第2話 ハイジャック
——2050年1月1日土曜日の正午、レストポレス前哨基地
ここは、世界の反社会勢力の巨大組織の基地。軍事兵器や重要機密などが隠されている場所。だが、組織の名前や詳細は未だに不明。その中には、政治的権力を持つ者もいれば、世界有数のCEOや研究者、高いIQを持つスーパーエンジニアもいる。
表の世界とは裏腹にアジアの中東戦争やアメリカの南北戦争などに軍事的に力を貸したり、世界同時多発テロを引き起こして膨大な利益を得ている。それでもなお各国の政府には明かされずに体裁を保ち続けている。
そして、とある会議室で世界の重鎮達が円卓を囲い、一人の人物に焦点を当てる。
「ここに集まってくれてご苦労」
ボイスチェンジャーで自信の音声を低くなるように加工し、より高度に再現されたAR技術を使ったプロジェクションマッピングによって、顔を隠すように黒いフードコート姿を映し出している。
「予定通り、全員席に着いているようだ。では早速議題を進める」
銀髪の若い青年の執事からテーブルの上に全員分の企画書が配られる。
「君達に渡した企画書は、個人のそれぞれの力量に合わせて提示したものだ。それ以外は、報奨金や規約などを詳細に載せてある」
全員が一斉にその中の内容に目を通す。そして、落ち着いたのを確認してから、話を切り出す。
「単刀直入に言う、こうして集まってもらったのは、とある人物を殺すための手伝いをしてもらう。当然、それなりの報奨金はつけるつもりだ。ただ、その人物の相手をするとなると世界中の国を敵に回さないといけない。生憎、セキュリティーが固くて隙がないのが、残念なところだが……」
執事にプロジェクタースクリーンに、映像を映し出すように指示する。
「これがターゲットとなる人物だ」
スクリーンに映し出されているのは、まさしく世界が注目するIT企業のCEOの18歳の青年だ。映像を切り替え、次の画面に移行する。
「ここに映しだされているのは、その人物の自家用のプライベートジェット、これに乗って来月にはニューヨークへ渡航する。そこで、ここにいる者達で彼のセキュリティーを掻い潜って、コックピット内に罠を仕掛け、高度一万メートルのところで、ミサイルで撃ち落としてもらいたい」
「それは本気か……!」
一人の発言からそれを皮切りに周りが騒めきだす。
「単なるジョークやお遊びではない。これは第三次世界大戦の始まりの一端に過ぎない。君達が私に加担している以上、契約通りに後戻りはできない。もし、それを拒むようなら容赦なく首を切る。経営者が事業を進める時点でリスクを背負うのは当然のことだろう」
当事者の発言により、周りが沈黙する。
「それにここにいるのは、私が集めた優秀な人達だ。そう簡単に君達が堕ちることはない。そうでなければ、ここには呼んでない」
スクリーンの映像を落とし、話を続ける。
「計画の詳細については、私の隣にいる執事に従うといい。彼が私の代わりに軌道修正を行なってくれるだろう」
そう言って、この場から姿を消し、執事に仕事を委ねた。
『Greatest World(偉大なる世界へ)』
——自家用プライベートジェットを運航して二時間が経過した。
現状は維持しているが、肉体的に負担がかかる。ミリタリチャーターには、特に問題となるものは映し出されていない。
このまま飛行して、ニューヨークの空港に着陸するとなると、エンジンの燃料漏れからブレーキが効かなくなるため、胴体着陸で対応しなければならない。
「天野様、既に配備は整いました」
「ご苦労様」
向こうでは、司令塔と連絡を取り合い、緊急の着陸準備を進める中、警察や消防車が既に配備してくれている。
「私がもっと注意していればこんな状況には……」
「リディアのせいじゃないよ。これは僕の失態。だから自分を責めないで欲しい」
無線機の向こうから、彼女の悔しい思いが伝わる。ただ、ここで起こったことは何か裏で陰謀を企てているようにも思える。コックピット内の有毒なガスや左翼のエンジンの燃料漏れがそれを象徴するかのように僕の命を狙っている。
もし、機内での事故が計画通りだとすると、何を目的に狙いを定めているのだろうか?僕のセキュリティーを掻い潜ってまで、命を脅かす理由というのは……。
「今回の事件に関しては、背後に大きな何かが繋がっている。到着後、FBIと連携し、捜索する必要がある」
「それに関してですが、現在、航空整備士の中に不審な人物が紛れていたという情報がありました」
やはり、不審な人物が空港内に紛れていた。だが、思い当たる節が見つからない。
「向こうで引き続き調査をお願いする」
「かしこまりました。何かありましたら、すぐにご連絡ください……」
そして、彼女との無線を切ろうとしたその直後に、ミリタリチャーターに不審なものが紛れて、ものすごい勢いでこっちに迫ってくる。
「ミサイル……!」
すぐに機体を左に大きく旋回し、進路から外れて間一髪で逃れるが、後方からのミサイルの追跡から逃れられない。
「まずい……!」
一際操縦桿が重く、旅客用の機体であるため思うように操作ができず、かわすので精一杯だ。
「ごめんリディア、ニューヨークに無事には辿り着けそうにない。後のことは君に任せるよ」
そうして、ミサイルが軌道を変え、コックピットのフロントに姿を現し、自家用プライベートジェットを撃墜する直前まで迫った。
「天野様、返事してください!応答してください……!」
ここで僕の時間が止まり、耳元で彼女の叫ぶ声が後をたたない。
——だが、その叫び声を聞くと、死に際に心の中で不思議と別の感情が込み上がってくる。それを理解するのに時間はそうかからなかった。
なぜなら、少しずつ今まで積み上げてきたものがここで頓挫されるのは本望ではないから。会社を起業して、ここまでのしあがってこれたのは、いつか世界が救われた未来を実現するために、時間と身を削って社会に還元してきた。
本当にこれで良かったのだろうか?今一度自分に問いただし、しっかり見つめ直して、心を研ぎ澄ませる……。
やっぱり——僕は諦めが悪いようだ。こんな状況になってもそれに抗うように頭が働いている。体が動いている。手足を伸ばして、操縦桿を握り続けている。全身に生きる力を沸き上がらせてくれる。
だから、最後まで全身全霊に力を振り絞り、吊るされた一本の
気持ちを強く持ち、操縦桿を握り締め、右に大きく旋回し空中で軽快なフライトを見せる。
「クッ……!」
歯を食いしばり、機体に体が持ってかれないように体の軸を安定させ、ミサイルを紙一重のところで回避した後にATCと連絡を取る。
「The entire plane will be submerged in the sea.In the meantime, let's get out of here!(このまま、機体ごと海へ水没させる。その間、ここから緊急脱出する!)」
ATCとの予定を急遽変更し、機体を斜め下に傾け、機体の飛行速度を上げている間に緊急脱出用のパラグライダーを取りに行くことにした。
しかし、相手の行動を先読みしたかのように、ミリタリチャーターからもう一基のミサイルが現れる。
「時間がない……!」
早急にコックピットから離れ、急いでパラグライダーを装置し、入り口の扉を開け、出ようとするが。
突如、目の前に戦闘機が現れ、扉から黒いフードコート姿をした人物が、ハンドガンを持ち、頭に標準を定める。
「チェックメイトだ。天野英作」
引き金を引いて、弾丸を放ち、すぐさま頭の前まで距離が縮む。
その瞬間、視界が光に包まれて、陽光が体全体を覆うように飲み込まれてしまう。
——しばらくして、彼が目を覚まし、咳き込みながら周りを見渡す。
「ここはどこだ……?」
視界の端に見えるのは、
檻の外側には、中央に大きな一本の石の支柱があり、ここ以外にも支柱を中心に鉄の檻が四方八方に広がっているが、支柱の裏側は覗こうにも、ろうそくの灯りだけでは暗くて何も見えない。そして、支柱には"ハトラ文字"みたいな字体が掘り起こされ、その周りには、白色で描いたメビウスの環のような幾何学模様が床に四方向に記されている。
自分の着ている服装に焦点を当てると、元々着ていたスーツとは違い。汚れたボロい布の服とズボンに着せ替えさせられ、六桁の番号と見たことのない言語が刻まれたブレスレットを右手首にはめ込まれている。
床は叩いてみると周りに響きやすく、かなり目立つ。人のかすか声や呼吸している音も聞こえてくる……。
「目は覚めた……?」
突如、耳心地のいい優しい声が自分の鼓膜に伝ってきた。檻の中が薄暗くて全然気がつかなかったが、どうやらもう一人自分の檻の中に別の人がいた。外見は、ダークブルーのストレートの長い髪をしたミステリアスな雰囲気を漂わせる美しい女性。雪と同じくらいの透き通った白い肌をして、りんごのような赤い頬。着ている服は、ぼろぼろの茶色いワンピースだが、その上からくっきりとした膨らみがあり、スタイルはかなり良い。
「やっと気づいてくれたね」
彼女は「ふふっ」と声を漏らして、笑みを浮かべる。
「どうして君もこの檻の中に……?」
「あなたは何も知らされてないの?」
何も知らないままこの中に放り込まれているため、状況は掴めていない。
「そうだね。さっきまでは飛行機から飛び降りようとして頭を銃で撃たれたときにそこから記憶がなくて、知らないうちに何故かこの檻の中に閉じ込められたからね」
その話を聞いて彼女は頷くが、あることに首を傾げる。
「事情はなんとなく分かったけど、ヒコウキって何のこと?」
彼女が純粋に飛行機について知らないのは、少なくともこの檻の中にずっと閉じ込められていたということだろうか?
「飛行機というのは、空中を飛ぶ乗り物のことだけど、イメージは湧くかな?」
彼女は頭の上で想像を膨らませてから、関心したような表情をする。
「私の知らない間にそんな乗り物ができたんだ。今まで見たことある乗り物は馬車ぐらいしかなくて」
彼女の発言からすると、ここは中世の時代を再現した場所なのかもしれない。
「本題から逸れちゃったけど、私は元々ここよりも離れた小さな村に住んでて、ここに来たのは15歳を過ぎても魔法が使えないのが原因でここの監視兵に連れてかれた」
魔法という言葉は全く耳にしたことはないが、話の文脈からして空想の話に出てくるような感じがした。でもそれが、この檻の中に収容される理由に直接繋がるのだろう。
「君が言った魔法について詳しく聞かせてもらいたい」
「少し話が難しくなるけど……」
彼女に詳しく聞くと、この世界は僕のいた世界とは全く違い、"魔法"という能力が人間には備わっていて、あらゆる超常現象を人間の手で引き起こせるということ。それが仕事や日常生活で欠かせないものとなっている。
15歳を過ぎても魔法が使えなければ無能力者の烙印を押されてから、この監獄の中に収容され、一生奴隷として従事する。また、途中で使えなくなっても収容の対象とされる。
生憎、無能力者が魔法が使える有能力者に対抗する術がなく、ここでひそかに過ごすしかない。
「私が話せるのはここまで、何か分からないことがあれば私に聞いて」
これまで彼女の話を聞いて分かったことは、ここが僕がいた世界とは別の世界ということ。だとすると、彼女の認識では僕がこの世界の人間というのも無理な話ではない。実際に別の世界へ転移するような超常現象など人に黙視されるだけだろう。
「考えごと?」
「ごめん……特にはないかな」
何か考えるとき、周りが見えなくなるのはいつもの癖だ。
「そういえば、あなたの名前はなんて言うの?」
そう聞かれた彼は、自分の名前を彼女に告げる。
「エイサク……すごくいい名前」
誰かにそう言って褒めてもらったことはないが、純粋に嬉しい。
「私の名前は、"ソフィア・マリアーノ"気軽にソフィアで呼んでいいよ」
「よろしく、ソフィア」
お互いが自分の姓名を伝え合う。
——十年前、ダークブルーの長い髪をした女の子と出会い、その後に交通事故で亡くした。だが、その面影がここにいる彼女とどこか似ている。
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