??話 夜空の下で
それは遠い昔の出来事。
――シルバ……お願い! 秀行さんとこの子を連れて、この都市から出て……
――まて……お前は……お前はどうするんだ!?
――私は……いっしょに行けない……。
――何を馬鹿な……一緒に逃げるんだ! どこの世界に、女房を見捨てて逃げる男がいるものか!
――そうしたら、アヤメはどうするの? 子供が危険に晒されているときは、命を這ってでも守るのが、親の務めでしょ?
――それは……
――それに、このままだと間違いなく逃げ切れない……。捕まったら、私もあなたも……そしてこの子も無事ではいられない。だったら、私だけでも……
――やめろ! そんな、本当にもう戻ってはこられないような言い方を……。
――ごめんね……あなた。アヤメ……これからは……パパのいう事をしっかりの聞くのよ。
この子は、これからどんな子に育つのだろう。元気で活発な子? 静かで御淑やかな子? それとも……。
ううん、どんな子になってもいい。毎日を幸せに過ごしてくれているなら……。ただ、一つ望むとしたら……、この子が優しい子になって欲しいということ。こんな世界だからこそ、誰かの痛みを理解して、その苦しみを一緒に背負ってあげられるような子に……。
そう願いを込めて、ぎゅっと、この子の手を握る。そして……その小さな手もぎゅっと握り返してくれた。その時、この子は笑っていたような気がする。自分は……どんな顔をしていたのだろう。笑顔でいられただろうか。ただ……涙で滲んで……この子の顔がよく見えなかったのが心残りだった。
夜空の下、いつもの遺跡で目が覚めた。懐かしい夢を見た。あれから……どれくらいたったのだろうか。
深呼吸をして、ゆっくりと辺りを見渡すが、特に新しく遺跡が壊されている痕跡はない。ホッとする。今日は、どれくらい今の自分でいられるのだろうか。確実に時間は少なくなっている。
その場に座り込んで空を見上げた。そういえば、あの人が言っていた……。地球には、夜にお月様なるものがが見えると。黄色くて、形は……真ん丸の時があれば、半分しか見えない時もあると。秋という季節には、お団子というものを食べながら、お月様を見上げる慣習もあるのだという。不思議な世界……。春には花見というものを楽しみ、夏には浴衣というものを着て花火を見て、秋には月を見ながらお団子を食べて、冬にはコタツのというものに入りながら、ミカンという果実をほおばるのだろ言う。そこには、差別も迫害もなく、楽しく幸せで満ち溢れた世界が広がっているのだろう。
……行ってみたかった、あの人の故郷に……。私と、あの人と、アヤメと三人で……。自然と涙が頬を伝う。
流れ星って言ったっけ……。それが流れている間に、お願い事をすれば、その願いが叶うと。当然、流れ星など見当たらないし、今でもその話に対しては半信半疑なのは変わらない。けれど……何もない夜空に向かって願う。
どうか二人が……幸せに暮らしていますように。
そして……できる事ならば、もう一度あなた達に会えますように。
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