第3話 不思議な村長
村長の住処、と聞いてもイマイチピンと来なかった。
村長と聞いて思い浮かぶのが老爺か老婆だ。そんな人が薄暗く鬱蒼とした魔族の住処に住んでいるのか?
俺はまだ見ぬ村長の姿を想像しながら、二人について行くように歩いていった。辺りは徐々に住民たちの姿がまばらになり、静かになっていった。そうして十分ほど歩いた先に見えたのが、小さな洞窟だった。
――ここが、村長の住処?
アヤメとブレインが洞窟に入っていく。当然自分も二人の後をついて行くのだが、洞窟の暗さのせいですぐに二人の姿が見えなくなり、彼らの居場所を特定する手段は足音だけになってしまった。
どうにか足音が聞こえているうちに二人に追いつこうと、早歩きで進んでいくと、アヤメが……、
「ちょっと、ブレイン。かけるがついていけてない」
「ああ、ごめんごめん」
そうして二人は立ち止まった。
そもそも、2人はなぜこの暗闇の中で迷わずに進むことができるのか聞いてみると……、
「んー。ずっと此処に住んでたから、慣れかな?」
身も蓋もない答えが返ってきた。慣れの問題なのだろうか。
今度は二人が俺のスピードに合わせてくれたのか、ゆっくりと歩いてくれた。しかし、数分歩いたところで、アヤメが急に小走りで進んでいった。そして、
「村長、ただいま戻りました」
「お帰りなさい、怪我はなかった?」
「うん、全然平気」
アヤメが何者かと会話をしている。俺はつまずかないように、ゆっくりとその会話が聞こえる方向に近づいていく。ところが、アヤメの姿は確認できても会話をしている相手は見当たらなった。
どうにか目を凝らして、アヤメの会話の相手を確認しようとしたその時、横に立っていたブレインが口を開いた。
「かける、紹介するよ。この方が村長のシルバ・ブルツェさんだ!」
そうは言われても姿が見えない相手ではどう反応すればいいのか分からない。
しばらく固まっていると、急に明かりがついて、眩しさで思わず目が眩んだ。そしてゆっくりと目を開けると、そこには一本の杖が刺さっていた。
「はじめまして、斉藤かけるくんだね?」
聞き間違いなどではなく、確かに杖から声が聞こえてきた。
――村長の正体は喋る杖だったのだ。
杖である村長の声を聞いて、俺はゆっくりと目を閉じて一つ心に誓うのだった。
――この世界に地球の常識を当てはめるのはもうやめよう、と。
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