第12話 再開

 薄暗い洞窟の中に女の子が表れた。とはいっても暗さのせいではっきりとした姿が見えない。しかし声の高さからいって女の子で正解だろう。


「すごいわ、結界の中に入ってきたということは魔族じゃないんでしょ? それなのに、こんな危険なところまでやってこれるなんて」


 そういってクスクスと笑っていた。俺はなんとか目を凝らして彼女の姿を確認しようとするが、うまくいかない。彼女はそんな俺の様子に気づいて、


「どうしたのお? 私もそんなに見つめられると照れちゃうんだけど」


 無邪気な声だ。しかし、無邪気であるがゆえ、彼女が何を考えているのかが分からない。そもそも、こんな洞窟にいて笑っていられる時点でただものではない。


「あなたは……どうしてこんな洞窟の中にいるの?」


 アヤメは肩で息をしながら、問いかける。


「どうしてって、んー、ちょっと用事があったから? それはそうとお姉さん、大丈夫? とっても辛そうよ? 私、心配だわ」


 口ではこう言っていても、その声からはちっとも心配しているように聞こえない。


「わ、私なら大丈夫よ……。それより、用事?」


「そっ。私、この先にある魔石に興味があるの」


 間違いない。魔石というのは、グリードとやら残した魔石だ。


「もう一人は……? あなたの他にも、もう一人いるはずでしょ?」


 少女はにっこりと笑って、


「いるわよ。この先で魔石をさがしているわ」


 魔石を探しているということは、おそらくティミーだろう。


「本当!? 行きましょう、この先にティミーがいるかもしれないわ。あなたも一緒に……。えっと……」


「私の名前はロベリアよ。良かったら、お姉さんたちの名前も教えてくれないかしら」


「私の名前はアヤメで、こっちはかけるよ」


「よろしくねえ、アヤメちゃん、かける君。それじゃあ、ついてきてね」



 そういって歩き出した。アヤメもロベリアについて行こうとするが、相変わらず呼吸が乱れて苦しそうな様子だったので、さすがに俺も黙って見ていられなかった。


「大丈夫か? よかったら肩ぐらい貸すけど……」


「ううん、大丈夫。それより行きましょう……」


 アヤメはフラフラとした足通りでロベリアの後をついていった。



「どうしたの?そんなに手探りで歩いて」


 相変わらず、洞窟の暗さのせいで満足に進むことができない俺に、ロベリアは不思議そうに尋ねてきた。


「別に、なにも……」


「もしかして、お兄さん、暗闇でなにも見えないんじゃない?」


 図星をつかれる。そんな俺の様子を見て、フフフと笑って、


「そうねえ。じゃあ私が何とかしてあげるわ」


 そういった瞬間、彼女が何かを唱えた瞬間、彼女の周りが明るくなった。


「これって……」


「あれぇ、知らない? 陽系統の初級魔法よ」


 陽系統とは、その名前から察するに、明るさに関係がある魔法だろう。たしかシルバの話だと、本来七系統の魔法があるといっていた。おそらくその一つだろう。

 そして、明るくなったったことで初めて少女の姿が見えた。年は十歳ぐらいだろうか?髪も赤く、頭には角が生えている。


 こうして、明るくなった洞窟の中を歩いていると階段があった。そして、その階段を下ってしばらく進んでいくと広場に出た。

 広場に出た俺とアヤメは辺りを見渡していると、そこには一つの人影が見えた。その人影は何かを採取しているのか、しゃがみ込んでいる。アヤメはその人影に向かって……。


「ティミー!?」


 アヤメが彼女の名前を呼んだ瞬間、彼女も立ち上がって、こちらを振り向いた。


「あなたたち、どうしてここに!?」


 そこに居たのは、やはりティミーだった。

 当然、俺たちがここに来るなんて予想もしていなかったのだろう。彼女は茫然と固まっている。そんな中ロベリアが、


「なんでも、ティミーちゃんが心配で捜しにきてくれたそうよ」



 そうして、俺達はこれまでの経緯を一通り説明した。その説明を聞いたティミーは下唇をかんだまま、


「そ、そんなことに……」


 彼女は茫然と立ち尽くしていた。

 その表情から察するに、ティミーもここまで事態が大きくなるとは思わなかったのだろう。


「ねえ、ティミー、帰りましょう。リリーもあなたの事、心配しているわ」


 アヤメがティミーの手を握って訴えかける。そんな中、


「まって。ここから出るの、私は納得しないわ」


 止めたのはロベリアだった。そんな彼女に驚いたアヤメは、


「何言ってるの!? わかっているでしょ? ここは危険な洞窟で……」


「危険なのは百も承知よ。でもティミーちゃんもそれを分かっててここまで来たんだよね?」


 俺はティミーを見るが、彼女は黙ったままだ。


「そもそも、私たちは魔石を求めてここまできたのよ? それをこんなところで引き返していいの、ティミーちゃん?」


 ティミーは相変わらず何もしゃべらない。そんなティミーに向かってアヤメが、


「ティミー、お願い、ここは本当に危ないか……ら……」



 次の瞬間、アヤメがその場に倒れこんだ。




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