第13話 トルフルフの図書館

 俺はトルフルフの町を見て回っている途中で二人に尋ねた。


「今更なんだけどさ、ブレインとジャスミンはこの町に用事があるっていったけど……その用事って一体何なんだ?」


「ああ、俺達はこの町の代表者との話し合いに来たのさ」


「話し合い? 何の?」


「簡単に言うと、世知辛いこのご時世を乗りきるための情報交換さ。本当は村長かウィルソンさんが行く予定だったんだけど、今のマドリアの村はあまりにも混乱しているもんだから、二人の代理として俺とジャスミンがやってきたんだ」 


 なるほど、と俺は頷いた。今のあの村の状況では村長であるシルバが村から離れるのは難しいだろう。 


 そんな事を考えていると、ふと巨大な建物が目に入った。見たところコンクリートで作られたかのような、近代的な建物だった。俺はその建物を指さして、


「この町の代表者に会いに行くって言ってたけど、もしかしてあそこにすんでるのか?」


 そんな返答にジャスミンは「いいや」と首を振った。


「あれは図書館の建物。あんたは、あそこに用事があるんでしょ?」


 予想外の返答だった。あの建物が図書館であるというのもそうだし、まさか最初にそこに向かうことになるとは思わなかったのだ。


「え……いや、ありがたいんだけど、まずは二人の用事を優先してほしんだ。俺は明日以降でもいいからさ」


 俺はあくまでも二人に同行させてもらっている身分なだけに、こちらの用事を優先してもらうのは罪悪感が大きかった。


「いや彼とは夕刻に合う予定になっているのさ。だからあんたも変に気を使わなくていいから」


 そんな罪悪感でいっぱいの俺の心を見透かすように、ジャスミンは俺の頭をなでた。



 それから5分ほど歩いて、図書館の入り口までやって来た。先ほどから見えていた通り、やはりこの建物はコンクリート製だった。外見だけなら正直日本にだってありそうな図書館だ。おれは入り口の前でその建物を見ていると、前方に一人の女性と目があった。話を聞いていると彼女は図書館の受付嬢らしい。


「入場するためには、お一方12ギルトとなります」


「12ギルト……?」


 この受付嬢の様子から察するにおそらく入場料的なものだと思うのだが、もちろん俺はそんなものは持っていない。どうしよう、どうしよう、と心の中で慌てていると、彼女は鋭い目がこちらに向けてきた。その眼差しには疑いの色が見える。俺はその視線を受けながら、いまだ混乱している頭を整理しようとしていたその時、


「ほら、あんたの分も払ってあげるから」


「え……いや、でも……いいのか?」


「入場料がなければ入れないからね。まあ、貸し一つってことさ」


 そう言ってジャスミンは財布のような袋からな紙幣を何枚か取り出して、受付に手渡した。



 それから俺達は建物の中に足を踏み入れたが、室内に入った瞬間、寒さで身震いがした。しかも建物内はあまりに薄暗かった。天井を見上げると、電気の代わりに、明かりのついた魔石がロープに吊されていた。その魔石から出ている光はまるで消えかけのろうそくのように弱弱しいものであった。

 ブレインは顔をこちらに向けて、


「さてと……この建物は地下の5層からできているわけだけど、かけるはこの世界の文化とか歴史と、それと地球に帰るための方法をしりたいんだっけ?」


「ああ。でもまずは……この国について知りたいんだ」


 一番重要なのは地球へ帰る方法を探すことなのだが、それはひとまず後回しにすることにした。地球へ帰る方法が見つかったとしても、すぐに帰れるとは限らない。もしかすると何年かはこの世界で生きていくことになるかもしれない。そうなった時のためにも、この国についてある程度は知っておかなければならないと思った。

 それに、この国の文化や歴史に関する本などはすぐに見つかるだろう。地球へ帰るための情報はその後にゆっくりと探せばいい。


 俺達は長い廊下を歩いていく。しんと静まり返った建物の中を歩いていると、ここが図書館などではなく廃墟となった心霊スポットを探索しているような気分になった。今は二人も一緒だからいいが、一人だったらなるべくこの建物には入りたくないというのが本音だ。


 そして俺は歩いていくうちに一つの疑問が生まれた。この施設に入ってから、本棚はおろか本の一冊も見当たらない。本当にこの建物には本があるのだろうか。そもそもここは本当に図書館なのだろうか。そんなことを考えていると、


「ここだね」


 ジャスミンの一声で俺は我に返った。そして彼女は何もない壁に手を当てて前に押した。すると壁はゆっくりと回転しはじめた。


「これって回転ドア……?」


 俺は思わず呆気にとらた。


「驚いたかい? この通路を歩いている途中もあんまりにも本が無いもんだから、ここが本当に図書館かどうかも疑っていいたんじゃないのかい?」


 俺はコクリと頷いた。ジャスミンの言う通りだ。そんな俺の様子を見ながらブレインとジャスミンは声を押し殺して笑った。



 回転式のドアの先には10頭ほどの本棚があった。ブレインとジャスミンはそこから一番右の本棚を調べ始めた。


「まずは……これと……これかな」


 そしてブレインから二冊の本を手渡された。


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