第1話 魔族の少女
「やっぱり珍しい? 私、人間と魔族のハーフなの!」
マゾク、魔族……。たった1つの単語ではあるが、それだけども俺の頭を混乱させるには充分であった。
そもそも、なんなんだ、この世界は……。
俺は足腰に力を入れて立ち上がる。すでに足の震えも消えていて、問題なく立ち上がる事もできた。ひとまずはホッとした。
それから俺はゆっくりと言葉を噛みしめるように、口を動かす。
「あ、あのさ、魔族って……」
その瞬間、どこからか獣の遠吠えが聞こえてきた。それを聞いて、魔族の少女は、
「君からしたら、聞きたいことが山ほどあるだろうけど、ひとまずここから出ない? 歩きながらでもお話はできるし」
たしかに、このままこの森に居続けるのは危険だ。俺は彼女の言葉に頷く。それから彼女はゆっくりと歩き出し、俺も後について行った。
「まずは自己紹介だけでもしましょう。私は魔族のアヤメ。よろしくね!」
「俺は斉藤かける。えっと、よろしく」
ただの自己紹介なのに、緊張でうまく喋ることができなかった。なにしろ、人生で女の子と二人きりで話す事など、ほとんどなかったからだ。
先ほどは、獣たちがいなくなった安堵感や脱力感でうまく言葉が話せなかったのに対して、今度は違う意味でうまく言葉を話すことができなかった。
「きみってさ、違う世界から来たんじゃない?」
俺は、突然の告白に思わず呆然としてしまい、数秒経ってからようやく頷いた。それを見て彼女は飛び跳ねるように喜んで、
「やっぱり! 実を言うとね、君を初めて見た時から違う世界の住民じゃないかなって思ってたの!」
彼女はピンと人差し指を立てる、
「だって、私のお父さんは君と同じ世界の出身だから! さっき言ったでしょ? 私は人間と魔族のハーフだって」
確かに、さきほど彼女は、自分は人間と魔族のハーフだと言っていた。しかし、魔族という単語のインパクトが強すぎて、その時はすっかり聞き流してしまっていた。
「そ、そうなると、アヤメのお父さんも、俺と同じように、気がついたらこの世界にやってきたって感じなの?」
それを聞いて彼女は、んーと考え込む。
俺は彼女の返答を待っている間、この世界にやってきたときの事を思い出していた……、思い出して……思い出す……?
俺って獣たちに追いかけられる前に何をしていたんだっけ……?
確か……お昼過ぎ、近所のコンビニでカップラーメンを買って、家に帰る途中に……途中で……どうしてたっけ? コンビニを出てしばらく歩いていたら、なんだか知らないうちに、この世界で獣たちに追いかけられて、アヤメに助けられて今に至る。
コンビニを出て歩いてから、それから後の事がどうしても思い出せない。一体どのような経緯を経て、この世界にたどり着き、獣たちに追われるようになったのか……。
おれはその空白の時間を何とか思い出そうと、自身の記憶を辿っていたその時、前方から光が射し込むのが見えた。
「あれって森の出口なんじゃ……」
ひとまずは、この森を出ることが先決だ。俺は考えるのを止めて、早歩きで森の出口に向かおうとしたその時、アヤメに腕をつかまれる。驚いて彼女を見ると、さきほどまでの笑顔とは打って変わって、真剣な顔つきをしていた。
「ごめん、ちょっと待って。村に戻る前にちょっと注意する事があるからいい?」
「まず、この世界についてなんだけど、この世界は魔族を始めとしていろんな種族が共存をしているの」
いろんな種族、魔族以外となると……亜人とかそういったものなのだろうか?
「ただ共存とはいっても、魔族の中には自分達以外の種族を快く思っていない者も多くて……。悲しいけど迫害や差別、なんとこともザラにあるの」
魔族と他の種族。一体どんな種族がいるのか気になるところだが、恐らく人間も差別を受ける側なのだろう……。
「ただ人間自体はこの世界では希少だし、かつて戦争で争ったようなこともないから、そこまで深刻な危害は加えられないと思う。でも変な目で見られたり、嫌なことをされたりとかはあるかも」
そうして彼女は悲しそうに目を伏せる。人間と魔族のハーフである彼女もそういった仕打ちを受けているというのは、何となく想像がついた。
「だから、私からのお願い! 村に入ったらあんまり目立つような事はせず、なるべく私の指示に……」
「ずいぶんお早いお帰りね! それにしては魔石は見あたらないけど、半魔ともなると魔石の採取も満足にできないのかしら?」
振り返ると、そこには二人組の女性が立っていた。
そして彼女達の頭にもアヤメと同じような角が生えていたため、俺は思わず見入ってしまった。
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