第9話 推論と可能性
「ジャスミン、これって村長と同じ状態なんじゃ……」
「ええ、あたしもそう思っていたところ……」
そういって二人は互いに目を合わせた。一方でそれらの会話を聞いていたマドロは、
「ホレホレ、どういうことだ!?」
二人に詰め寄った。いかに小柄だとはいえ、彼が地面を激しく踏みつけるようにして近づいていく様を見ると、その迫力にハラハラする。しかしブレインやジャスミンは特に恐れているような様子はなく、
「ああ、ごめん。突然なんだけどさ、君はマドリアの村の村長を見たことはあるかい?」
「ホレホレ、村長? いいや、見たことはねえな。確か、魔族のくせに杖の姿をしてるってのは聞いたことがあるけどよ」
そんな返答にブレインは頷いて、
「ああ、その通りさ。でも最初からあの姿だったわけじゃないんだよ」
やっぱりな、というのが正直な感想だった。かつてシルバは、いろんな種族に魔法を教えていたと言っていた。その口ぶりからは、どうにも彼が昔から杖の姿をしていたとは考えずらかった。
それを聞いて、ワーム族の族長のルフレは、
「それについてはオラも気になってたんだ。つまり、なんだ。ルードル達と同じように、シルバ村長も何者かに杖にされちまったってことかい?」
その言葉に今度はジャスミンが頷いた。
「……ただ、あくまでも、それは私たちの推論ですが」
マドロはブレインとジャスミンに向けて、
「ホレホレ、どういう事だ? 村長から何も聞いてねえのか? それとも、あれか。杖にされているから言葉が話せねえとか」
ブレインは首を横にふる。
「いや、喋る事はできるんだ。でも、いくら聞いても答えてはくれない」
洞窟内に数秒の沈黙が流れた。それからルレフはゆっくりと口を開き、
「それはつまり、契約……てことかい」
ブレインとジャスミンは二人同時に頷いた。
「ホレホレ、そうなると、別の意味で何も話せねってわけだ。でも、今回の事件を引き起こしたやつと、おたくらの村長を杖に変えたやつが同一犯だったと考えると、変じゃねえか? どうして姿を杖に変えられた、おたくらの村長が喋れて、こいつらはこの姿で何も話す事ができないんだ?」
「それについてもハッキリとは分からないんだけど、俺たちは村長の魔法が関係しているんじゃないかって考えているんだ」
「魔法? 何の?」
俺は首をかしげた。そんな疑問を抱く俺に対してブレインが説明をしてくれた。
「村長はあらゆる攻撃から身を守る魔法を使うんだ」
あらゆる攻撃から身を守る魔法か。しかしそれを聞いて、新たな疑問が生まれた。
「ならどうして、姿を変えられてしまったのだろう?」
そんな力があるのなら、姿を変えられる魔法だって防ぐことだってできたかもしれないのに。
その疑問に、今度はジャスミンが答えてくれた。
「まあ、それが契約の内容に関わる事なのか、単に相手が村長以上の魔法の使い手だったのか、どちらかだろうね」
……これが契約の問題だとすると、今の村長に何を聞いても答えてはくれないだろう。かといって後者の実力の問題だった場合、今の自分の力では事件解決の戦力にはまずならない。むしろ、完全に足手まといだ。
そもそも、シルバは魔族として、どれくらいの力を持っているのだろうか。その実力が高ければ高いほど、犯人の力も相対的に上がっていく事になる。
もっともこれが、今回の事件の犯人と、シルバの姿を変えた犯人が同一犯だった場合に限った話だが。
俺はチラリとカエル達に目をやってため息をついた。もし俺がこの蛙達と会話することができたなら、事件の全貌だって分かったかもしれないのにな、と。
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