犬とオオカミの間
パリの空は気紛れである。朝は晴れていたのに昼には雨が降っている。雷雨だと思っていたら嘘のように太陽が差す。ひどいときは二時間おきに天気が変わる。パリの人が気紛れなのもこの気候のせいではないかと思ったりする。
そんな移り気なパリの空だが、たまに見とれるようなきれいな色を見せてくれる時間がある。それが「犬とオオカミの間」。黄昏時、夕暮れを形容する言葉だ。そこにいるのが犬かオオカミか見分けがつかないほど暗い、という意味らしい。今のように電灯もない時代は日没ももっと暗かったんだろう。
今しがた沈んだばかりの陽の残光が、紅色に西の空を照らしている。そこへ包み込むように群青の夕闇が迫ってくる。紅色と群青、二つのまったく違う色がうすい雲に溶け合い、さながらカンヴァスを彩るように淡いグラデーションを描く。
一日の最後の光とはなぜここまで鮮やかなのだろう。その光は、一つの名前では言い表せない、複雑な色をしている。強いて言えば、からくれないという色に近いだろうか。それが少しずつ空に滲むと、今度はマゼンタを薄めたような色へと変わる。いずれにせよ、自然のパレットで組み合わされる色は形容しがたく、どんな高級な絵の具も敵わない気がする。
冷たさを帯びた濃い青がゆっくり浸食してくると、その部分は薄紅色とも紫ともつかない微妙な色を滲ませる。そしてだんだん青に呑み込まれ、淡い色はさらに淡くなり、消えていく。
このつかの間だけ空に描かれる水彩画が、犬とオオカミの間だ。
犬は昼間を象徴している。人を導いたり守ったりするからだ。反対に夜のオオカミは不安や悪夢などを象徴している。
昼と夜の心情をそれぞれの動物に例えて加味されている。上手い表現だなと思う。
ちなみにこの空はしょっちゅう見ることはない。とても晴れた日の終わりでないと拝めない。そして冬の空の方が色が映えるような気もする。
薄紅の夕暮れは街の喧騒を覆い、何事もなかったように一日を終わらせる。些細なことでささくれ立った心も、この空が包み込むように穏やかにしてくれる。
だから、この空に出くわした時はつい、光がなくなるまでぼんやりと見とれてしまうのだ。
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