DK、JKになる
アキナは、早めに起床し、シャワーを浴びて、身支度を整える。
初めて着る女子の制服には違和感しかなかった。
改めて自分の部屋を見渡すと、風景に違和感を覚えた。
学校を休んでいた間に、少しだけ、背が縮んだせいだろう。
思い出したように、昔の服を引き出しから取り出し、体に当ててみる。
丈も腕の長さも肩幅も全然合わなくなっていた。
ユキトはもっと小柄のはずだったはずなので、まだまだ体が小さくなるだろう。
手足は少し小さくなり、肌は白くなり、かなり女性的になっているのがわかった。
女子の制服を着ても男性が女装しているようには思われない感じだった。
大きな旅行バッグを取り出し、男の頃の私服を詰め込む。
大きすぎて履けなくなった靴も何足か詰め込んだ。
ちょっとした嫌がらせの意味も込めて、もう使わないであろうエロ本やエロDVDも忍び込ませておいた。
流石に他人の下着はいらないだろうと思い、ゴミ箱に放り込む。
ユキトのためというよりも、過去の自分との決別のためだ。
玄関前に旅行バッグを運び出すと、クラス委員長のイオリがやってきた。
イオリが言う。
「アキナ、おはよ」
アキナが言う。
「おはよう、イオリ。どうしたの?」
イオリが言う。
「いきなり女子として一人で学校へ行くのはハードル高いかな思って、迎えにきたの。
制服にあってるよ。可愛い」
アキナが言う。
「……ありがと」
イオリが言う。
「すごい荷物だね? どうするの?」
アキナが言う。
「アカサキにあげるの。昔の服とか靴」
イオリが言う。
「そっか、そういえば仲よかったよね。連絡取ったの?」
アキナが言う。
「うん、そしたら私服交換しよって言われたの」
イオリが言う。
「それは名案だね。
今日荷物たくさんあるでしょ?
すこし持つよ?」
アキナが言う。
「え? いいの?」
イオリが言う。
「当たり前じゃん、女子になってるんだよ?
男子のつもりでいると怪我するからね?」
アキナが言う。
「そっか……、じゃお願いしようかな」
アキナは、イオリに体操服の入ったカバンを渡そうとする。
イオリが言う。
「そっち? こっちでしょ?」
イオリは、教科書などが詰まったカバンを手に取る。
アキナが言う。
「いいの? 重いよ?」
イオリが言う。
「大丈夫、じゃ、いこっか」
二人は、出発した。
学校近くの駅前で、アキナは見慣れない男子学生に声をかけられた。
アキナは、昔の面影が残っていたのでその男子生徒がユキトだと気づいた。
ユキトは女性向けのデザインの大きな旅行バッグを持っていた。
ユキトが言う。
「カワモト、こっち。
ずいぶん可愛らしくなったね。
制服にあってるよ。
委員長も一緒なんだ。
おはよ」
イオリが言う。
「おはよ、アカサキ」
アキナが言う。
「……おはよう」
少し前まで、見下ろしていたはずの相手が、今は少し見上げる状況だった。
まだ、男子にしては華奢な感じもするが、すぐに体格も大きくなるだろう。
ユキトが言う。
「早速だけど、荷物を交換しよ?
男子が持ってると恥ずかしいデザインのバッグだから。
これ、バッグごとあげるね。
カワモトのバッグ男性向けのデザインだからそのバッグもらうから」
ユキトはそう言うと、アキナに自分の旅行バッグを渡し、
アキナから受け取った旅行バッグを駅のコインロッカーに詰め込んだ。
アキナも、旅行バッグを駅のコインロッカーにしまい、イオリに預けていた荷物を受け取った。
イオリが言う。
「あとこれも。アキナが着てた制服類」
ユキトが言う。
「ああ、助かる。
今の制服、サイズが合わなくなってたから、学校で着替える。
ありがとね」
3人は、学校へ向かった。
校門を通過すると、イオリがアキナに言う。
「下駄箱ね、アカサキと交換になってるから、私が案内するね。
じゃ、アカサキまたね」
イオリはアキナの手を引いて、女子の下駄箱に案内した。
「ここが今日からアキナの下駄箱だよ」
アキナが言う。
「ありがと」
アキナが、下駄箱を開けると、ユキトが使っていた上履きが、きれいに洗っておいてあった。
まだ足が入らないサイズなので、持ってきた上履きを出して、履き替えた。
いずれは、今の上履きも大きくなって履き替えるのかと思うと、少し切なくなった。
次は、女子のロッカールームに案内された。
これもユキトと交換だった。
体操着などの手荷物を入れ、自分の鍵をつけた。
その後、アキナはイオリに手を引かれ、教室に入った。
視線がアキナに集まった。
イオリは、気にせず、アキナの手を引き、イオリの席へ向かうと、荷物を置き、アキナの手を引いてアキナの席に連れて行き、座らせて、そのまま、守るように隣に立った。
アキナが言う。
「なんか、気を使わせちゃってごめんね」
イオリが言う。
「いいよ、私が好きでやってるんだから」
しばらくイオリとおしゃべりをしていると、予鈴がなった。
イオリが言う。
「休み時間になったら、私の席にきてね」
アキナが言う。
「わかった。ありがと」
イオリが自分の席に戻って行った。
入れ替わるように、制服を着替え直した、ユキトがやってきた。
少し大きめなのか、腕足共に裾を折りたたんでいた。
ユキトが男子のように声を掛ける。
「おっす、カワモト。今日からまたよろしくな」
イオリが言う。
「うん、よろしく。アカサキ」
ホームルームが始まり、教師がアキナのことをみんなに説明し、アキナは挨拶をさせられた。その後は、普通にホームルームは終了し、1限目の授業もあっというまに終了した。
アキナは席を立つと、皆の視線を集めながら、イオリの元に行った。
そこには、イオリのグループの女子が3人待ち構えていた。
リホが言う。
「カワモト、可愛いね。すでに完全に女子じゃん」
ユカが言う。
「うん、可愛いよね。でも、まだもっと女子っぽくなるんでしょ?
アカサキも日々、男子ぽくなってるし」
エリが言う。
「ねーねー、これからはさ、アキナって呼んでもいい?
イオリのグループに入るんでしょ?
私も下の名前でよんでよ」
リホとユカが言う。
「「私もー」」
アキナが言う。
「ありがと、よろしく」
イオリが言う。
「じゃ、アキナの女子トイレデビュー済ませちゃおうか」
そう言うと、イオリはアキナの手を取って、女子トイレに向かった。
リホたちも嬉しそうに同行する。
ただお喋りしながら行列に並んで、トイレをすまし、鏡の前で身だしなみを確認して、みんなと合流するだけだ。そのあとはまたお喋りをして楽しめば、休み時間が終了するのだ。
アキナはイオリのグループチャットに招待され、グループのみんなと連絡先の交換をした。
昼休み。
アキナは、イオリ達と一緒に学食へ行った。
ユキトが、以前から仲の良い女子グループに混ざって昼食を楽しんでいるのを見かけた。そのグループの一人、ユカリ=タカモリとは隣の席に座り、特別に親しげに話していた。
エリが言う。
「アカサキとタカモリってさ、女子同士だった頃から妙に仲良しだったんだよね。
付き合ってるって噂もあったし。
今じゃすっかり普通のカップルにしか見えないよね。
あれ絶対付き合ってるよね」
ユカが言う。
「アキナってアカサキと仲良いのでしょ?
どんな話してるの?」
アキナが言う。
「パソコンのゲームだよ。一緒にネトゲしてたの」
リホが言う。
「ゲーム友達だったのか。どんなゲーム?」
アキナが言う。
「『YXR』っていうの。MMORPG。時間かけてガッツリプレイするコアな感じ」
リホが言う。
「別の自分になれるってやつか、アキナは女子キャラ使ってたでしょ?
アカサキは男子キャラ使ってた?」
アキナが言う。
「……うん」
リホが言う。
「やっぱりね。イオリに聞いてるよ。
もう男子のフリする必要がなくなってよかったね」
アキナが言う。
「……そうだね……ありがと」
イオリがスマホで調べながら言う。
「面白そうだね。おしゃべりとかお洒落も楽しめるのか。
先週からボイスチャット機能が実装されたんだね。
グループチャットするより楽しそうだね」
アキナが言う。
「イオリは興味あるの?」
イオリが言う。
「うん、難しいコンテンツは無理そうだけど、仲間内でまったり楽しむのには良さげだよね。試しにやってみようかな。アキナの招待コードってやつ送ってくれる?」
アキナがスマホをいじりながら言う。
「送った」
イオリが言う。
「ありがと。アキナはどんなキャラ使ってるの?」
アキナが言う。
「アキナ=キサラギって言う名前の支援職。ヒーラーしてる。
でもジョブは自由に変更できるからどれ選んでも大丈夫だよ」
イオリが言う。
「そっか。
実名つかってるのか……って、その頃は実名じゃなかったんだね。
じゃ、私は、イオリ=キサラギって名前にしよ。
とりあえず盾と剣を使うのにしよかな。アキナと相性良さそうだし。
結婚はしてる?」
アキナが言う。
「アカサキとしてたけど、別れたよ。ちょっと喧嘩してね。
ギルドにも入ってないよ」
イオリが言う。
「なら私としよ? 女子キャラ同士でもOKだよね?
特典があって便利みたいだし。
ギルドは私が作るよ」
アキナが言う。
「わかった。ゲームの準備できたら連絡頂戴?」
イオリが言う。
「うん。楽しみ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます