残雪とユーラのコンビで行こうか。マヘリ、ATG、アイレスの3人は演出をやってみない?」

「演出?って?」

「ATGちゃん、キミはライブに来たこと有るんだよね? ステージでPPPが踊ってる時、紙吹雪とかクラッカーとか、色々ピカピカがあったりしなかった?」

「うん、滅茶苦茶色々あったよ! すっごい綺麗だった!」

「ああいうのも、PPPが踊ってる裏で誰かがやってるんだ。私もその一人。あれが有ると迫力が全然違うんだよー」


 そう告げると、ATGが得意げな顔で、ズイっと前に出た。


「そう言うことなら任せなさい!! “茜色のアクエリア”!!!」

「おいちょっとATG、今けものミラクルなんか撃つな!」


 残雪の制止をよそに、ATGは叫ぶと瞳が純白に輝き水のようなサンドスターをまき散らす。

 その水滴はATGの毛皮のように、美しく茜色に輝いていた。


「いや...良いかも」

「残雪! アタイ役に立ったよ!!」

「マジかよ」


 これは使えるかもしれない。

 でも演出に使うならもう少し迫力が欲しい。

 おっと、後ろに二人も強そうな猛禽が居るじゃんか。


「マヘリ、アイレス、キミ達は見たところ強い猛禽だ。上に向かって強い鎌風を出せるかな?」

「あ、うん。できるよ?」

「朝飯前じゃな」


 そう言うと二人は翼を振りぬく。

 瞬間、体を押す風圧と共に、風の塊が上空へ飛んで行った。

 うん、これならいける。


「よし!!キミ達3人はこの曲にピッタリの演出係だよ!!早速教えるからちょっと来てくれるかな」


 3人に演出の概要を教え、それぞれの舞台裏での動き、ステージに出るタイミングを教える。

 3人は納得し、少しリハーサルもしてみたがうまくいきそうだった。

 そのリハーサルの中、ステージ上から微かに残雪とユーラの声が聞こえたような気がした。


「何だかんだ言って纏まりそうだな」

「ええ...残雪さん、最初から最後まで一緒に踊れて...私は幸せです」

「はは、私もだ。こんな機会をくれたジャイアントのためにも盛り上げようじゃあねェか!!」

「はい...!!!」


 ふふ...おしどり夫婦だなあ。

 オシドリも確かガンカモの仲間...あの子らは大体あんな感じなのかな。


 それからは再び残雪に稽古を任せて、3人の舞台裏作業に合った演出に機材を調整する。

 と、同時にもう一作業。

 このままステージに立てば、残雪一家を最悪の悲劇が襲う。

 そうならないように...ちょっと探し物。


「アイレス、少し大げさに動くんだ。そうすればいい感じのテンポになる」

「分かった、やってみる!」

「いいぞ。後は落ち着いて確実にだ」


「マヘリ、そこは両脇にセルリアンがいると思ってバッ、と手を伸ばすんだ」

「ぬんッ!! こうか?」

「そうだ、決まってるぞ。だがステージを踏み抜かねェ程度にな」


「ATG、もう少し足腰をしっかり。ドカンと踏み鳴らすつもりで良い」

「はいよ! こんな感じ?」

「おうよ、動作の綺麗さたけじゃなく力強さも大事だからな」


 舞台裏で聞こえる練習の声は、ハツラツとしていてこちらも元気が出る。

 お陰で舞台裏作業は終わった。後は見直しだけだ。

 ちょうど練習も終わったようで、5人のもとへ歩み寄る。


「みんなお疲れ様! 良いね、これなら明日本番迎えられるよー!」

「ああ、そうだな。何とか形に纏まった」

「づーがーれーだー!」

「ボクもあんまりしたこと無い動きだったから...疲れたな。でも楽しかった」

「そうじゃなあ。 ええトレーニングになった思うわ」


 良い顔だ。

 良い練習の後は、皆さわやかな笑顔になる。

 それをした者も、見ていた者も。


「でも...みんなの前で踊るのはちょっと緊張しますね」

「気にすんな。ライブは戦いと違って客も皆仲間だ」

「はい...!」


 しかし、君たちはこのままだと悲劇に見舞われる。

 伝えづらかったが今伝えるしかない。

 PPPなら慣れてるからどうということは無いけど...


「あー残雪、最高に共感できる良いコト言ってるところ申し訳ないんだけどさ」

「ん?」

「あの、残雪のその踊りって、滅茶苦茶脚広げるし飛び跳ねるじゃん?」

「ああ、そうだな」


「その、丸見えなんだよねー...スカートめくれまくっててさ。お客さん、数百人はいるよ?」


「...」

「...」

「...」

「...」

「...」


全員沈黙。

元々ホットパンツだったアイレス以外の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。

ゴメンね。でも君たちの事を思って言ったんだよ私だって。


「いやぁぁぁ!!!?//////」

「あ゛ッッッッッ!!!?//////」

「ちょっと!!! アタイら公開処刑直前だったんですけど!!!!//////」

「まー...仕方なかろう。あんだけ動きゃあ見えもすらァ」

「豪胆過ぎるんですよマヘリさんっ!!! 数百人ですよ数百人!!!」

「大変だね皆...ボクはスカートじゃないから関係ないや」

「アイレス!!テメー裏切りやがったな...!!!」

「待ってよ残雪待って待って別に裏切ってない元々これだったじゃんか落ち着いて」


 繁殖期の鳥かごのような喧騒に少しだじろいだが、とりあえずなだめよう。


「まあまあ、本番ステージ上で気付かなくて良かったじゃんか」

「まぁ...それはそうですが...」

「短パンは持ってきたから、これからこれ履けばだいじょーぶ」


私はそう言って、舞台裏から探し出したショートパンツを差し出した。

パークスタッフが所内のイベントで使う物らしい。


「それ最初に出せなかったのか...」

「ゴメンね、探してたら時間かかっちゃってねー。やっと人数分引っ張り出せたんだよ。ライブ終わったら捨てていいから」

「そうか...皆、これ持っとけ...」

「はい...ありがとうございます...」

「当り前よ!! あうやくヤバい見世物になるトコだったわ!!」


 それを履きながら、残雪は真面目な表情で口を開いた。


「あーあと、ジャイアント、頼みがある」

「うん、何かな?」

「私らの名前と残雪一家という単語は一切出さないで欲しい」

「え、どうして?」

「私らはただの地元の自警団だ。過ぎた知名度は土壇場での機動力や戦闘の邪魔になってしまう」

「そっか...キミらは本当にプロだね」

「まぁ、単に生活の邪魔ってのがデカいけどな」

「えー勿体ない! まー分かった! キミらは幻のユニットってことにするよ」


 アイドルと自警団だから価値観は違うよねー。

 まあいいや、プロデューサとして私のやることは一つ。


「名も無き幻の鳥ユニット」の君たちを一夜限りのスターにしてあげるよ...!!

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