2.飛ぶ鳥飛ばぬ鳥の試行錯誤

「引き受けよう。初めての試みだが、協力する」


 やった。第一関門はクリアだ。

 まだまだ壁は有るけどね...!


「じゃあ決まり!!今日は曲と振り付けを決めて、明日練習して明後日本番!!」

「無茶苦茶な日程だ...何か凄ェ事になったが、お前ら、本当に良いな?」

「旅も戦いも困難は付き物です。今回も越え渡りましょう!」

「ワシゃあ構わん。”らいぶ”か”あいどる”か知らんが全力を尽くす」

「さァ! 客をチネリ倒してエサをブン捕るわよ!!」

「だから違うってATG...まあ、頑張るよ」


 アイドルって感じじゃないけど、真っ直ぐな子達だなあ。

 これなら探検隊みたいに上手くいかせられるかも。

 さて、余興に使えてこの子達が踊れる曲は…


「さて余興だけど...今から練習するんだ。一曲に絞って行こっか」

「ああ、助かる。戦闘慣れはしてるがダンスは初心者ばっかだ」

「とするとやっぱりPPP代表曲の...大空ドリーマーかな」

「あ、それ知ってます!」

「いや、ダメだろ」


 明るい声で答えるユーラと対照的に、残雪の表情は曇っていた。


「え、もしかして嫌いかな?」

「いやそうじゃない。ジャイアントさん、歌えば分かる」

「え? ”空は~飛~べ~ない~けど~”...あっ」

「私ら残雪一家は飛べる。全員クッソ飛べる。むしろ泳げねェしフリッパーもねェ」


 それはそうだ。

 ここに来るまででもかなりな高速飛行してたしね…。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

[ミライメモ]

ユーラ:ヒマラヤ山脈を越える鳥類最強の飛行体力、インドガン。

残雪:オホーツク海から東日本まで海を越え飛来する、マガン。

マヘリ:コビトカバやモア亜種を葬る古代マダガスカル天空の頂点捕食者、S.mahery。

ATG:ユーラより低高度だが高空を渡るカモ最大クラス、アカツクシガモ。

アイレス:オオタカの瞬発力とハヤブサの最高速を併せ持つ生体戦闘機、シロハラクマタカ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そっかー皆空飛ぶガチ勢だったかー。じゃあ他の曲は...って、大体歌詞がペンギン向けだからねぇ...替え歌かなぁ」

「今から間に合うか?」

「微妙だなー。歌詞の全てがペンギンのための歌だから、良い感じにまとまらせるのは...」


 参った、飛べない鳥の曲を飛びまくる鳥が歌ってもエモさが出ない。

 まさか種族が壁になるとは…これは思ったより大変かもねー…。

 でも、こんな障壁越えられないようじゃダメだね、3000万年の歳の功が聞いてあきれちゃう。


「まあ、一晩考えてみるよ」

「ちゃんと寝ろよ。徹夜はいい仕事の敵だ」

「もちろん。夢で考えるのさ」


 私は残雪に背を向け、食と寝床を探しに出る。

 こういう時こそ、よく食べて寝るに限るのさ。

 経験上、根を詰めて考えるよりその方が良いからね。

 残雪も同じ考えっぽいね、ストイックに見えて気が合いそうだ。


 残雪一家を背に、のんびり物思い散歩に行こうとしたその時だった。

 残雪とユーラの会話が耳に入る。


「器用なペンギンだな...まあ無理すんなよ。最悪思いつかなかったら...踊れるのが一曲ある」

「あ、残雪さん、それってもしかして昔教えてくれたアレですか?」

「ああ、アレだ」

「なるほど! でもアレはちょっと...PPPのステージでやるのはどうなんでしょうね...」


 ちょっとまって。

 もう踊れる曲が有るの?

 今から無理して練習する位なら、この際PPPの曲じゃなくても良いかも…!

 たまらず振り向いて聞いてみる。


「へェ!!それ何の曲!?」

「うわっ驚かすんじゃねェ…曲名は知らねェんだ。何か振り付けと掛け声?だけ体に染みついててな。明日見せる」

「うんうん! それは手っ取り早い! キミの仲間もキミの指導の方が伝わりやすいだろうし!!」

「まぁ、少なくともPPPのイメージじゃねェから...期待はすんな」

「いやいやー期待しちゃうよ? あと明日はよく動くだろうし、今日は早めに寝たほうが良いね!」

「ああ、質素だが寝所は有んぞ。貸そうか?」

「悪いねー、じゃあお言葉に甘えて!」


 その晩は残雪一家に寝床を借りて、夕食をとりながら談笑した。

 こんなに気さくなのにヤクザ扱いされてるのは不思議だなー。

 まあマヘリは完全にカタギじゃないけどね。一回この子達の戦う所見てみたいかも。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌朝、日の光と共に目が覚める。

 残雪一家も全員目を覚まし、各々顔を洗ったり体を伸ばしたりしている。

 私は少し散歩して戻ると、軽い朝食がそろっていたので一緒に食べた。

 残雪曰く、この辺りでパンだけ沢山持ってピクニックしているフレンズが増えているらしく、その中で顔見知りの子にお裾分けしてもらったらしい。

 そんな量ピクニックに持ってこなきゃいいのに…。


「それにしても朝早いんだね残雪一家は」

「ああ、渡りは時間管理が重要だかんな。アンタも朝っぱらから元気だな」

「ライブの準備とか朝からやるからね! 取り敢えず会場行こっか!」

「うむ、ステージは早く見ておいて損はねェ」


 朝食を済ませて、ステージへと向かう。

 歩くつもりだったが、ユーラに抱えられて飛ぶことになった。


「うわー速い!! 私を抱えてるのに凄いね!」

「ええ、鍛えてますから!」

「こう見えてユーラはうち2番目の怪力だ。1番は言わなくても分かるな?」

「まあね。マヘリ、もしかして君も絶滅した子かな?」

「よう分かったな。アンタもそうじゃろう…ちからくらべでもするか?」

「ちょっとマヘリ、お客さんをブッ殺す気!?」

「いや、ジャイアント殿は強え思う、ちいと本気でやっても大丈夫そうじゃあ…」

「良いねぇ、ライブ後に会えたら是非手合わせしたいな…!」

「やるにしても場所は考えて欲しいな…」

「だいじょーぶだよアイレス。 何個か良いところ知ってるからねー」


 そうこう言っているうちにステージについた。いや~やっぱり飛ぶと速いね。


「ここがステージだよ!!明日のキミらの花舞台!」


 普段はただのステージだが、PPPライブにむけてフルセットが組まれている。

 装飾や舞台装置など、普段見かけない豪華絢爛な設備を目の前に残雪一家は面食らっているようだ。

 これくらい驚いてくれると準備しがいが有るなぁ、頑張って良かった。


「はァー...凝った作りだ。そんじょそこらに照明と音響がついてやがる」

「うわー...ステージをこんなに近くで見たの...初めてです」

「アタイも...ライブは行った事あるけど...すっごい...」

「行った事あったのによく客チねれば良いなんて言えたね」

「アイレス! 強気もたまには必要なの!!」

「キミはいっつも強気じゃないか」

「何だか見慣れんモンばかりじゃ...とにかくここで何やかんやすんじゃな」


 都会のビル群を初めて見た子供のような彼らとは対照的に、私は焦っていた。

 というのも彼女らに躍らせる歌は結局良いのを思いつかなかったのだ。

 ペンギンを題材に作られて韻を踏みまくってる歌だからなぁ…つけ焼刃的に替え歌にしても会場が冷めちゃいそうだ。


「んで、どうだ。替え歌は上手くいきそうか?」

「そうだねー...歌詞の書き換えはどうもしっくりこなかったよ。替え歌はやめて無難に”け・も・の・だ・も・の”で行こうかと思う」

「アタイ知ってるよ! そ~んな~のか~んけ~ない!」

「そうそう、それそれ!」


 とりあえず私の考える最善策はこれだ。

 後は残雪の十八番のダンスがどんなものか次第だ。


「んで、残雪の知ってる踊りっていうの、見せてもらえるかな」

「ん、ああ、分かった。ユーラ、一緒に踊れるか? 二人の方が見栄えがするからな」

「ええ、大体覚えてます! 間違えたらゴメンなさいね」

「良いさ。本番でも何でもねェからな」

「そうだよそうだよー、気楽に好きにやって貰えればいいよー!」


二人は私の方を向き、その踊りとやらを始めた。


~~~


「...とまあ、こんなもんだ。まあPPPの雰囲気とは違ェわな...」

「どうでしたか...? 合わないようでしたら全然PPPさんの曲も練習しますよ...?」


...。

そ......ッ


「そうきたかァ~~~~~~~~ッッッ!!!!!!」

「えっと...んで、そのリアクションはどっちなんだ...」


全くの想定外だった。

思わず声が出ちゃって残雪があっけにとられているが、これは決まった。


「採用!!」

「えっ」

「文句なし!!それいいよ!!!」


 PPPじゃない子がステージ上に居る。

 この違和感を吹っ飛ばすには、強力なインパクトで上書きする必要が有った。

 この曲ならインパクトも知名度も十分。

 PPPの路線から完全に外れるからイメージの干渉が防げるし、屈強な自警団の残雪一家の風貌にはとてもマッチしてる。

 普通は何もせずファンに謝って終わるところ、ステージで出し物した時点で儲けモン。

 PPPの代わりにステージに上がるのは名もなき群れ。じゃあもう曲もフリーダムでええじゃないか。


 そして踊りのクオリティも、細かい点を除けば素晴らしかった。

 直したい点もあるが、長年の戦闘経験のお陰か力強さと動きの一致度はパーフェクト。むしろ少しアラが有るところが良い味を出している。


 その踊りは残雪一家の他のメンバーにも伝わったようだった。


「凄いね残雪!!アタイ声が出なかったよ!」

「二人ともそんなの踊れたんだ...カッコ良かったよ」

「ハッハッハ! この踊りは良え! 滾るしワシの性にも合っとる気がする」

「じゃあ決定か...マジでPPPステージでやって大丈夫なのかコレ」

「ここまで来たらやるしか無いですよ! 全力で参りましょう!」


 メンバー的にも乗り気なようだ。

 練習のしやすさ、メンバーのモチベーション、曲のもつ魅力。

 今はもうこれしかない。


「オ~ケ~! これは期待できそうだね~!!ちょっと舞台裏の準備するから、残雪とユーラで残りの子にレッスンしておいて貰えるかな?」

「ああ、やるだけやってみよう」

「ええ、皆さん、頑張りますよ!」

「やらねばならぬと言うなら、何時、何事とてワシは手を抜かん」

「やっちゃいましょ! 今日も今日とて客の度肝を抜くわよ!!」

「ボク達ならきっとできるさ」


 やる気みなぎる残雪一家を背に、早速舞台裏の準備を進める。

 この曲に合う照明は?

 音響機器は大丈夫?

 音源はどこに有るだろう?

 背景のカラーリングも変えられるところは変えておこう。

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