第2話

「特上品、ですか」

「そうだ。我々人類には貴重すぎるが・・・同時に手にも余る」

 満足げに笑う。

「と、言うと」

「そうだな・・・便宜上、『彼女』と呼ばせて貰おうか。彼女は、――不老不死に限りなく近い」

「それは」

「我々も多々実験を重ねた。いかような傷を負わせてもたちどころに回復、しかも外面・内面共に老化が見られない。製薬会社として、そして人類の発展を望む者として、これほどの材料は無い」

 ますます笑みを濃くする。

「だが残念なことに、我々の持つ設備では彼女を調べきれないことが分かった。そこでだ、信頼に足る専門機関へと輸送することになったのだよ」

「つまり、そこまでの輸送を」

「そういうことだ。宜しく頼むよ」

「承知しました」

「なら、すぐにでも取り掛かって貰おう」

 社長は壁の電話機を取った。

「――私だ。今すぐに検体を持って来い。――何、検査中?すぐに中止しろ。そんな者は向こうに任せれば良い。今は輸送が最優先だ、分かったな」

機嫌が悪そうに受話器を置いたが、すぐに笑顔を戻す。

「いやはや、出来の悪い部下を持つと苦労するものだ。連中、臨機応変という言葉も知りやしない」

「ご苦労様です」

「さて、報酬の話を。半額は前払い、残りは完了後に。これで宜しかったかな」

 懐から小切手を取り出すと、万年筆で殴り書く。十年は遊んで暮らせる額だ。

「随分と期待なされているようですが」

「正しくその通り、腕利きの人間とは末永く関係を持っていたい。さ、検体の所まで案内しよう」

 社長の後に続くと、護衛が四人、私を取り囲んだ。


 十五分ほど経った頃、私たちは地下にいた。

「中々凶暴なのも多いんだ。こうもしておかなければね」

「はあ」

 廊下の左右には、無数の鉄格子が続いている、さながら刑務所だ。――随分と静かなものだが。

「さて、着いたぞ」

 その突き当たり、一番頑丈そうなそれの中に、『彼女』は居た。

「・・・これは」

「どうだ、見事なものだろう」

 

 年は、十代半ばといった所か。今にも崩れそうな程痩せ細った身体とボロボロの布切れは、人間としての扱いをまるで感じさせない。

「顔を上げろ」

 社長がそう言うが、彼女は従わない。

「・・・全く、仕方が無い」

 僅かに笑みを浮かべながら、社長は銃を抜いた。

「また、『これ』が欲しいのか?」

 びくりと肩を震わせた彼女は、然し顔を上げようとはしない。

「ハハ、相変わらず気丈な娘だ」

 銃声。彼女は声を震わすが。

「見たまえ。肩口だ」

 血肉が飛び散り、強力なマグナム弾で抉られた傷口が――うっすらと光っている。

「・・・回復を」

「そうだ・・・実に見事だ」

 恍惚に近い表情で、社長は言った。

「これぞ、神秘だ」

「全くです」

 私は社長の手から、銃を掴み取る。

「お?」

 良い銃だ。スミス・アンド・ウェッソン・M27。『ザ・357マグナム』の名を戴く、原初にして至高。それを、社長の頭に向ける。

「お、おい・・・何を」

 躊躇など有りはしない。――自分は、正義なのだから。

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ツェントラール'70 猫町大五 @zack0913

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