騒乱のバードライブ

きまぐれヒコーキ

1.鳥ヤ〇ザのアイドルライブ

「え、何だって!! ライブに間に合わない!?」


 日も暮れ、月明かりが差し込む管理室にロイヤルペンギンのプリンセスからの悪い連絡が入る。


「すみません先輩。さばくを走るバスが故障してしまったらしくて...」

「何とかさ、別のバスを用意できないかな?」

「それが...”りこーる”とかいうのになったらしくて、パークの他の大型バス全部も一旦全部検査に行っちゃったみたいなんです」

「...そりゃあどうしようもないねー、分かったよ。何日後に来れそう?」

「ガイドさんいわく、代わりのバスを明日明後日には手配するそうです」

「なるほどね。うん、じゃあこっちでできる事をしておくよ」

「ありがとうございます。お手数おかけしてゴメンなさい、ジャイアント先輩」

「いいよいいよー。こういうこともプロデューサの仕事だかんね!」


 さて、どうしたものか。

 PPP到着は本番予定日の1日か2日後、ライブは余裕をもって3日延期しよう。

 でも、ライブというのは延期は御法度だ。

 当日しか予定空けられなかったお客も居るだろうから。


 ...何か予定日に詫び余興ができないかな。


 探検隊やジャパリ団みたいな例もあるし、意外と一夜漬けで余興くらいは?

 いや、やるしかない。PPPがダンスのプロなら私は舞台裏のプロだからね!


 そうと決まれば早速明日はスカウト活動だ。

 でも今日はもう夜だし、大半のフレンズは寝る用意をしているだろう。

 夜行性の子は私が昼に活動するから相性が悪い。


 今日はとりあえず寝よう。おやすみ。

 ピンチの時こそ一服置く余裕が大切だよね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ステージの管理室に差し込む朝日とともに目が覚める。

 重たい課題を頭に抱えてドアを押し開け、少し歩いてステージを見上げ、思索を練る。


 ...このPPPステージで余興ができるフレンズの群れといったら、どんな子達が良いだろう?

 やっぱり5人位の群れが良いな。今から練習するならチームワークが欲しい。

 あと運動神経と迫力も欲しいかな。


そうこう考えながらステージ周りを散歩していると、何やらステージを眺めている小柄な子を発見!

見た感じ遠距離と移動する子じゃない。きっと地元に住んでる子だろう。

このあたりの群れなら知ってるかもしれない。


「ねえねえ、この辺でフレンズの群れ知らないかな?運動神経が良いとさらに良いね!」


そのフレンズは少し内気ながらも、けなげに答えようとしてくれた。


「え、群れですか? えーっと...このあたりの子は皆きまぐれで一緒に遊んでるから...」

「そっかー...それなら仕方ないね」


 やはり一発で見つかりはしないか。

 動物と違ってパークのフレンズは食べ物や生活に困ることはないから、一人でだって生きていける。

 だからフレンズの群れなんてのは本当に相性のいい子が偶然集まらないとできやしない。

 そう考えれば群れでライブなんてやってるPPPは本当に奇跡中の奇跡なのだ。


 しかし、待てよ。

 そんなフレンズにも、各ちほーに確実に存在する群れがある。

 「セルリアンハンター」だ。

 危険な化け物であるセルリアン討伐となれば、個々よりチーム戦の方が圧倒的に有利。

 そのために腕自慢のフレンズ達が手を組み、結束し、戦うのである。


 セルリアンハンターなら結束も、運動神経も十分。

 きっと今から練習しても十分踊れるだろう。

 探検隊とジャパリ団だってセルリアンと戦える程に屈強な群れだったし、これは行けそうだ。

 もし断られそうになったら、最悪こちらがハンター活動に一回協力するという条件で交渉してみよう。

 私だってこう見えて腕力には自信が有る。”ちからくらべ”でもすれば分かってもらえるだろう。


「じゃあ、セルリアンハンターは居ないかな?もしくは警備隊みたいな」

「あぁー...今はちょっと探検隊の援助とかで別のエリアに...」

「そっかー...」


 ハンターすら居ないか。

 正直今すぐ群れを見つけないと、練習時間がなくなっちゃう。

 やっぱりステージでファンに土下座するしかないかなー?

 そう思いかけた時だった。


「あとは...あの噂かなぁ」


 その地元の子が、少し視線を逸らしながらポツリとつぶやく。

 もうなりふり構ってられない。


「え、まだ何か知ってるのかい?」

「あ、はい。この辺でセルリアンを倒したりしてる群れの噂です」

「へー!良いじゃん良いじゃん、教えてよ!」

「え、でも...止めた方が良いかもです」

「えー何でさ?」

「ちょっとその子達、怖いっていうか...色んな噂が有るんですよ。実はヤクザだとか、仲間にビーストが居るとか...」

「ふーん、変わった子達だねー。でも、力は有るんだね?」

「詳しくは知りませんが、一部の子達によればパーク屈指の空戦能力だとか...」


 高い空戦能力を持つ鳥の群れ...円卓の鳥...天使とダンス...ダンス!!

 いけるいける(確信&ヤケクソ)。


「よし、決めた! その子らが出る場所教えてくれるかな?」

「...本当に良いんですか? もし何かされたら...」

「だいじょーぶだいじょーぶ! ほら!」


 そう言って、体の奥に刻まれた本能を奮い立たせる。

 野生解放。溢れんばかりの血の滾りをフリッパーに籠め地面を殴る。

 慣れてる氷じゃないから撃ち加減が慣れてないが、地の底まで振動が伝わった感覚が有った。

 そして目の前の子も、私の力を信じてくれたみたいだった。


 私はPPPのプロデューサ。当然ボディーガードもやる。

 これでも私はジャイアントペンギンのフレンズ。

 史上最大、最強とうたわれたペンギンだ。セルリアンはもちろん、今時の子達にもまだまだ負けないさ。


「うわ...!地面が揺れ...強いんですね!!」

「まあこれくらいはね。これでもボディーガードやることも有るし」

「...分かりました。でも気を付けて下さいね。その子達が良く出るって噂なのは_


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 地元の子の教えてくれた道を行く。

 ステージの近くはわりかし人工物が多かったが、歩くにつれて木々や自然が多くなる。まあ、コンクリートに囲まれるよりこっちの方が落ち着くんだけどね。

 やがて視界に、広大な湿地が広がる。

 恐らくこのあたりだ。その群れは湿地で目撃例が多いらしい。


 そう考えているうちに、脚に何かスライム上の感触が当たる。


「うわ、セルリアンだ」

 大きさも膝下くらい。色も黒ではなく、普通のセルリアンだ。

 いつもは適当にカチ割るところだが、丁度いい。


「ゴメンね、幻の群れを呼ぶためだ。のろしになってもらうよ...!」


 バッと脚を高く上げ、8割位力を籠める。

 硬い大岩を粉々にするつもりで、かかとを振り下ろす。


「おらァ!!」

 パッッッッッッカアアアアアアン!!!


 セルリアンは七色に飛散。辺りには眩い七色の光と甲高い破壊音が響く。

「ふぅ...ナイスショット」


 さて、これで待ってれば誰か気付いた子が来てくれたり...


「ちょっと! アタイのナワバリで何やってんの!?」

ザバァ!!


 突然足元の水たまりからフレンズが飛び出し、不意を突かれて少しよろける。


「うわびっくりした!カモの子...?」

「あら、アタイを知らないなんてアンタ新参!? しょうがないわね、よく聞きなさい!!」


 おもむろに水たまりから出てきたそのフレンズは、どこから沸いたか知らない程の自信満々な顔で答える。


「アタイはアカツクシガモのフレンズ、A、T、Gよ!」

「えー、てー、じー、ちゃん? 凄い名前だねー。よろしく!」

「分かれば良いのよ!そんで何の用?」

「この辺に、セルリアンと戦ってる鳥の群れが有るらしいんだー。知ってることが有ったら教えて貰えるかな?」

「知ってること? アンタ、それって残雪一家のこと?」


 おっと、この子は何か知ってるみたいだ。

 残雪一家...聞きなれない群れの名前だなー。


「残雪一家? その子達ってセルリアンと戦ってて、空中戦が強いのかな?」

「超強いわよ! セルリアンなんて一発で粉みじんよ!!」

「そっかー。じゃあ会ってみたいかな。ちょっと協力してほしい事が有ってね」

「ふっふーん!!、アンタ、持ってるわね!!」

「持ってる...?何を」


 ATGと名乗るその子は、おもむろに大きく息を吸い込み、叫んだ。


「みんなー!!!!! うちに何か用事だってー!!!!!」


 その声は遠くまで響き渡るであろうハスキーボイスだった。

 待つ間もなく、力強い羽音が高速で向かってくる。


 もしかしてこの子、その残雪一家の一人?...っぽいね、どう考えても。

 あー私、確かに持ってるかもね。


 やがて、壮大な翼の持ち主4羽が私の目の前に舞い降りる。

 辺りには大型ヘリコプターが着陸する時のような強風が吹く。

 舞い降りた空の申し子達は次々に口を開く。


「ボクらに直接用があるなんて、珍しい事もあるんだね」

「ええ、しかも見かけない子ですね。遠くからはるばる私たちに?」

「経緯は知らねェが、危害はなさそうだな。話を聞こうじゃねェか」

「アンタ、ワシと同じ気を感じるな」


 見ればわかる。多分この子達だ。私が探していたのは。

 統率の取れた高速飛行。

 それに見るからにセルリアン1億匹は殺してそうな子も居る。


「わぁ、いきなり会えるなんてラッキーだよ! 私はジャイアントペンギン。よっろしくー!」


 私の挨拶が終わると、群れの子達が次々に応える。


「私はマガンの残雪。この群れの頭領をやらせて貰ってる」

 白い交じり毛のあるロングの茶髪で、ちょっと目つきが鋭い子。プリンセス枠かな。


「私はインドガンのユーラと申します。よろしくお願いしますね」

 黒ラインが入った特徴的なロングの白髪を持つ、穏やかな雰囲気の子。ジェーン枠だね。


「ワシゃあS.maheryとか言う猛禽のマヘリ。アンタも絶滅したクチかの?」

 白髪で軍服の、筋肉質な目がカタギじゃない子。どっしりと構えてるしコウテイ枠だろうなー。


「アタイはさっき言った通り、ATGよ! 忘れたら何度だって言ったげるけど、やすやすと忘れんじゃないわよ?」

 そしてさっき出会ったATGちゃん。イワビー枠かフルル枠か難しい所だね。


「ボクはシロハラクマタカのアイレス。猛禽だよ、よろしくね。」

紺青の翼を持った、クールで大人しい小柄な子。コウテイ+ジェーン枠?


 自己紹介が終わったところで、リーダーらしい茶髪の子、残雪が話しかけてくる。


「それで、用ってのは何だ。セルリアン討伐か?異常の調査か?」

「いや、もっと平和的な事だよー」


 さて、勧誘だ。

 ちょっとこの子達はPPPのゆるふわかわいい雰囲気とは違うけど、そこは私の腕の見せ所。


「キミたちに、一回だけアイドルになって欲しいんだ!」

「任せ...え、あ、あいどる?」


 突然の提案に、残雪は目が点になった。

 数秒の沈黙のあと、その仲間たちのざわつく声も聞こえてきた。


「もしかして、PPPみたいなあのアイドルですか?」

「ボクらにアイドル...?PPPみたいな事やるのかい?」

「適任じゃない!! アタイは生まれながらのアイドル、動物園のマドンナよ!!」

「ATGよ、その...言葉選びが古うねぇか?」

「うっさい!!」


 そのざわつきの中、ようやく半分くらい事態を飲み込んだ残雪が改めて口を開いた。


「っていうかアンタ、ペンギンのフレンズか。PPPに対抗してアイドルグループが作りてェのか?」


「いや~? 聞いて驚かないでね。

私は正真正銘PPPのプロデューサ。んで、キミらはPPPの代打!」


シーン...


 ダメだ。全員豆鉄砲喰らった顔だ。ハトじゃあないんだからさ…。

 誰も理解できてなさそうなので事の顛末を説明してやるかー。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「...というわけなんだ。頼めないかな?」


「...」

「...」

「...」

「(キラキラ)」

「...」


 キラキラした目でこちらを見るATG以外の子は、頭を抱えるか眉間にしわを寄せている。

 やがて、残雪一家の混乱が爆発する。


「はぁぁぁぁあああああ!!?? そんなモン務まる訳あるかァ!! 私らタダの自警団だぞ!?」

「ムリムリムリムリ無理です無理ですそんなあんなキラキラしたステージでそんな」

「え、ワシがアイドルやるんか? いなげな事んなる思うが...」

「皆自身なさ過ぎよ! 客チネってれば喜ぶわ!」

「それはキミのステージの話でしょ...PPPは何かもう格が違うよ」


 言いたいことを叫び終わったのか、少し静かになったタイミングでもう一度説得に入る。

 少し心配だったが普通に話が通じる子達だ。

 とりあえずリーダーの残雪を説得すればなんとか...。


「だいじょーぶだいじょーぶ。見た感じハートとセンスありそうだからさ」

「...そんなんで良いのか?」

「同じノリで探検隊とジャパリ団は何とかなったよー」

「はァ...まあアイツらやる時はやるし可愛げあるしな」


 さぁ、もう一押し。

 私だって分かってるさ、これが無茶苦茶な頼みだってことくらい。

 でもね、無茶をやり尽くしてでも、お客さんには楽しんでもらいたいんだ。

 もしもこの無茶で誰かに迷惑が掛かったなら、私が詫びて埋め合わせをすればいい。


 ここからの説得は、この本心をぶつけるのが一番。

 息を吸いなおし、残雪の目を見て丁寧に語る。


「お客さんの中にはね、このライブのために予定を開けて遠くからはるばる来てくれる子もいるんだよ。例えPPPが来れなくても、無理があるアイデアでも、できる事が有るなら全てやり尽くしたいんだよ」


 残雪の瞳は真っ直ぐで、まだ迷いを携えていたが、真面目に聴いてくれているらしい。

 隣のユーラはそっと目を閉じ、やさしげな微笑みと共に口を開く。


「何だか大変そうですね...でも、みんなを楽しませたい想い...強く感じました」

「だが...確かに体力と連携には覚えが有るが...ウチの雰囲気は全くアイドルじゃねェぞ?」

「そこはプロデューサの腕の見せ所。これはこれで有りっていう演出をするさ。約束する、キミ達がやってくれるなら必ず成功させる。私はプロだから」


 言いたいことは全部言った。どうだい雁の頭領さん、乗ってみないかい?


「...アンタは内情知ってるし、想いも伝わった。信用しても良い。だが、少し相談させてくれ」


 残雪はそう言うと、振り返って群れの子達と相談し始める。

これは脈あり...かな?


 向き合い相談する群れからはボソボソと声が聞こえてきた。


「ジャイアントの気概に答えて私は受けても良い。だがお前らが嫌ならやめよう。こういうのは多分ステージ上で私らが心底楽しめなけりゃあ客も楽しめねェ。知らねェけど...」

「私も...ジャイアントさんの力になりたいです! 務まるか不安ですが...ちょっとやってみたいです!」

「まあ、やってやれん事はねぇじゃろう。こういう余興もたまにゃ良かろうが」

「アタイの答えは最初から同じよ!!」

「ボクも...せっかくだしやってみようかな」


 やがて、残雪一家は全員で笑顔でこちらを向き、残雪が一言告げる。


「引き受けよう。初めての試みだが、協力する」

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