第4話 いってきます
巨大モグラこと、ムグラに威嚇をされた俺は、
「ダメでしょ、そんな急に撫でようとしたら。ムグはとっても臆病なんだから」
アヤメからのお叱りの言葉を受けた。
「いや、アヤメも大丈夫だったし……自分もいけるかなって……」
そんな俺の言い訳に対してシルバは笑いながら、
「さっきも言ったけど、アヤメは特別なんだ。僕たちだって未だに心を開いてもらっていないんだから」
正直、アヤメと同じように、人間の血が流れている俺ならいけると思ったのだけれどな……。
それとアヤメは特別だということにも、なんだか引っかかった。彼女には何かしら動物を引き寄せるような力があるのだろうか。
ふとムグと目があう。俺は笑顔で右手をあげたら、フイっと目をそらされた。それを見ていたブレインが、
「この子だって女性と同じさ。いきなりのボディータッチは女性に警戒心を抱かせてしまうからね。まずは言葉からゆっくり、この子の心を溶かしていって……」
そういって撫でようとしたら、案の定、威嚇をされた。俺の時より強く拒絶をされてるような気がしたが……。
「あんただって、この子にそんなに好かれてないだろ」
項垂れるブレインに、たたみかけるジャスミン。
「はは。まあ、この子の気性が難しいのは本当さ。ムグに関しては、この旅の中でゆっくり仲良くなっていけばいいじゃないか……。さて、ここじゃなんだし、もう少し歩こうか」
そういって俺達はしばらく歩いて、村の外にでる。その瞬間、奇妙な感覚にとらわれたような気がした。まるで、辺りの景色がゆがんだような……。
「これって……」
「結界さ。この村は、外に出るときは好きに出られるようになっているんだけど、入るときは僕の許可がないと入れないようになっているんだ」
許可なく入る事はできない……。だとしたら、あの時、なぜロべリアはこの村に入る事はできたのだろうか。しかし、こういったい疑問は、いくら考えても答えは出ないので考えるのをやめた。
村の外に出てから数分ほど歩いたのち、アヤメは立ち止まって、
「じゃあ、ムグ、お願い!」
彼女の声が合図となり、ムグは勢いよく地面に穴を掘り始める。数秒後にその穴を覗き込んだが、すでに底が見えないほどの深さとなっていた。
「じゃあ、僕たちが見送るのはここまでだね」
「……あ、そっか。じゃあ……」
俺は、右手に持っていた杖をアヤメに渡した。彼女はそれを受け取りながら、
「かける……忘れ物は大丈夫? もし町で迷子になったら周りにちゃんと頼るのよ?」
「だから、大丈夫だから……ちゃんとできるって」
これでは、まるで母と子の関係だ。いや、この子の年齢と考えると祖母と孫の関係、いやそれ以上になるのか……。
「アヤメ、かけるだって子供じゃないんだし大丈夫さ。それに二人もついていることだし。ブレインとジャスミンもかけるをよろしく頼むよ」
「ええ、任せて。でもこの子、いい子そうだし、そんなに心配いらないかもね。どこかの誰かが、この子を変なところに連れまわさなければ」
そういって、ブレインの方を見る。
「いやいや、かけるにとっての初めての外の世界なんだ。いろいろと見て回らなくきゃ損だろ?」
「村長はそういうところを心配しているの」
ブレインの言葉に、呆れ顔でため息をつくジャスミン。
その時、穴の底からムグの鳴き声が聞こえてきた。それを聞いたブレインが、
「さてと、じゃあ行こうか」
「かける、本当に本当に、気を付けてね。無茶だけは絶対にだめ。何かあったら……」
そろそろ行こうか、とブレインが言ってから5分近く立ったのだろうか。未だに、アヤメの話は終わらない。彼女はひどく心配そうな顔をしている。
「大丈夫よアヤメ。私達もついているんだから」
ジャスミンが安心させるように言葉をかけても、アヤメの不安げな表情は晴れない。それどころか、よく見ると彼女は若干泣きそうな顔をしている。
……アヤメは俺を心配してくれているのだろうが、正直、心配しすぎている気もする。それほど外の世界が危険だという事なのか? いや、だとすればブレインがあれほど気楽に、今回の旅に誘ってはこなかっただろうし、シルバだって止めたはずだ。そうなると、彼女の性格的な要素が大きいのかもしれない。
さすがに見かねたシルバが、
「アヤメ、かけるだって困っているし、そろそろ行かせてあげよう?」
「う……ん、ごめん」
シルバの言葉を聞いてアヤメは肩をおとして謝罪する。そんな彼女にシルバが諭すように、
「……アヤメ、誰かをこうして送り出すときには、かけてあげる言葉があったよね?」
アヤメは何かを思い出したかのように目を大きく見開いた。そして次の瞬間、泣き顔だった表情も和らいでいって……
「……かける、それとブレインとジャスミンも……無事に帰ってきてね。行ってらっしゃい」
アヤメは笑顔で送り出してはくれたが、俺には彼女の笑顔が、どこか無理をして作った笑顔のように見えて仕方がなかった。
俺はそんな彼女の表情に戸惑いながらも……、
「いってきます」
笑顔で答えた。
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