詞の手紙

『親愛なる友人へ。

 以前、宇宙の始まりを君は話してくれたね。ビッグバンの発生により、無から有が生まれたことは知っていたけど、では何故ビッグバンが生まれたのかを尋ねられた時、僕は困ってしまった。

 無から有が生まれるって、どういうことだろう。難しすぎて、僕はそのことに疑問を持つことすらなかった。

 君はこう言った。宇宙は真空から生まれた。

 真空というと、布団圧縮機のような、空気がない状況を想像したんだけど、君は「無ではない」と言った。真空はざわめいている。元素よりずっと小さい物質がぶつかり合う、賑やかしい空間なんだと。

 そして、それらは複数存在し、個性も存在する。そして、その中の小さな物質は、干渉することも可能なんだと。

 僕らが住まうこの世界がどこまでも豊かに満ち溢れているのは、別の真空からやって来た小さな物質が偶然にもここにやって来たからで。

 それもお互いに全く違う性質を持っていたから、爆発を起こしたのだと。

 ただ、これは僕らの感覚では理解することは難しく、結局は「そういうもの」だと思って考えるしかないと、君は言ったね。

 あることだけはわかっているのに、内情はさっぱりわからないーー。


 けれど寂しい宇宙は、素敵な友人によって、美しい世界へ変化した。

 激しく燃えて輝きながら。


 僕の世界もそうだった。

 何も無い、何も誇れない僕の世界に、君という人が現れた。そして今まであった訳ではなく、誰かに貰ったものでない僕だけのものが、ある日突然生まれたのだ。

 それからはなんて、可能性に満ち溢れた世界だっただろう。

 

 きっともう、僕は君と話すことも出来なくなるだろう。

 でも、僕はずっと、君を最高の友人だと誇り続ける。

 君にとっても、僕は最高の友人だと信じている。

 誰よりも優秀で、誰よりも孤独だった君。僕も、君を理解出来たとは思えない。真空のような人。

 でもどうか、僕のかけがえのない大切な友人だということだけは、忘れないで』

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