アフリカ人の装い

 パリの人は基本的に服装が地味だ。特に冬などはみんな黒づくめになるので暗い景色がさらに暗くなる。

 春から夏にかけて身軽になり、ようやく人の服も色づき始めると街の雰囲気も明るくなるのだが、この季節に一番華やかになるのは、アフリカ人、特に女性の装いである。


 アフリカの女性は大柄で豊満な人が多い。特にベビーカーを押しながら背中にも赤ちゃんをくくりつけているようなアフリカンママたちはたくましく頼もしい。このママに叱られたらどんな子でも言うことを聞きそうな、それでいて何でもどっしりと受け止めてくれそうな。大きな腰をゆすりながら通りを闊歩する彼女らは体つきも佇まいも、色んな意味で迫力がある。


 夏になって通りで目を楽しませてくれるのは、こういったアフリカ人女性たちのサマードレスだ。

 

 アフリカの布は専門店があったり、たまに特殊なマルシェに出ていたりするのだが、デザインがとにかく個性的である。

 色使いはくっきりはっきりとした原色の組み合わせ。対照的な色のコントラストが鮮やかだ。模様も細かい柄ではなく、大胆で大ぶりなものが多い。モチーフは太陽だったり、花だったり、幾何学模様だったり色々である。図柄そのものは大きいのだが、よく見ると細かいところまで描き込まれ、モチーフが活きるように色の配分が工夫されている。

 この大胆なデザインは、日本の着物や帯のそれにどこか似ているような気がする。絵ではなくて、あくまでも連続したモチーフの派手な布だが、柄によってはこれで和服を作ったら面白いんじゃないかと思うのもある。


 この布を使って、アフリカの女性たちはオーダーメイドでドレスを作るそうだ。


 後ろから見ると、うなじから背中にかけて大きめに開き、肩はパフスリーブっぽく膨らませてあったり、ヒラヒラした装飾がついていたりする。デコルテがきれいに見えるようにカットされた胸元から胴の部分は体のラインにピッタリと沿うようになっていて、腰のところで一気にボリュームが出る。そのままくるぶしぐらいまで裾があるので、腰の位置から足元までが長く見える。

 なんと例えればいいか分からないが、コカ・〇ーラの瓶をボンっと膨らませたようなラインだと思えば近いだろう。

 これに同じ生地のターバンを巻いて完成である。頭にもボリュームが出るのでドレスに負けていない。全体のバランスがとてもいい。


 さっきも言ったように、彼女たちはけっしてスリムな方々ではない。しかしこのドレスを着たときのラインは女性的でとてもきれいだ。お世辞にもウエストがくびれてるわけではないのに、胸と腰の部分が上手く仕立ててあるのだろう、胴回りが締まって見える。デコルテもきれいだが、胴と腰の切り替えが特にきれいで、お尻のせり出したアフリカ人の体型を活かしてある。自前の体で作るオーダーメイドだからコルセットもパニエも要らない。それでこのシルエットが出せるのはこの人種だからこそだろう。


 そういう意味では肌の色も同じで、この衣装を着るには強い原色を身にまとっても負けない褐色の肌が必要である。逆にいうとアフリカの布には中間色や淡い色合いのものがない。アフリカ人とひと口に言っても肌には濃淡がある。彼女らは自分の肌色を知ってそれに合わせた色やデザインを選ぶのだろう。こういう色彩のセンスがいい。これは男性も同じで、濃い褐色の人が蛍光色のようなピンクや黄色のTシャツを着ているととてもよく似合う。


 色や柄のせいか浴衣のように見た目に涼しいわけではなく、正直にいうと暑さ倍増するような派手なドレスだ。でもこれを見るといかにも夏本番という感じで気分が明るくなる。肉づきのよい体をオーダーメイドのドレスで包み、自慢するように堂々と歩くアフリカ人女性を見ていると、痩せていることだけが美しいのではないと思う。


 装う楽しみを満喫する女たちの健康的な明るさは夏の太陽とよく似合う。このドレスを目にすることもまた、僕にとっては夏の風物詩のひとつなのである。

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