第11話 三大図書館

 トルフルフへ向けて出発をしてから四日が過ぎた。いや、この世界の呼び方で言い換えるなら四夜が過ぎた。道中は、特にこれといった問題も起きず順調に進んでいった。ただ途中で何人かのワーム族を見かけたが、彼らは皆、不安や疑心が入り混じったような目をこちらへ向けてきた。

 ワーム族のマドロもそうだったが、なぜそこまで俺や魔族を嫌うのだろうか。ふと休憩中にブレインに疑問をぶつけてみた。


「それは、二つの出来事が影響しているんだ」


「二つの出来事?」


 思わず俺は聞き返した。近くでジャスミンは顔を洗っていて、水の音が聞こえてきた。


「一つ目は戦争だ。この世界では戦争が何度も起きているんだ。主に魔族とそれ以外の種族達の構図で」


 魔族とそれ以外。マドリアの村で感じた種族間同士の軋轢も、その戦争が原因なのだろうか。俺は身を乗り出して、続けざまに質問をした。


「その戦争って、なんで起こったんだ?」


 ブレインは「うーん」と唸ってから、


「なんで、と言われても、一言で説明するのは難しいな。まあ、簡潔に言うと、差別、迫害その二つが大きく関与した戦争だったんだ」


 差別と迫害。その言葉を聞いてアヤメの姿が脳裏に浮かんだ。彼女はそういった理不尽な出来事に立ち向かっていきたい、と言っていた。


「差別と迫害か……」


 俺はポツリと呟くように言った。


「二つ目は?」


 ブレインは目を細めて、真剣な面持ちで口を開いた。


「他種族狩りだ」


 それを聞いて、俺は言葉を失った。同時に洞窟内に沈黙が訪れた。

 俺はゆっくりと息を吐いて頭を整理する。ここまでの情報から、誰が誰を狩っていたのかは何となく想像はつく。問題はなぜそんな事が起こったかだ。

 ブレインは、


「それについては、トルフルフの町に着いてから調べてみるといい。何しろトルフルフには三大図書館としても名をはせている町だからね。たいていの事なら、そこで調べられる」


「三大図書館……」


 俺は少し驚いた。まさか図書館なんてものが、この世界にあるとは思わなかったからだ。それも三大図書館と言われているぐらいだから、かなりの本が貯蓄されていうるはずだ。そこでなら、この世界の歴史や出来事についても詳しく調べられるし、もしかしたら日本へ帰るための情報も何か手に入るのかもしれない。今にして思えば、シルバが今回の旅に俺の同行を許したのも、そういった意図があったのではないだろうか。


 俺は期待に胸を膨らませながらも、心のどこかでは、もし日本に戻る手段が見つかったら、お前は本当に地球へ帰るつもりなのか、という内なる声も聞こたような気がした。



 それから休憩も終わり、ムグは俺達を乗せて、再び勢いよく進みだした。俺はムグの背中に手を当てながら、ブレインとジャスミンに向かって、


「そういえばさ、トルフルフってどんな町なんだ? 有名な図書館があるって事はさっき聞いたけど」


「うーん、そうだねぇ。まあしいて言うなら、地下にできた町ってやつかな?」


「地下?」


 以外だった。「町」と聞いていたので、高層ビルが建ち並んでいるイメージをしていたからだ。まさか、この世界にビルなんて建物は存在はしていないとは思ってはいるが。しかし、地下の町だとは予想していなかった。そうなると、町、というより地下街といったほうがいいのかもしれない。


「ってことはどうやっていくんだ? このまま、地下を掘り進んでいくのか?」


 ブレインアは首を横に振った。


「いいや、入り口は地上にあるから、一旦は地上へ出る事になる。そこから門番へ身分の証明をして、それから今度は徒歩で地下へ続く坂道を下っていくんだ」


「そうなんだ……あれ?」


 いや、そうなると、どうやって地上へ出るんだ? 

 その小さな疑問が不安へと変わっていくのに、さほど時間はかからなかった。俺は地上へ出る方法を二人に聞こうと、口に開いた瞬間、


「そろそろだね。かける、ムグは飛んで地上へ出るから、振り落とされないようにしっかりと捕まっといて。もし危ないと思ったら、私かブレインに捕まるんだよ」


 ジャスミンはそう言ってこちらに視線を向けたが、俺は思わず顔を歪めた。その時ブレインは「はいっ」と手を上げて、


「あ、俺も危なそうなんで、ジャスミンに抱き着いついててもいいですか」




 ムグの動きが止まった。そろそろだ。俺は覚悟を決めて二人を見る。ジャスミンもこちらに顔を向けて頷いた。ブレインは……さっきのジャスミンの一撃で気絶してるんだが大丈夫なんだろうか。


 そして次の瞬間、ムグは勢いよく地上へジャンプした。


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