魔族の世界でテレパシー! 〜異世界で冴えないフリーターがテレパシーの魔法を駆使して、大切な人達を救います〜
サツマイモ
第一章
プロローグ 始まりの出会い
俺は斎藤かける、19歳。職業はバイトを転々としている、いわゆるフリーターである。本来なら、今の時間もバイトをしているはずだったのだが、
――俺は今、おかしな世界の見知らぬ森で……見慣れない獣達に追いかけられていた。
走る、走る、森の中をただひたすらに走る。呼吸が乱れ、胸のあたりがムカムカした。
本当は、頭では分かっていた。こんな風に必死に逃げ続けても無駄だという事を。どうあがいても人間の脚力では獣たちにはかなわないという事を……。
でも……それでも、俺は死にたくないんだ……。俺は、頭に浮かび上がってくる不安をかき消すように、走るスピードを上げる。
ふと走りながら、手に持っている袋に目をやったが、入っているのはカップラーメンのみ。ポケットには財布とスマホ。どれも、この非常時に役には立たないものである。
どれだけ走ったのだろう。胸の鼓動が激しくなるつれて、吐き気も強くなる。けれど構わず走り続ける。
走りに走り続けて、森を抜けてその先に見えたものは……、
絶壁の崖だった。
思わず、笑ってしまう。
ハハハ……なんで……なんでだよ……
後ろを振り向くと、獣達がゆっくりと歩きながら近づいてくる。
俺は震える足に力を込めようとするが、上手くいかずに、その場にへたり込む。腰が抜けて立ち上がることが出来なきない。そしていつの間にか……逃げようとする気力さえ湧かなかくなっていた。
走っているときに感じた、激しい心臓の鼓動も、強烈な吐き気も、今はなぜか感じない。ふと目から涙が頬に流れ落ちる。こんな風に泣くなんて何年ぶりだろう。
もういやだ……。どうしてこんなことに……。どうして……どうしてどうして!!
そこしれない恐怖が、激しい怒りへと変わっていく。けれど、そんな燃えるような怒りも長くは続かずに、すぐに冷めていく。そして再び、恐怖という感情が心の中を埋め尽くしていくのだった。
――誰か……助けて
今の自分には、もはや祈ることにしかできない。
――神でも天使でも、何なら悪魔でも何だっていいんだ。誰か、誰でもいいから……助けて……
けれど、そんな風に祈っていても獣達は待ってくれるはずがない。彼らは距離を詰め、一斉に飛びかかろうとした……その瞬間、
一人の少女が、俺を守るように両手を広げて獣達の前に立ちふさがった。
黒い髪の少女は、獣達をジッと睨みつけている。
どれくらい経ったのだろうか。数秒……? 数分……? もはや時間の流れさえもよく分からなくなっていた。ただひとつはっきりと分かるのは、獣達が、一人の少女に圧倒されたのか、そそくさと去っていったことだった。それを見て、彼女はこちらに振り返る。
「大丈夫?」
「あ、ありが……」
俺はなんとか彼女にお礼を言おうとするも、未だに動機や息切れが激しく、おまけに呂律もうまく回らないため、まともに言葉を話すことができなかった。彼女も、そんな俺に気を使ってか、笑顔で「ゆっくりでいいよ」と声を掛けてくれた。
それから、小さく深呼吸を繰り返していたら、少しずつ呼吸も落ち着き、口も動くようになっていった。
そして、改めて彼女を見ると、頭に小さな角が生えていることに気がついて、思わず目を見張ってしまった。彼女もこちらの視線に気づいたのか一瞬目を伏せた後、えへへと笑いかけてきた。
「やっぱり珍しい? 私、人間と魔族のハーフなの!」
――それが、冴えないフリーターである俺と、魔族の少女との出会いであった
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